専門家にきく。銃で死ぬ人をなくすために大事なこと

    アメリカは今後も銃と共存を続けるだろう。銃による死亡者数は年間3万人に上るが、研究者によれば、銃による死亡者数を減らせる有効な方法はいくつかある。徹底した身元調査や、有効な警察活動などの方法を紹介する。

    アメリカ史上最多の死亡者が出たラスベガス・ストリップでの銃乱射事件を受け、誰もが改めてこう問いかけている。銃による暴力の犠牲者を減らすために何ができるのだろうか?

    2年前、オレゴン州ローズバーグのコミュニティカレッジで9人が死亡した銃乱射事件が起きたあと、BuzzFeed Newsは、銃暴力について長年研究してきた研究者たちに取材した。その答えは、希望を与えてくれるものだった。アメリカの銃による死亡者数は現在年間3万人に上るが、毎年数千人の命を救うという目標であれば、達成可能だというのだ。だが、この難題に対処するには、保守派とリベラル派がともに、脊髄反射的な反応をやめる必要があるだろう。これは、「銃を持つ権利」対「銃規制」という単純な問題ではない。

    以下では、専門家が有効だとする方法について紹介しよう。(2015年10月に掲載された記事を元に、2017年10月にラスベガスで起きた銃乱射事件に関する情報と、銃規制研究に関する最新情報を追加した)。

    アメリカにおける銃暴力の問題は、大半の人が思っているよりも大きい。

    粛然たる事実がある。それは、この10年間に銃創で死亡したアメリカ人は30万人を超え、第二次世界大戦中の戦闘による死亡者数を上回っているという事実だ。

    下のグラフからわかるように、アメリカでは現在、銃による死亡は、交通事故による死亡とほぼ同じくらい頻発している。だが、暴行事件全体に関する統計から判断すると、アメリカが特別に暴力的な国というわけではない。ただ、銃による死亡率については、ほかのどの先進国よりも高い。

    Peter Aldhous for BuzzFeed News / Via cdc.gov

    とはいえ、銃規制によって実現できることについては、現実的になろう。

    富裕な諸国について見ると、銃の所有率が高い国ほど、銃による自殺率も高い傾向がある。簡単に言えば、人々が銃を持つことができる国は、もっと殺傷力の低い武器しか持てない国よりも、人間が殺傷される率が高いように見える。

    ここでの大きな問題は、アメリカで今後、実施可能性があるどの政策をとったとしても、すでに流通している3億1000万丁もの銃の数(アメリカ在住者1人に付き1丁近く)が大幅に減る可能性がないことだ。合衆国憲法修正第2条に従い、最高裁判所は、「規律ある民兵」だけでなく、個人のレベルでも、銃を携帯する権利があると裁定している。

    だから、銃規制支持派が何をしたいと思っても、アメリカ政府が国民から一斉に銃を取り上げることはない。

    その上、度々提案される銃規制の中には、おそらく、あまり効果がないものもあるだろう。2012年12月にコネチカット州ニュータウンの小学校で銃乱射事件が起きた後、当時のバラク・オバマ大統領は、2004年に失効した、半自動の対人殺傷用銃器の販売を禁止する10年間の時限立法「アサルト・ウェポン規制法」の復活を呼びかけた。

    だが、連邦議会はこの呼びかけに応えなかった。科学的証拠よりも、銃規制に反対するロビー団体の影響力がものを言った決定だった。ただし、ペンシルベニア大学のクリストファー・コペル氏によるアサルト・ウェポン規制法の効果に関する研究では、銃による死亡者の減少を強く示唆するデータは見つからなかった。それどころか同氏は、米司法省に提出した報告書[PDFファイル]で、「同法の施行後、銃を使った攻撃による死傷者が増加したように見える」と結論づけた。

    銃乱射事件からは、死亡者数を減少させる方法について多くのことはわからない。

    殺傷力が特に高い武器の販売禁止を求める論調が高揚するのは、犠牲者が最大限になるよう武装した銃撃犯が銃乱射事件を起こすなど、銃暴力を巡る論争がクローズアップされるような状況から生まれる。

    こうした銃乱射事件が悲惨なほど定期的に起き、しかも頻度が増しているように思えるが、アメリカ全体の銃による死亡者数に関する統計の中で大きな影響をもつわけではない。

    マザー・ジョーンズ誌がまとめたデータによると、この30年間で銃乱射事件による死亡者が最も多かった2012年には、ニュータウンやコロラド州オーロラ市の映画館で起きた銃乱射事件などで、72人が命を落とした。ラスベガスの死傷者数に関する報告を見ると、2017年の死傷者数はもっと多くなる可能性がある。そうした死はどれも被害者にとっては悲劇だが、アメリカ全土で銃撃による死亡者数が年間約3万人に上る状況では、わずかな被害に過ぎない。

    銃乱射事件を防止する方法については、オーストラリアが最も良い証拠となる。1996年にタスマニアの観光地で、大虐殺により35人が死亡するポートアーサー事件が起きた後、オーストラリア政府は、半自動式およびポンプ連射式のライフルやショットガンなど、様々な武器を禁止した。所得税を引き上げたので、政府には、違法とされた武器を買い戻す資金があったのだが、その結果はめざましかった。新たな規制の導入前は、18年間に13件の銃乱射事件が起きていたが、その後10年間は、同様の事件が1件も起きなかったのだ。

    アメリカには憲法修正第2条があるので、オーストラリアの試みがアメリカで今後行われる可能性は低い。ノースカロライナ州ダーラムのデューク大学で銃暴力について研究しているフィリップ・クック氏は、次のように語る。「今後何が起きようとも、憲法修正第2条はそれをはるかに上回る力を持つ」

    だが、身元調査が功を奏する可能性もある。

    BuzzFeed Newsが取材した銃暴力専門家の間で、最も支持されている政策は、普遍的な身元調査の導入だった。犯罪歴や精神衛生上の問題がある不適格者に銃を持たせないというのが、その目的だ(2017年1月に発表された、銃暴力研究の包括的レビューにより、身元調査と、法による銃器購入許可の義務づけは、最も有効な政策と見られることが裏付けられた)。

    連邦法では、登録済みの業者が銃を販売する都度、こうした身元調査が義務づけられている。だが、取引の40%[PDFファイル]を占めていると見られる個人間の売買には、身元調査が義務づけられていない。これは、バス1台分の銃器が通り抜けられるような大きな抜け穴だ。

    カリフォルニア州やニューヨーク州など8つの州は、個人間の販売を含めた、普遍的身元調査を実施している。だが、こうした動きの成否を判断するのは難しい。銃規制法の改正条項は一括で導入される場合が多く、銃暴力にその後変化があったとしても、どの政策の影響なのかがわかりにくいからだ。

    とはいえ、それと逆行するコネチカット州とミズーリ州の法改正を見れば、状況はもっと明確になる。ミズーリ州は2007年まで、銃の購入者に対して、法執行機関発行の許可証の所持を義務づけ、許可証を取得するには身元調査をパスする必要があった。メリーランド州ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンズ大学のダニエル・ウェブスター氏率いるチームの研究によれば、この要件が廃止されてからの5年間に、同州では、年間の銃による殺人発生率が16%上昇した。近隣州では同じような急上昇は見られなかった。

    いっぽう、コネチカット州は1995年に、身元調査を伴う同様の購入許可関連法を導入した。ウェブスター氏のチームの分析によると、同州の場合は、銃を使った殺人発生率が40%低下している

    有効な警察活動により、都市部での銃暴力が減少。

    銃暴力の減少を示す最も有力な証拠の中には、銃購入の管理だけでなく、「focused deterrence(焦点を絞った抑止)」と呼ばれる警察活動に由来するものもある。

    この取り組みは、1990年代にボストンで「Operation Ceasefire(休戦作戦)」という名称で開始された。具体的には、警察と地域社会のリーダーが犯罪集団のメンバーと会い、彼らの身元はわかっており、銃犯罪は許されないというメッセージを伝える。目を付けられた者が銃を使用すれば、警察の厳しい取り締まりを受けるのが明らかなので、人々を犯罪活動から遠ざけるのに役立つ取り組みだ。

    その後、他の数十にのぼる都市で導入されたこの取り組みで、都市部での銃暴力をだいたい20~40%減らせることが、複数の研究から明らかになっている。

    銃を持つ善人を増やしても、解決策にはならない。

    銃乱射事件が起きるたびに、それも特に、人々が銃を携帯していないはずの場所で起きるたびに、銃規制反対のロビー団体はほぼ毎回、銃を持つ悪人を止められるのは、銃を持つ善人だけだと主張する。そして、年月が経つにつれ、アメリカの世論調査で挙げられる銃所有の主な理由は、狩猟から自衛へと変化してきた

    だが、銃を所有しても安全性を高めるのにほとんど役立たないことを示す証拠がある。ハーバード公衆衛生大学院のデビッド・ヘメンウェイ氏と、バーモント大学の経済学者サラ・ソルニック氏が、全米犯罪被害調査(NCVS)の対象となった、加害者と被害者の個人的接触が絡む事件1万4000件を分析したところ、自衛のために銃が振りかざされたケースは127件にとどまった。また、銃を振りかざしても、被害者が負傷する可能性は減らなかった(ただし、所有物を失う可能性は低下した)。

    銃の所有が犯罪抑止になるという考えは、よく調べると根拠も薄弱に見える。同じくNCVSのデータを用いた、デューク大学のクック氏による以前の研究では、銃の所有率が高い郡ほど、強盗発生率が高い傾向があった。そうした関連性の理由は不明だが、銃そのものが価値ある商品であり、犯罪者が銃を盗む動機となっている可能性もある。

    銃を持つ者は、殺人を犯すよりも自殺する可能性の方が高い。

    Peter Aldhous for BuzzFeed News / Via cdc.gov

    銃による死を減らす方法についての話が始まると、殺人がテーマになることが多い。だが、銃を使った殺人事件1件に対し、銃を用いた自殺はほぼ2件起きている計算になる。また、銃による殺人は1990年代はじめ以降減少しているが、銃による自殺は増加している。

    人口統計を見ると、銃によるこうした2種類の死にはかなりの違いがある。若い黒人男性は、並外れて、銃による殺人の被害者と加害者の両方になりやすい。自殺者もほとんど男性だが、中高年の白人に多い。

    「銃暴力はますます、白人の中高年男性の問題になりつつある」。カリフォルニア大学デービス校の緊急治療室の医師であるギャレン・ウィンテミュート氏は、そう語る。

    銃による死を本格的に減らそうとするのなら、自傷行為を最もしやすい者の手に銃が渡らないようにする必要がある。銃を入手できなければ、自殺を考えるくらい自暴自棄になっていても、生き続ける見込みがある。自殺を試みたケースの死亡率は9%前後だが、銃が使用される場合は、この数字が85%にまで上昇する

    身元調査は、銃による殺人を減らせるだけでなく、銃による自殺を防ぐのにも役立つというデータもある。ウェブスター氏らの分析によると、コネチカット州では、銃購入許可関連法の導入により、銃による自殺が15.4%減少した。いっぽうミズーリ州では、同法の廃止により、銃による自殺率が16.1%上昇したという。

    精神疾患ではなく、危険な行為について考えよう。

    銃暴力を精神疾患のせいにするのは簡単だ。重度の精神障害を抱えた者による銃乱射事件が起きた後なら、なおさらだ。だがこれは、もっと広範な問題に対する誤解に基づいている。

    統合失調症や双極性障害のような重度の精神障害を患う人々は、健常者よりも暴力的になりやすい場合があることが、疫学研究から明らかになっている。だが、精神障害者の大多数は、他の者に対して暴力的ではない。精神障害者がもたらすリスクを、人口全体の平均レベルまで抑えることができたとしても、アメリカでは約96%の暴力犯罪がまだ発生する

    それよりもはるかに強いのは、精神疾患と「銃による自殺」の関係だ。「精神疾患を治療できたとしたら、自殺率は50~75%低下するだろう」と、デューク大学の銃暴力研究者ジェフリー・スワンソン氏は語る。

    1968年に成立した連邦銃規制法は、精神病院に強制的に入院させられた者や、「知的障害」と診断された者の銃所有を禁じている。問題は、こうした制限の範囲が、広すぎると同時に狭すぎることだ。特に、自傷行為に走る危険性が高い多くの人々は、強制的に治療を受けさせられることはない。

    もう一つの問題は、精神状態を理由とする連邦銃規制が生涯続くことだ。自殺傾向が症状による衝動のあらわれであり、症状が軽減すれば衝動も収まり得ることは認識されていない。

    スワンソン氏によると、われわれがすべきことは、人々の行動が、自分自身や他の者を傷つける差し迫った危険性を示している場合に、それに気づいて、本人が回復するまで銃の入手を一時的に制限することだという。

    それを試みる法律を導入している州もある。カリフォルニア州では、自分自身や他の者を危険にさらすと見なされた者は、精神療養施設に72時間収容される可能性があるが、1990年以降は、この収容と同時に、銃の所有も5年間禁止されることになっている。ただし、この所有禁止期間は、裁判所への申し立てによって短縮される場合もある。

    こうした制限が有効であるかについては、確実な研究をまだ待っている状態だ、とスワンソン氏は言う。「こうした法に効果があるかどうかについて言及できるようになるには十分な経験が必要であり、しばらく時間が掛かるだろう」

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan