乳首をつまむサンタに、銃を持った子ども。「世にも奇妙な素材写真」が生まれた理由

    制作者にその背景を聞いてみた。

    「ポルノを定義することはできないが、見ればそれとわかる」と、かつて米連邦最高裁判所の判事は言った。ならば、素材写真も見ればすぐにそれとわかるはずだ。

    そして、これもポルノと似ていることなのだが、あなたが何を想像するにしても、それを表現する素材写真をほぼ確実に見つけられる、という法則があるようだ。世間には、かなり奇妙でダークな素材写真も出回っている。

    スイカの妻にキスする男の写真がほしいって? お安い御用。トイレットペーパーのロールを自慢げに見せる男の写真は? どれでもお好きなものをどうぞ。

    if there is a better stock photo narrative i haven't seen it.

    「最高におもしろい素材写真の3コマ漫画」

    素材写真は、いかにもインターネットミーム作品を作るのにうってつけだ。無尽蔵の供給源といえる。これまでも、「痛みを隠しながら微笑むハロルド」や、「ひとりで笑いながらサラダを食べる女」、「実はポルノ的なコメントが付いた素材写真」まで、さまざまなミームの名作を生み出してきた。

    その手の素材写真はRedditやTumblrでは昔から人気だったが、最近Twitterアカウント「@DarkStockPhotos」で大々的に復活している。

    「素材写真は、非常に的確です」。@DarkStockPhotosを開設したイギリスのジャーナリスト、アンディ・ケリーは、自身のインスピレーションについてBuzzFeed Newsに語った。「たとえば、季節性うつ病をどう表現しようか? クリスマスツリーの前に銃を持った男を配置してみよう、という具合です」

    ケリーがアカウントを開設した6月以降、@DarkStockPhotosのフォロワーはじわじわと増え続け、現在は14万人を超えている。フィードに流す新しい写真を見つけるのはとても簡単だと、ケリーは説明する。

    「できるだけ最悪なものを思い浮かべるだけでいいんです」とケリーは言う。「素材写真の徹底ぶりには驚いてしまいます。想像が及ぶかぎりの、あらゆるものを組み合わせた写真があるんです」

    Aw look how quickly they made up. We have much to learn from Getty Images.

    「ありえないほど早く和解したこの二人を見てよ。Getty Imagesから学ぶことはたくさんあるね」

    実際のところ、いったい誰がそんな奇妙な写真を撮っているのだろうか? そして、いったいどんなきっかけで、そんなおかしな写真を撮ろうと思ったのだろうか?

    BuzzFeed Newsでは、ひときわ奇妙で有名な素材写真の背後にいる制作者たちに話を聞き、疑問をぶつけてみた。「この素材写真は、そもそもなぜ存在しているのだろうか?」

    この「銃を持って泣く幼い男の子」の写真は、大手素材写真企業「Shutterstock」に掲載され、口コミで広まった。

    またたく間に「Reddit」やカレッジ・ユーモア」で取り上げられ、Twitterでも拡散された。

    この素材写真の制作者は、ロシア人写真家のセルゲイ・コミサルだ。3年前に、自身の息子を撮影した。だが、この写真が世間でウケるとは、本人は思ってもいなかった。

    それどころか、最近になってBuzzFeed Newsが連絡するまで、この写真がネット上で超有名な素材写真になっていることも、まったく知らなかった。Shutterstock上でのこの写真のダウンロード回数は20回にも満たないと、コミサルは予想している。

    この写真の背後にある物語は、銃を持って泣く幼児の写真から想像するような、ダークなものとはほど遠い。

    コミサルによれば、この写真を撮ったのは、当時3歳だった息子のローマンが写真撮影の最後にぐずり出したときだという。ローマンはおもちゃの銃(そう、おもちゃなのだ)を持ったまま、泣き出してしまった。

    「かわいい瞬間だったから、逃したくありませんでした。だから、そのままポーズをとるように言ったんです」とコミサルは言う。「5分ほどポーズをとったら、息子は泣きやみ、また笑いはじめましたよ」

    では、40枚以上にのぼる、馬のマスクをかぶった男の写真はどうだろうか? この写真は、リッチ・エルゲンの作品だ。エルゲンの写真は、ストックフォトサイト「iStock」に掲載されている。

    「iStockに登録した当時は、コールセンターの顧客サービスという、おそろしく退屈でつまらない仕事をしていました」。カリフォルニアを拠点とする写真家のエルゲンは、BuzzFeed Newsにそう語る。「だから、創造力のはけ口として、よくアイデアを練っていたんです」

    数年前に兄弟からもらった馬のマスクに興味をそそられたエルゲンは、そのマスクを作品に採り入れるようになった。写真のなかでマスクをかぶっているのは、エルゲンか、彼の妻だ。ふたりは「馬」にできることを次々に考案し、試していった。

    「あるときは、馬のマスクをかぶった妻と二人で、花を載せた皿を差し出しました」とエルゲンは話す。「それから、ほかに何ができるか考えたんです。そうだ、馬が飲みすぎて、テーブルで酔いつぶれていてもいいじゃないか、という感じで」

    この「ボージャック・ホースマン」(Netflixで放映されているアニメで、馬の顔をした男が主人公)風の写真シリーズは、「大きな成功を収めています」とエルゲンは言う。

    エルゲンはいま、教会の青少年向け牧師としてフルタイムで働いているが、いわば「お金になる趣味」として、素材写真も撮影している。iStockは十分な品質の写真しか受け付けないため、エルゲンは受理されたかどうかを記録し、制作の参考にしている。

    「僕には信念があるんです……。『何かうまくいったものがあれば、それは無限に応用できる』というね」とエルゲンは言う。「だから、さまざまな形で取り込むことのできる、よくできた写真を制作したいと思っています」

    上半身裸のサンタが情熱的に自分の乳首をつまむ写真を求めているなら、トレイシー・キングの作品以外のものを探す必要はないだろう。キングは、この印象的な写真シリーズの撮影者であり、モデルでもある。

    「実際の私とは違います。私はシャイで、謙虚で、注目を浴びるのは好きではありません。それに、太っていることを快く思ってもいません」とキングはBuzzFeed Newsに語る。「でも、ちょっと羽目をはずしてみようと思ったんです。少し楽しんでみようってね。いずれにしても、誰にも見つからないだろうし」

    しかし世間はどういうわけか、この写真を見つけた。それどころか、インターネットの奇妙なものが集まる界隈にあまねく広がり、現在ではツイッターアカウント@DarkStockPhotosのプロフィール画像にまでなっている。

    「心地の悪いことをするのは、殻を破って少しだけ開放的になるのに役立ちました。こんな写真、誰も買わないはずだと思っていたし」とキングは言う。「こんなふうに撮ったのは、この写真が初めてでした」

    以来キングは、奇妙な自画像の素材写真を、(数多くの「普通の」素材写真とともに)投稿している。トイレに座って丸めたトイレットペーパーを食べようとしている写真もあれば、ズボンに手を突っ込んで眠っている写真もある。

    「写真が売れればうれしいです。いつだって、お金が増えれば、そのぶん幸せになれますから」とキングは言う。「でも売れなくても、撮影にはまったく元手がかかっていないので、少なくとも金銭面では、リスクはごく小さいものです」

    だが、キングが奇抜な作品群で金を稼いでいることはたしかだ。サンタの写真から得た稼ぎは750ドルほどになるという。「おかしな素材写真」は、立派な副業になっているのだ。

    「素材写真業界では、この手の写真が売れるとは誰も思っていないようです。商業的な使い道がありませんからね」とキングは話す。「なにしろ、普通のスーツを着た普通の粋な男が、普通に手を伸ばして握手をしているような、使い道が無数にある種類の写真じゃない。太った男が自分の乳首をつまんでいる写真ですから」

    キングが風変わりな写真を撮るのは、「この写真の使い道を見つけられる人は、果たしているのだろうか?」という好奇心に突き動かされている面もある。

    「Googleの画像検索で、写真がその後どうなっているかを調べています」とキングは言う。「自分の写真を見つけて、それをみんながどんなストーリーに使っているのかとか、自分の写真を使ってどんなミームを生み出しているのかを知るのは、とても楽しいです」

    そして、キングはまちがいなくジョークを解する人物だ。「クリエイティブな人たち」が自分の写真をミームにしてくれるのは嬉しい、とキングは言う。

    「それぞれが写真に手を加えて、自分たちの言葉をつけて、なんであれ、必要な処理を施す。それは、すばらしいことです」とキングは話す。「ミームを嫌う人なんていないでしょう?」

    ぶかぶかのズボンを着て宙を舞う男の写真が必要なら、ルーマニアの写真家ミハイ・ブラナルがその要望に応えてくれる。

    ブラナルは、フルタイムのIT技術者としてヒューレット・パッカードに勤めている。趣味として素材写真を制作しているほか、イベントや家族、ファッション、ポートレイトなどの写真を撮影している。

    この写真は、ブラナルが2015年に友人を撮影したもので、実際にはもっと大規模な素材写真シリーズの一部だ。

    「そもそものはじまりは、カーニバル用のアクセサリーとカラーのウィッグをつけたカップルを見かけたことです。そのとき、すごく大きなキャンディとか、そのほかのおもしろいアクセサリーを使ってもいいかもしれないと思いつきました」とブラナルは話す。「なにか大きなものを撮影しようと考えていたときに、XXXLの服を売る店を見つけました。それが最高におもしろかったんです」

    古くからの友人のアレックス・マルクが、その巨大な服を着て、非常に印象的な写真に登場することになった。

    「いまでも覚えているけど、10分撮影するたびに、5分の休憩をとらないといけませんでした。撮影のあいだずっと、涙が出るほど笑っていたからです」とブラナルは言う。

    この一連の写真でブラナルが手にしたのは、巨大ズボンの写真から得た200ドルを含め、合計で800ドルほどだ。

    ブラナルも、自分の写真がネット上で人気を博していることに気づいていなかった。その事実を知って「驚いているし、興奮している」という。

    「みんながこの写真を気に入ったのは、新しくて独創的だからだと思いますが、アレックスがすごく自然で、おもしろくて、真剣で、リラックスしているからという面もあると思います。(そうした雰囲気を)多くの人がすぐに感じるはずです」とブラナルは語っている。

    I LOOKED UP "HUGE PANTS" FOR A SHITPOST BUT I FOUND THESE STOCK IMAGES AND IM LAUGHING SO HARD THAT I THINK IM GONN… https://t.co/UtmnoRboU5

    「投稿用に「巨大なズボン」を検索したらこんな素材写真が出てきたせいで笑いすぎて吐きそう」

    Shtterstockのコンテンツ担当バイスプレジデントを務めるポール・ブレナンはBuzzFeed Newsに対し、同社の目標は、考えうるかぎりの顧客のニーズを、それがどんなに奇妙なものであれ、すべて満たす幅広いコンテンツを揃えることだと語った。

    「市場主導、顧客主導という面がきわめて大きいです」とブレナンは言う。

    多くの素材写真サイトでは、サイトが求める写真の種類についてゆるいガイドラインが設けられているが、何を撮影して掲載するかの判断は写真家に委ねられている。

    Shtterstockの「寄稿者」になるには、作品10点を提出し、審査を受ける必要がある。最初の写真が承認されたらアカウントが有効になり、写真をアップロードできるようになる。

    すべての写真は、技術的な品質、法規制の遵守(著作権を侵害していない、モデルが公開同意書に署名している、など)、メタデータの関連性(タイトルやキーワードに関するガイドラインに従っているかどうか)の審査を受けてから掲載される。

    サイトにアップロードされた素材写真を、顧客はサイト上で購入する。購入した写真については、あらゆる用途に使用できる。写真が最終的に何に使われるのかを写真家が知ることは、めったにない。

    言うまでもなく、素材写真がミームとして流行するようになったことで、写真がスクリーンショットを通じて盗用されたり、広まったりするケースも多くなっている。

    ブレナンによれば、Shtterstockは自社コンテンツの保護を「きわめて真剣に」とらえているという。

    「その点は、常に最優先事項になっています。いかなる状況でも、(写真が)不正に使用されていることがわかったら、調査を実施し、寄稿者がコンテンツの正当な対価を確実に得られるようにしています」とブレナンは述べた。

    たとえ不正に掲載されたものであっても、自分の作品が口コミで広まるのを喜ぶ写真家は多い。しかし、誰もが大喜びするわけではない。スペインの写真家で写真編集者のルベン・カルボも、そのひとりだ。

    「写真をはじめたころは、下手でした。本当に、本当に下手だったんです」とカルボは言う。「だから、無理やり写真を奇抜なものにしました。ありえないものを作り出して、見る人に『見るのをやめられない』と思わせようとしていたんです」

    カルボの写真技術は時とともに上達したが、その考え方は残った。2013年の大学の期末制作で、カルボは、眼窩に歯がある写真を制作した。

    「当時の自分はひたすら勉強だけしていて、ほかのことをする時間はありませんでした。ストレスを感じたら、何かを食べていました。おなかがすいてなくてもたくさん食べました」とカルボは話す。

    「スペインには、『胃で食べるのではなく、目で食べている』ということわざがあります。それを文字どおり表現しようとしたんです」

    この写真は12回購入され、カルボは総額で87.19ドルを稼いだ。写真が60ドルで売れたときもあったが、たいていは、それよりもずっと安く購入されているとカルボは言う。

    とはいえ、この写真と、ほかの何作品かは、RedditTwitterで広まっている。

    それはカルボを「なんとなく悲しい」気持ちにさせるという。というのも、自分の作品の対価を得たり、功績を認められたりすることができないからだ。企業に盗用されたのなら訴訟を起こすこともできるが、ソーシャルメディアでは、制作者ができることはあまりない。

    「自分の作品が人の目にとまって、『ねえ、これいいね。もっと多くの人が見るべきだ』と言われるのは、すばらしいことです」とカルボは言う。「問題は、アーティストの作品を目にした人が、『ねえ、これいいね。自分の個人ページに再アップして、本来の作者のクレジットも載せずに、フォロワーといいねを稼いで、できればお金も稼ごう』と思ったときです」

    「もし、すべてのアカウントに僕の名前が載ったら? 再アップロードではなく、僕のページからシェアされたら? そうしたらどうなっていたでしょう?」とカルボは話す。「たぶん、違う状況になっていたと思います。たぶんだけど、もう少し売れていたんじゃないかな。オンラインで僕(の作品)を見た人からのプロジェクト依頼も増えたかもしれません」

    とはいえ、カルボは「おかしな素材写真」コミュニティの一員であることを喜んでいる。

    「笑顔の医者や、完璧な夕日の写真じゃどうにもならないときは、僕たちを使ってみてください!」とカルボは言う。「おかしな人たちの写真をね」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan