5 月18日金曜日の夜。15歳の娘がようやく眠りについた後、ディードラ・ヴァンネスさんはその日初めて自分も涙を流し、人生で一番長かった一日を振り返った。

その日の朝、娘のイザベル・レイマンスさんを学校まで送り、別れて30分ほどしたところで携帯電話から着信があったとき、忘れ物でもしたのだろうかとヴァンネスさんは思った。
ヴァンネスさんがFacebookに投稿しその後拡散された、心の締めつけられるような手記によると、その日はいつもと変わらずに始まった。イザベルさんは「楽しそうで、週末がくるのを喜んでいた」という。
ヴァンネスさんは学校の前で娘を車から降ろすと、愛していると伝え、元気でよい一日をと言って送り出し、帰宅して「仕事にとりかかろうと」した。
だがそのすぐ後に電話をかけてきたイザベルさんの声は、かろうじて聞き取れるくらいだった。
後ろで銃声が聞こえた、とヴァンネスさんは書いている。このまま電話を切らないでと言うと、イザベルさんは「他にも家族に電話したいけど手元に電話がない子がいるから」と言い、電話は切れた。

ヴァンネスさんは「ただその場に立ちすくんで、次にどうしたらいいのかわからずにいました」。そして、自分の娘が撃たれたのか生きているのか知るためにとにかく駆けつけた、胸がつぶれるような時間の様子を伝える描写が続く。
「学校の近くまでくると、車は立ち入り禁止とされ、親たちは車を降りて学校の方向へ走っていきました。校舎に近づかせてもらえないのはわかっていたので座って待ち、言葉を交わしながらもただただ恐ろしくてどうにかなりそうでした。しばらくそうしていると、いてもたってもいられなくなり、学校を目指して歩き出しました」

ヴァンネスさんは夫や他の家族に、イザベルさんに電話しないよう伝えてあった。着信して音が鳴ったりすれば、構内で銃撃を続ける犯人に隠れているところを見つかるのではないかと恐れたからだ。
夫と二人で歩いて校舎の近くまできたところで、娘から電話が入った。無事で、警察に事件の様子を聞かれているという。警察によると、イザベルさんが美術の教室にいたところ、同じ高校の生徒である犯人が入ってきて発砲したのだった。
「娘は美術の授業が好きで、年度末のプロジェクトが完成するのを楽しみにしていました。娘は作品に集中していたので最初の発砲にはほとんど気づかず、何の音がしたのかよくわからなかったようです。すると突然、生徒たちが叫び声をあげて走り出しました」。ヴァンネスさんはイザベルさんの体験をこう書き記した。
イザベルさんは他の生徒7人と一緒に備品用の小部屋へ駆け込み、ドアをブロックしようとした。
イザベルさんによると、重いものをドアの前に動かそうとしていると、犯人が「びびれ、てめえら!」と叫ぶのが聞こえ、備品室に向けて銃が撃ち込まれた。中にいた8人のうち3人が撃たれ、2人はその場で亡くなった。
「備品室に隠れていた8人のうち3人が撃たれ、2人はその場で亡くなりました」

犯人が犠牲者をあざ笑い、教室で「いぇーい!」と叫びながらさらに発砲するのをイザベルさんは聞いた。
この時点で、教室のあちこちで携帯電話に着信を知らせる合図が鳴っていた。イザベルさんによると、犯人の生徒は備品室に隠れている生徒たちに向かって、「おまえの電話か? こっちに来て出たいか?」とあざけるように言ったという。
命を落とした3人のクラスメイトのかたわらで30分ほど隠れていると、ようやく警察が到着した。
イザベルさんはワシントン・ポスト紙の取材に対し、犯人が拘束されたと聞いての心境などを静かに淡々と話している。
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保護された後、イザベルさんを含む生徒たちはバスに乗せられ、待っていた家族と再会した。その際イザベルさんは、バスのドライバーの女性から自分の娘がどうなったか知っているか聞かれたという。
イザベルさんは教室を抜けて外へ出る際、ドライバーの娘さんが床の上にいるのを目にしていた。
「ドライバーの女性は、わが子の安否がわからない中で、イザベルが安心できるよう心を尽くしてくれました」とヴァンネスさんは記す。

その日の午後は、混乱と悲しみにもやのように包まれた中でゆっくりと過ぎていった。大切な人の安否の知らせを待ち続ける家族もいた。追悼の集まりに参列する人もいた。メディアが事件を伝える。ふと気がつくと、ヴァンネスさんはどこかで足を傷つけ、出血していた。
「2階の部屋で座っていると、娘は明らかにショックを受けた状態で、ぼんやり部屋を見回してから視線を落としました」事件後、家に帰ってきた直後のイザベルさんの様子をヴァンネスさんはそう記す。「私のほうを見て、これ、お気に入りの服だったのに血がついちゃって…と言うと、涙があふれてきました」
18歳になる息子、カムさんの親友が銃撃で亡くなっていたことがのちにわかった。いとこも亡くなっていた。
「子どもの安否がわからなかったご両親たちは、10時間待たされたあと、子どもの写真を持って集まるように言われたといいます。写真で照合して正式に伝えられたそうです。10時間ものあいだ、自分の子が無事かどうかわからないままじっと待っていたときの気持ちがどんなだったか…」
犠牲者の名前を聞いたイザベルさんは泣き崩れたという。
「娘はシャワーを浴びるのがこわいと言いました。シャワーを浴びて今日一日を洗い流すと少し気分が変わるかもしれないよ、と答えました。娘は意を決して、さっとほんの短い間だけシャワーを浴びてきました。タイルの床に水が当たる音で、備品室に隠れているときに聞こえた音を思い出した、と言いました」
イザベルさんがようやく眠りについたのを見届けると、ヴァンネスさんはその日のできごとを書き記し、「人生で一番長かった日」として投稿した。

2日後の夜、ヴァンネスさんはBuzzFeedに対し、自分の投稿が「それほど多くの人の心にふれることになる」とは思いもしなかったと答え、多くの人からの反応に「圧倒されている」と話した。
「悲しいことですが私もこれまで、こうした話を繰り返し見てきました。でも自分自身が体験するのはまったく別です。ニュースで伝えられる話のその先を知ってもらうことは大事なのではないか、と私たちは考えました」。ヴァンネスさんはそう話す一方、自分と自分の体験に注目が集まることは望まない、と強調する。「これは私の娘の話です。そして勇気ある態度をとった子どもたちみんなの話なんです」
ヴァンネスさんの投稿はこちら。
この記事は英語から翻訳されました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan