「私は正真正銘、都会のネズミだ」文明崩壊級の大災害に備えるサバイバリストたち

    何人かの黒人サバイバリストたちを訪問し、彼らの世界を体験してみた。Netflixで放映されているBuzzFeed Newsオリジナル番組「世界の"バズる"情報局」でも動画を観ることができる。

    まず言っておかなければならないことがある。私は正真正銘、都会のネズミだ。

    私は英国とナイジェリアで育ったが、子供のころからどこへ行くにも、世界的な大都市に整備された、混み合った公共交通機関が頼りだった。私は車を運転できない。10年以上前に、忍耐強い教官の講習を2度受けたが、運転しない方がすべての人にとって安全だという結論に達した。

    私は自転車の練習を始めたが、まもなく、練習を開始して10年目の記念日を迎える。私は水に浮かぶこともほとんどできない。泳げないのはもちろん、犬かきすらまともにできない。さらに私は、生まれつき視力が低く、乳糖不耐性でお腹を壊しやすい。歩くのは得意だが、身体状態を数値化するとしたら、自己評価は38%程度だ。心の奥では常に、世界滅亡級の事態が起きたら、たぶん生き残るのは難しいだろうと考えてきた。

    そのため、自然災害や人災に備え、生き抜くための能力を身につけるサバイバリズムという概念を私は、自分にとっては現実の可能性を持たないものと公言してきた。ただし、こうした拒絶反応は、自分がニューヨークに暮らす普通の黒人女性だという現実にも即している。米国の黒人の大部分がそうであるように、私は、スプロール化した都市に暮らしている。

    最悪の事態に備える「プレッパー(準備する者)」たちを取り上げた記事(や映画)はいくつもあるが、それらの圧倒的多数は、白人のプレッパーたちを題材にしている。私は自分と似た外見で、そのアイデンティティーを重視しているプレッパーたちと話してみたいと思った。

    詳しく知りたい人は、Netflixオリジナル番組「世界の"バズる"情報局」を観てほしい。

    ニューオーリンズからプエルトリコまで、多くの事例が証明している通り、アメリカ政府は歴史的に、災害が起きたとき、有色人種と低所得者のコミュニティー、そしてそれらが交わる場所で、十分な役割を果たしてこなかった。一般人とは根本的に違う人物であるラッパーのカニエ・ウェストは2005年、ハリケーン・カトリーナの直後、「ジョージ・W・ブッシュ大統領は黒人を気に掛けていない」と言ったが、テレビ映像を見直してみると、この発言を否定するのは難しかった。

    プエルトリコ自治連邦区(カリブ海北東に位置するアメリカ合衆国の自治的・未編入領域)の当局は、2017年9月に同区を襲ったハリケーン・マリアの死者数を64人と発表してきたが、第三者機関の調査を受け、2018年8月になってようやく、2975人に引き上げた。米緊急事態管理庁は7月、マリアへの対応が不十分だったことを認めた(なお、カトリーナの公式な死者数は1833人だ)。

    2014年に水道水の汚染が問題になったミシガン州フリントでは、問題の発生から4年以上が経った今も、水道管の交換は終わっていない。

    地球規模の気候変動であれ、ナショナリズムを前面に押し出したアメリカ政府の政策であれ、現在さまざまな大惨事が予期されている。どのような事態を想像しているかは人によって異なるが、すべてのシナリオに共通するのは、有色人種、はっきり言うと、黒人が矢面に立たされるということだ。ここで疑問が投げ掛けられる。私たちは生き残り、繁栄することができるのか? その準備は整っているのか?

    もし自分が生き残ることができても、さらにいくつかの疑問が出てくる。どうすれば自分の生活、さらには大切な人やコミュニティーの暮らしを、満足できるレベルで維持できるのだろう? 例えば、適切な避難所を探すことができるのだろうか? 食料源は見つかるのだろうか? そして何より、ようやく手に入れた食料をどうすれば守ることができるのだろう?

    こうした問いが私に投げかけられたとしたら、私は間違いなく、「静かに息を引き取らせてほしい」といった類いの答えを口にするはずだ。しかし、私は知っている。これらの疑問と、さらに多くの疑問を自らに投げかけ、すべての答えを思いつく人々がいるということを。

    私が最初に「アフロ・サバイバリスト(Afrovivalist)」という言葉を教えてもらったのは、サバイバリズムに関心を持つ、ある友人からだった。私は彼女に会うため、太平洋岸北西部の、電力網が整備されていない場所を訪れた。

    「女性ハンター兼、都会のサバイバリスト」を自称し、プレッパーとしてのライフスタイルをブログにつづっている彼女は、正確な住所を明かさないという条件で、筆者の取材に応じてくれた(彼女は、shit hits the fan=(扇風機でクソがまきちらされるような)ものすごく大変な状況が起きてもよいよう、確実に備えることに関心があるのだ)。

    彼女は移行期にある。現在の都市生活を捨て、インフラから完全に切り離された暮らしへと、少しずつ移行しているのだ。そこでは、同じ考えを持つ人々がコミュニティーを形成し、十分な備えをした上で、静かな暮らしを送ろうとしている。アフロ・サバイバリストは弓矢や銃器を使いこなす。私は彼女の目を見てすぐ、彼女は私の命を奪うことができると確信した。彼女にとっては、たやすいことだろう。

    しかし、それほど心配する必要はなかった。アフロ・サバイバリストは自給自足のプレッパーだ。彼女は、避難生活に使用できるバン、非常用バッグ(私にも1つくれた)、狩りや水の浄化に必要な道具(ナイフ、銃、弓矢など)を持っていた。私は彼女から弓矢の使い方を習った(1回目は的に当たったが、その後は情けないことに、ほぼすべて外した)。

    さらに、生理用ナプキンは吸水性に優れているので、包帯の代わりになると教えてもらった。コメディ女優ティファニー・ハディッシュの有名なキャッチフレーズを思い出した。彼女は準備ができている。

    早朝、シチメンチョウの狩りに出掛け、収穫なしで戻ってきた後、私は彼女に、なぜプレッパーなのかと尋ねてみた。すると彼女は、幸せそうな笑顔を浮かべながら、地獄のような状況に陥っても大丈夫だとわかっていれば、安らぎを感じることができると答えた。「わたしは夜によく眠れる」

    私が彼女のような笑顔になれるのは、都会にいて、自分がつくったわけではない料理が自分のところにやってくるときだけだ。そんな私は、慣れ親しんだ街に戻り、違う形のサバイバリズムを実践する2組の黒人たちと会うことにした。

    私はニューヨークの真ん中で、エイトン・エドワーズの災害訓練に同行した。訓練生たちは「脆弱(ぜいじゃく)」なコミュニティーに戻り、そこに暮らす人々を訓練することになっている。

    この訓練は、「まるで政府など存在しないかのように、大災害に対応できるようになる」ことが目的だ。この言葉は現状をよく表している。これまでの歴史を振り返ると、shit hits the fans(SHTF)が起きたとき、政府はやって来ない可能性が高い。

    エドワーズの訓練は、「臨機応変の適応」と名づけられている。自立の手段を学び、グループ全体に広めるというもので、「ブラックパンサー党」を手本にしている。私が以前住んでいたブルックリンの書店を会場に、エドワーズは志を同じくする人々に語りかけた。教育者からエンターテイナー、ブルーカラー、ホワイトカラーまで、さまざまな人が集まっていた。

    その後の実践で、数人がガスマスクをつくったり、水を浄化したりしてみせた。使用したのは、安い材料と、どこかで見つけた材料のみ。つまり、コストはサバイバルの障害にならないということだ。

    一方、自己防衛と銃器の所持を提唱するクリスタル・エナジーとバーティン・アシャンテに言わせれば、合法的に銃器を所有するための複雑な許可制度も、障害にはならない。2人は黒人のコミュニティーに向けて、非常時に備えて銃を合法的に所有するよう呼びかけている。

    私は2人の指導の下、初めて銃を撃ってみた。しばらく震えが止まらなかった。うまく説明できないが、畏怖の念を抱くと同時に、恐ろしくなった。そして、二度と引き金を引きたくないと思った。しかし少なくとも、死ぬまでにやりたいことの一つは達成できた。

    今回話を聞いた全員が、自分にとって決定的だった出来事として、カトリーナとその後遺症を挙げていた。アフロ・サバイバリストやエドワーズ、バーティン・アシャンテ、クリスタル・エナジーは、ばかげていると見られることなど気にしていない。

    彼らにとっては文字通り、死活問題であり、同じ境遇にある人々が大惨事を生き抜く方法を学ぶ手助けをすることは、必要に迫られた本気の取り組みなのだ。

    だからこそ、最近は私も廊下のクローゼットに緊急持ち出しバッグを用意するようになったし、ジムでの運動にも、もう少し真剣に取り組むようになった。エドワーズも言っていたように、備えることは無駄にはならないはずだ。



    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan