back to top

記者は全員、外国在住。最小限のコストでコンテンツを大量生産するWebメディアの謎

「クリック単価を最小限に抑えて最大のコンテンツを生み出すことばかりを考えていると、こういう事態に陥る」

Anna Mendoza / BuzzFeed News

オンラインメディア「International Business Times(IBT)」は、8カ国で展開し、1カ月のビジター数は全体で5000万に上る世界的メディアだ。

同メディアが公開した2017年メディアキットでは、「International Business Timesの各国版は、対象国に合わせた内容になっています」とし、1カ月のユニークビジター数ではオーストラリア版が8カ国中で3番目に多いとされている。

ところが、BuzzFeed NewsがIBTオーストラリア版サイトを確認したところ、オーストラリア関連ニュースのコンテンツを執筆しているのはフィリピン在住のライターであることと、オフィスとして掲載されているオーストラリア国内の住所で働く人々は、IBTとは関係ないと話していることが明らかになった。

IBTオーストラリア版を運営しているIBT Media(同社は、老舗雑誌『ニューズウィーク』などの各種メディアを運営するNewsweek Media Group傘下にある)にBuzzFeed Newsが詳しく問い合わせたところ、回答として短い声明文が寄せられた。それによると、アメリカのマネジメント側がオーストラリア版の運営を「引き継ごうとしているところ」なのだという。

声明文では、「IBT Mediaは現在、共通した世界的ビジョンを柱にして、運営するすべてのメディアの組織化を図るべく、重要な措置を講じています」と述べられている。

「そのプロセスの一環として、ニューヨークのマネジメントチームは、IBTオーストラリア版の運営引き継ぎを進めているところです。これまではフランチャイズ契約の下で運営されていましたが、現在、新たな戦略を実行に移しています。それにより、レポーターで構成される海外の小規模チームが夜間の報道を担い、ニューヨークとロンドンを拠点とする大規模ジャーナリストチームを支えていく予定です」

それに続いて声明は、ニューヨークのIBT Media本社はオーストラリア版を数カ月前に引き継いでおり、その措置はBuzzFeed Newsからの問い合わせを受けたものではないと繰り返した。

この声明文は、オーストラリアの商業登記と矛盾していると思われる。というのも、登記上は「International Business Times Pty Ltd」は引き続き、オーストラリアにおけるIBTのフランチャイズ権を持つジェームズ・コン(James Kong)によって運営されていることになっているのだ。コンは2006年に同社の商業登記を行った人物で、同社声明文でも名前が出ていた。

DomainToolsで、「IBTimes.com.au」と「IBTimes.com.ph」(IBT Mediaのオーストラリア版とフィリピン版の有効URL)のドメイン所有権記録を確認してみたところ、登録者は、コンとInternational Business Times Pty Ltdとなっていた。

BuzzFeed Newsは、シドニー在住の起業家であるコンに詳細を問い合わせたが、回答は得られなかった。

コンはまた、少なくとも18の英語ウェブサイトを運営している会社Tune Mediaの創設者兼会長でもある。それらのサイトのコンテンツ執筆は、主にフィリピンとインドのライターが担っている。

その中の1つにオーストラリアのニュースサイトがあるが、コンテンツを作成しているのは、オーストラリア国外に住むライターとエディターだ。Tune Mediaのウェブサイトに掲載されている本社の住所は、IBTオーストラリア版と同じシドニーのものだ。しかし、BuzzFeed Newsがその住所を何度か訪ねてみても、そこにあるオフィスで働く人は、IBTともTune Mediaとも関係ないと語った。

Tune Mediaの最高経営責任者(CEO)でフィリピン在住のジョエル・ミラグ(Joel Milag)がFacebookメッセンジャーを通じてBuzzFeed Newsに述べたところによると、コンは現在もIBT Mediaに関わっているという。同氏はコンのことを「IBTのアジア・パシフィック版」の責任者だと述べた。Tune MediaのライターがIBTオーストラリア版に寄稿しているかどうか尋ねると、ミラグ氏は「一部は寄稿している」と答えた。

Tune Media

海外在住の人材を使ってウェブコンテンツの執筆と編集を行っているのはIBT Mediaだけではない。ロイターなどの通信社はインドのライターとエディターを雇っている。また、実入りがいい英語市場をターゲットにするTune Mediaのような海外のウェブメディアはどんどん増えている。英語市場では、読者がより多くの広告利益を生んでくれるためだ。

こうした状況から、なぜマケドニアの若者がアメリカの政治系ウェブサイトの多くを運営しているのか、あるいは、ベトナムとコソボの人々がネイティブ・アメリカン専門のウェブサイトやFacebookページを作っているのかも、説明がつく。

アメリカやオーストラリアなどの先進国の人間は、海外から流れ込む安い商品を消費することが日常的となっている。そして現在、海外から安いニュースや情報を仕入れることも増えつつあるわけだ。しかも、たいていは知らないうちにそうしている。

IBT Mediaが注目に値するのは、同社が比較的大手のアメリカメディア企業であることで、1つの国でサイトを運営していながら、そのコンテンツを書くライターが誰一人としてその国在住ではない点だ。

『シドニー・モーニング・ヘラルド』紙の元エディターで、現在はシドニー工科大学でジャーナリズムを教えるピーター・フレイ教授は、IBTオーストラリア版の読者は同サイトの記事を、専門知識を持つ地元のライターが書いたものだと思って読んでいる可能性が高いとして、懸念を表す。

フレイ教授はBuzzFeed Newsに対して、「私たちは、グローバル化が進んだ市場で暮らしていることを認識すべきだ。しかしそうした状況は同時に、メディアやジャーナリストがオーディエンスと交わす約束に反していると私は考える」と語った。

「オーディエンスは、ジャーナリストが記事のテーマについて十分な取材や調査を行って知識を持っており、携わる市場の事情をよく理解しているはずだと考えている」

「フィリピンやインドのライターやエディターは高く評価できるが、彼らがオーストラリア事情についてわかっているとは思えない」

BuzzFeed NewsがIBTオーストラリア版、ならびに同サイトとTune Mediaの関係について調査を始めたのは2017年に入ってのこと。双方のマネジメントスタッフとライターが同じであることが明らかになったのがきっかけだ。IBTオーストラリア版に掲載されていたコンテンツの執筆者を確認すると、彼らがフィリピンやインドに住んでおり、Tune Media傘下のほかのメディアにも時おり寄稿していたことがわかった。

ここ最近、IBTオーストラリア版に多く寄稿しているビジネスニュースライターに、フリナリン・ウィルソン(Frenalyn Wilson)とダン・ぺレス(Dan Perez)がいる。ウィルソンはフィリピン人女性で、記事の署名はFacebookならびにLinkedInでは異なる姓になっている。一方、ペレスが実在する人物なのかどうか、BuzzFeed Newsは確認することができなかった。

ウィルソンの本名はフリナリン・アンタラン(Frenalyn Untalan)で、Facebookのプロフィール・ページではIBT MediaとTune Mediaのライターだと名乗っている(BuzzFeed Newsはウィルソンに連絡をとろうとしたが、コメントは得られなかった)。

ウィルソン(別名アンタラン)とは異なり、IBTウェブサイトにダン・ぺレスの略歴は掲載されていない。また、ほかのライターと異なり、署名のURLに彼の名前は含まれていなかった(ぺレス、ならびに別名の使用に関して問い合わせたが、IBT Mediaやコンから回答は得られなかった)。

IBTオーストラリア版のビジネスコンテンツの大半を作成しているのは、ウィルソンとぺレスの2人だ。その量は平日1日あたり3~6記事で、他のニュースソースからアグリゲーションされたものだ。BuzzFeed Newsはさらに、IBTオーストラリア版で現在執筆している4人のライターを突き止めた。ソーシャルメディアアカウントと公開されている情報からすると、彼らはフィリピン在住のようだ。

IBT Australia

IBTオーストラリア版では、少なくとも2011年からフィリピン在住のライターを使ってきた。以前IBTオーストラリア版に寄稿していたヴィットリオ・ヘルナンデス(Vittorio Hernandez)は、IBTに掲載されている略歴の中で、2011年から同サイトで記事を書き始めたと述べている。彼の署名は2011年の記事で確認できた。

ショーリア・アーリア(Shaurya Arya)もIBTの元ライターだ。彼の記事はTune Mediaのアメリカ向けサイト「morningnewsusa.com」にも掲載されていた。

アーリアは、ある時点でIBTオーストラリア版への記事執筆を停止した。その後しばらくして、同サイトでの彼の署名はレオ・オリバー(Leo Oliver)に変更されたが、もともとの略歴ページはそのままになっている。また、記事上部のレオ・オリバーの署名横には、アーリアのツイッターアカウント「@shauryaarya1」が表示される(IBTとは関係のないウェブサイトのドメイン登録記録によれば、アーリアは本物のライターで、インド在住のようだ)。

BuzzFeed Newsはコンに対し、IBTオーストラリア版では、地元のライターを採用しているように見せかけるため、一部の執筆者についてオーストラリア風の名前を使用したのではないかと尋ねたが、回答は得られなかった。

さらにBuzzFeed Newsは、IBTオーストラリア版に掲載されているシドニーの住所を3回訪問したが、コンは不在だった。それどころか、そのオフィスにいた全員から、自分たちはIBT MediaやTune Mediaの従業員ではないという答えが返ってきた。しかし、そのオフィスの住所は、IBT MediaとTune Media両方の登録住所だと記載されているのだ。

2017年3月にその住所を初めて訪れたときは、IBT Mediaのロゴが描かれた大きなオフィスで、3人がデスクで働いていた。しかし、その中の女性1人に、Tune MediaかIBT Mediaの従業員かと尋ねると、違うという答えが返ってきた。間借りしているスペースで働いているのだという。

同じ場所を今週ふたたび2回訪れたが、そこにいた人たちからは同様の答えが返ってきた。仕事をしているその場所はIBTオーストラリア版のオフィスなのかと尋ねると、1人の男性が顔を上げ、「わからない」と答えた。

その男性が連れてきた別の男性も、IBTの従業員は今は誰もおらず、「メディア業界の人間は、出勤しないで家で仕事をするケースも多いから」と述べた。

ダニーと名乗るその男性によれば、そこにいる人間はみな法律事務所の従業員だという。そして、名刺を差し出すと、ジェームズ・コンに渡すと言って受け取った。BuzzFeed Newsはその翌日にふたたびそのオフィスを訪ね、働いている別の男性にIBTメディアの従業員かどうか聞いてみたが、答えはノーだった。ダニーは不在だが、問い合わせがあったことを伝えてくれるということだった。

BuzzFeed News

IBTメディアがBuzzFeed Newsに寄せた声明によると、同社は現在、再編成の最中で、結果として、6カ国版を展開するかたちになったようだ。ただし、ウェブサイトではまだ8カ国となっている。

声明では、イタリア版と日本版は「数カ月前に」閉鎖されたとされている。「オーストラリア版と同様、イタリア版と日本版もフランチャイズ運営されていましたが、今回の再編成を受けて、数カ月前に閉鎖されました」と述べられている。

同社は、遅くとも2016年には再編成に着手したようだ。2016年3月には少なくとも15人が解雇され、それに続いて2016年夏にも30人以上の編集スタッフが解雇された。

まもなくして、元従業員たちが、退職金が未払いだとして公に苦情を申し立て始めた。さらに元従業員たちは、アメリカのオリヴェット大学に同社が寄付した金額について疑問視している。同大学の創設者は、物議を醸している韓国の宗教指導者、張在亨(ジャン・ジェヒュン)だ。

『Mother Jones』が2014年3月に報じた記事によれば、IBTを創設したジョナサン・デイヴィス(Johnathan Davis)とエティエンヌ・ウザク(Etienne Uzac)はオリヴェット大学に通っていたほか、張在亨および同大学と密接なつながりを持っているという。

IBTは2013年、『ニューズウィーク』を買収。そして、2017年4月にニューズウィーク・メディアグループ(Newsweek Media Group)と改名した。同社の話によると今回の再編成は、「世界で高く評価され、誠実で信頼性のあるニューズウィークの歴史あるジャーナリズムを引き継いだ独自の視点を、消費者やビジネスリーダーに提供する」ために実施された。

IBTを創設したデイヴィスとウザクは現在、ニューズウィーク・メディアグループのマネジメントチームが紹介されたページに名前を連ねてはいない。しかし、ウザクのLinkedInページによれば、ウザクは現在、ニューズウィーク・メディアグループの会長を務めている。

フレイ教授によると、IBTオーストラリア版の運営は、できるだけ安くコンテンツを生み出そうというやり方に手を出した時にメディアが陥る事態を体現しているという。

「クリック単価を最小限に抑えて最大のコンテンツを生み出すことばかりを考えていると、こういう事態に陥る」とフレイ教授は語った。

Additional reporting by Mark Di Stefano.

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

BF Japan Newsに連絡する メールアドレス:daichi.ito+bfjapannews@buzzfeed.com.

Craig Silverman is a media editor for BuzzFeed News and is based in Toronto.

Craig Silvermanに連絡する メールアドレス:craig.silverman@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here.