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Adriana Zehbrauskas for BuzzFeed News

「物乞いになるかもしれない」トランプ大統領に怯えて暮らす人たちの思い

米からの送金に頼る人たちが暮らすメキシコの小さな町の声

メキシコ中部にあるススティカカンは、930人ほどが暮らす美しい小さな町だ。マヌエラ・マリーナが夫と住む、ほとんど家具のない家には、1台の電話がある。彼らにとって唯一のライフラインだ。

電話は2~3カ月に1度鳴り、約3000キロ北の米国シカゴに暮らす子供たちから「お金を送るよ」という連絡がある。電話がかかってくるころには、大きな音を立てる冷蔵庫や、豆料理をつくるときに使うコンロのガスタンクはほとんど空になっており、隣人たちからの借金は膨れ上がっている。

マリーナは1日に2度しか食事をとらない。夫婦で最後に鶏肉を食べたのがいつであったかも覚えていない。ほしいだけお金が手に入ったら何に使うかと尋ねたら、彼女は声を上げて笑った。

「私はぜいたくを知らないの」。そして、しばらく考えた後、次のように答えた。近くのコンビニエンスストアでマンゴージュースの缶を買い、地元の教会に数ドル寄付する、と。

マリーナは1年に数回、100~150ドル(約1万1000〜1万6000円)の金を手にする。その大部分は、米国中西部の工場で果物加工の仕事をする息子から送られてくるものだ。時おり、カリフォルニア州に暮らす娘3人の夫たちからも善意の支援がある。これらの送金がなければ、「本当に立ち行かなくなる」。深いしわが刻まれた目に涙を浮かべながら、マリーナは窮状を語った。

このように生活は苦しいものの、マリーナは自分の人生に満足してきた。何より彼女は健康に感謝している。体は小さいが力は強く、日常的に、3キロ近く離れた場所から6キロ強の穀物を運んでいるのだ。そして、簡素なつくりの薄暗い家にも満足している。中庭を挟んだ向かいには、太陽の光が降り注ぐ美しいタイル貼りの部屋が並ぶ。いつか故郷に戻ってこようと考えている息子が自分で建てたものだ。

町の大通り「アヴェニダ・ベニト・フアレス」に面するマリーナの平屋建ての家は、ほとんどの家がそうであるように、外から見ると非の打ちどころがない。サーモンピンクの外壁は手入れが行き届いており、玄関には素焼きの鉢が置かれ、花が咲き誇る。歩道も凹凸がなく、きちんと掃除されている。

メキシコシティの約675キロ北西に位置し、低い山々を望む絵葉書のようなこの町は、メキシコのほかの多くの街とは様子が違う。多くの家は塗装されたばかりのように見えるし、ごみ箱も、まるで使われていないようにきれいだ。そして何より、町全体が静まり返っている。

その静けさはまるでゴーストタウンだ。通りには人けがないし、学校は十分な生徒が集まらず、閉鎖の危機に瀕している。公園も薄気味悪いほど静かで、物悲しい雰囲気が漂う。数えるほどしかないコンビニエンスストアは1日2~3時間しか営業しない。

この町では、数十年前から住民の流出が続いている。何百人もが米国に移住したのだ。そして、マリーナのような残された住民たちは、外国に住む身内から送られてくる金に大きく依存するようになった。地元の関係機関によれば、移住者たちから送られてくる金は、町全体で毎月約6万ドル(約660万円)に上るという。

米国に暮らす身内からの送金を知らせる電話を待つことは、この町では日常の一部となっている。この町で流通するお金の実に60%が、(アメリカとの国境を流れる)リオ・グランデ川の北からもたらされているのだ。スマートフォンの電波は届かず、産業もほとんどなく、雇用の機会は非常に乏しい。

そして今、ススティカカンは新たな不安に包まれている。ドナルド・トランプ米大統領がメキシコとの心理戦の一環として、すべての不法移民を強制送還すると主張し、たとえ米国にとどまることができたとしても、祖国への送金に制約を設けると繰り返し脅しているのだ。もしそうなれば、送金を頼りに暮らす700万人のメキシコ国民の生活が脅かされる。

ススティカカンで肉屋を経営するエドゥアルド・チャベスは、「本当にそんなことをされたら、私たちは終わりだ。店の商品を仕入れる金がなくなってしまう」と話す。「すべてがマヒしてしまうだろう」

町全体が同様の恐怖を抱いている。マリーナと並んでソファーに座っていた夫のジーザス・ディアスは、「彼は本当に実行するだろうか?」と3度も質問してきた。

77歳のディアスはほぼ耳が聞こえず、視力も一部失われている。近くにあるトウモロコシ畑で人生の大部分を働き、その過程で目が悪くなった。最近は、求人があったとしても建設関係の仕事だ。米国に移住した人たちが年に2週間、メキシコの小さな都市や町で伝統的に行われているストリートフェアに合わせて帰国するため、そのときに暮らす家を建てるのだ。しかし、ディアスの健康状態では仕事を得ることはできない。

もし息子が送金をやめれば、「あとは運を天に任せるしかない」とディアスは不安を口にする。

あるいは、「物乞いしなければならない」

3人の息子とともにシカゴで暮らすモニカは、米国に住む不法移民たちが直面する新たなジレンマをひしひしと感じている。祖国の身内に送金し続けるか、身柄を拘束されたときのために弁護士費用をためておくか、というジレンマだ。

これまでは、マリーナをはじめとするススティカカンの住民など、送金を受け取るほうの人たちが「心配される側」だった。しかしトランプ政権になった現在、送金するほうの人たちも脅威にさらされている。

15年前に不法入国したモニカは、プレッシャーに耐え切れず、メキシコ北部ドゥランゴ州の故郷に帰る準備をしている。強制送還のおそれがあるため、名字を明かさないという条件で取材に応じてくれた。

モニカは、故郷の母親に毎月約60ドルを送金している。母親は糖尿病を患っており、薬と食事で症状を抑える必要がある。ところが最近、母親は唯一の収入源である2人の娘に対して、強制送還に備えたほうがいいと勧めるようになった。母親に送金するのではなく、メキシコの銀行口座に入れなさい、と。

リアリティー番組のスターだったトランプ大統領は選挙中、「壁をつくる」と呪文のように唱え続けた。そして、その費用はメキシコに支払ってもらうと断言すると、会場を揺るがすように拍手が鳴り響いた。また以前、「ワシントンポスト」紙に対して、米国外に送金する移民は在留資格があることを証明しなければならないようにする、とも述べた。

トランプ大統領は、この提案に大統領就任後は言及していない。しかし、アラバマ州選出のマイク・ロジャース下院議員(共和党)は2017年3月、中南米への送金に2%の手数料を課すという法案を提出した。

ロジャース議員は声明の中で、「穴だらけの国境と不法移民からの恩恵を受けている国に送金する者は、壁の建設に必要な資金の一部を負担すべきだ」と述べた。

ロジャース議員に何度か取材を申し込んだが、回答は得られなかった。

米国からメキシコへの2016年の送金は、前年から8.8%増加して270億ドル(約2.9兆円)近くに達した。メキシコのGDPの2.6%に相当する金額であり、同国にとっては、自動車輸出に次ぐ外貨の収入源となっている。そのためメキシコ当局は、この貴重な収入源を守ろうと躍起になっている。

メキシコ野党に所属するアルマンド・リオス・ピテール上院議員は2016年9月、外国に住むメキシコ人に対して害をなす財政措置が取られた場合は、メキシコに住むその国の国民に対して同様の措置を取るという法案を提出した(トランプ大統領がらみの多くの法案と同じく、本案件も国会で入念に話し合われるはずだが)。

不安はメキシコ政府トップにまで広がっている。エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領は2017年1月、優先順位をつけた米国との交渉案件として、今後も米国からの送金を続けられること、送金にかかる費用が今以上高くならないことを盛り込んだ。

メキシコ貯蓄金融サービス銀行のヴィルギリオ・アンドラーデ取締役はBuzzFeed Newsに対して、「米国政府がどのような決定を下すかによって、メキシコ政府の出方が決まる」と語り、「われわれは、同胞のメキシコ人が汗水流して得た成果を最大限守る」と宣言した。

不安の声はあるものの、アナリストたちは、2パーセントの税金が送金に深刻な影響を及ぼすとは考えにくい、という見方に賛成している。送金にはすでに平均8.45ドル(約930円)の費用がかかっている。そのため、わずかな税金が心理的に大きな影響を与えることはないだろう。今の政治情勢を考えると、少額の税金をかけられる方がましだと歓迎されるかもしれない、と専門家は分析している。

「トランプ政権下の先行き不透明な状況が、2パーセントの税金で拭い去れるなら、出稼ぎに行っている労働者たちは喜んで受け入れるだろう。先が見えない状況は耐えがたいからだ」。ラテンアメリカ通貨研究所のマネージャーのヘスス・セルバンテスはそう述べる。

米国からの送金に対して現在提案されている変更案は、すでに存在するブラックマーケットをさらに拡大しかねない、と専門家は懸念する。(これまでのブラックマーケットは、麻薬売買による売上をロンダリングしてラテンアメリカに戻すものだった)。

あるいは不法移民たちは、合法的に滞在している親戚や友人に依頼して、代わりに送金してもらうようにするかもしれない。

一方、トランプ大統領による脅威は、国境のどちら側にも不安を広げ続けている。米国に住むある不法移民がBuzzFeed Newsに語ったところによると、彼らは公共の場で過ごす時間を大幅に減らしたという。警察に捕まって強制送還されるかもしれないという恐れが日に日に強まっているからだ。モニカと夫は、自分たちが拘留された場合に備えて、子どもたちの親権を一時的に隣人のひとりに委譲する同意書に署名した。

万一のことを考え、子どもたちにメキシコの市民権を取得させる手続きも始めた。

「あの家は送金で建て直した。こっちは、住人が北に移住したので空き家だ。そっちの黄色い2軒も空き家だ。この家は送金で建てられた。その角の家は空き家だ」

町長のグスタボ・デ・サンティアゴ・サンチェスは、町のメインストリートをゆっくりと走る車の助手席に座り、どの家が送金で建てられて、どの家が住民が米国に移住した空き家かを教えてくれた。実質的にすべての家が、そのどちらかに当てはまるようだった。

話をしながらサンチェス町長は、歩道を歩くまばらな町民に、控えめに手を振った。こんな諺がある。「Pueblo chico, infierno grande(小さい町は大きな地獄)」。良いときも悪いときも、みながお互いの事情を知っているからだ。

この町に貢献するのは一般市民だけではない。墓地や老人ホーム、手入れの行き届いた公園(屋根つきエントランスと、新品のようにきれいなごみ箱がある)はすべて、「移民のための3x1プログラム」の一部で賄われた。

1980年代半ばにサカテカス州で導入され、今は国中で取り入れられているこのプログラムは、米国に住む移民が出身コミュニティに送金するとき、連邦政府、州政府、地方自治体がそれぞれ送金1ドルにつき1ドルずつ加えて、学校や教会その他の公共事業に費やすというものだ。

だがそれも、送金に対する厳しい規制あるいは大量強制送還により、米国からの送金が止まってしまえば終わりだ。もし送金が止まれば、今はごく少ない犯罪件数が増加し、失業者数は跳ね上がる。食料調達を何とかしないと人々は飢えることになるだろう、とサンチェス町長は心配する。

サンチェス町長は、2階建てのサンゴ色の家を指さした。ほとんど米国からの送金で建てられたグアルダード邸だ。小さなキッチンつきの2部屋だったこの家は、今では7人が暮らす、優美な外装の住み心地の良い邸宅になった。カリフォルニアに住む家族から毎月送られてくる、500ドル(約5万4000円)ほどの仕送りのおかげだ。

「ここでは、いつも助けを心待ちにして暮らしている」。シーラ・グアルダードは、電話の向こうで送金コードを教えてくれる兄の声を聞くことが、1カ月で最大のイベントだと語る。

この町に住む他の人たちと同じように、グアルダードは最初、玄関を飾る手の込んだ装飾ガラスにじっと寄りかかったまま、家計のことを記者に話すべきか考え込んでいた。この町の最大の問題は、隣人同士の妬みだという。

ロサンゼルスに移住して何十年にもなるグアルダード家の6人の兄弟たちは、現在イタリアンレストランを経営している。彼らの仕送りは、故郷の家族たちの食費やガス代、甥たちの学用品代、それに、飼っている60頭の乳牛の牧草代に充てられる。グアルダード邸の隣りでは、2軒の家が建築中だ。2軒とも、カリフォルニアに住む兄弟のものだ。

新たな不安材料はあるが、今のところ、生活はいつも通り行われている。マリーナは、食料品を買いに行く近くの町ヘレスで送金を受け取ると、水道代とガス代を払う(隣人にお金を借りることになっても、たいていは期日までに払っている)。それから、地元の製粉所でトウモロコシを挽いてもらうときにかかる費用のために、小銭をたくさん残しておく。町にはレストランが1軒ある。1キロほど歩いたところだが、マリーナは一度も行ったことがない。

教会へ行くときの献金用にの硬貨も貯めている。ススティカカンに来て1年になるフアン・ホセ・パディーヤ神父は、この町の献金が十分でないため、司教への特別補助金に頼って生活している。

米国からの送金は、ススティカカンの町をつくってきた。しかしそれは災いでもあった。この町の多くの人が、富が流入してきた結果、自給自足する意欲が奪われてしまったと言う。米国で社会的セーフティーネットについてよく語られるような意見だ。

サンチェス町長によると、町の女性向けに裁縫を、男性向けに野菜の育て方を教える講座を開いたが、受講者はほとんどいなかったという。町の人たちは、外国からの支援のような送金に頼って生活することを何とも思わず、自らが生産的であろうがなかろうが気にしないのだ。

「前に進もうという人、人々のために産業を立ち上げ仕事を提供しようという気概にあふれた人は見たことがない」とパディーヤ神父は述べる。

米国からの送金に依存する多くの町と同じように、ススティカカンは、送金が激減した場合の備えがない。通りに並ぶ美しい家々は、国境の北側からの送金が突然なくなれば、立派なのは外観ばかりということになりかねない。そしてもし、トランプ大統領が選挙公約を実行すれば、「衝撃を受けるどころではない。なすすべがなくなるかもしれない」と町の人々は口をそろえる。

「非常事態宣言が必要になるだろう」とサンチェス町長は言った。

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この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織、浅野美抄子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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Karla Zabludovsky is the Mexico bureau chief and Latin America correspondent for BuzzFeed News and is based in Mexico City.

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