大統領就任後、ドナルド・トランプ氏のビジネスや資産はどうなるのか

    トランプ・オーガニゼーションの経営にはトランプ氏の息子2人があたり、持ち株はトラストが管理することになる。1月11日に弁護士はそう語った。

    1月20日(現地時間)、米大統領に就任する予定のドナルド・トランプ氏。就任後のトランプ氏は、現在自身が手がけるビジネスへの日々の関与からどのように身を引くのだろうか。1月11日に開かれた記者会見で、トランプ氏とその弁護士シェリ・ディロンは、そのあらましを説明した。

    トランプ氏がアメリカ国内外に構築するビジネスの巨大なネットワークは、利益相反になる可能性があるとして以前から議論されてきた。本記事では、トランプ氏が大統領に就任したら、これらのビジネスがどうなるのかを取り上げてみる。

    トランプ・オーガニゼーションは誰が所有するのか?

    根本的なオーナーシップが大きく変わることはない見込みだ。ドナルド・トランプ氏が自身の事業の多くに関して保有する株式は、トラスト(信託)に移されることになる。これは、所有者に代わって第三者が、資産を包括的に管理することを認める法的措置だ。

    過去の大統領たちは、自身の貯蓄や投資をいわゆる「ブラインド・トラスト(白紙委任信託)」に移してきた。ブラインド・トラストは外部の投資マネージャーによって運営され、所有者の関与を伴わない。これによって利益相反の恐れは軽減されてきた。というのも大統領本人が、自身の金がどこにどのように投資されているのかを知ることはなかったからだ。

    だが、トランプ氏の場合はブラインド・トラストにはならないだろう。トラストはトランプタワーやゴルフコースなどの資産を保有していることを忘れるなど、無理な話だからだ。トランプ氏のトラストは、現金や株式ポートフォリオも管理することになる見通しだ。

    トランプ氏が保有する多くの資産(企業の株式)については、家族などほかの人々や、外部投資家などの企業が、トランプ氏と所有権を共有している。こうした資産については、新たな措置のもとでも変わることはないだろう。ただし、これに対する重大な例外がひとつある。トランプ氏の娘、イヴァンカは、「全普通株を含む、かなりの株式資産を売却」する予定だ、と彼女の弁護士が1月9日づけで「Politico」に語ったのだ。

    トランプ・オーガニゼーションは誰が経営するのか?

    トランプ・オーガニゼーションの経営については、トランプ氏の息子2人、ドナルド・ジュニア(長男)とエリック(次男)が、現在同社で最高財務責任者(CFO)を務めるアレン・ワイセルバーグとともにあたることになる。

    娘のイヴァンカは、以前はトランプ・オーガニゼーションの幹部で、現在は父の企業の株式を所有するが、家業に「今後これ以上関与することはなく、職務権限をもつこともない」と彼女の弁護士は語っている。彼女の夫ジャレッド・クシュナーは大統領上級顧問に就任し、ホワイトハウス入りする見込みだ。

    自身の投資をイグジットする一環として、イヴァンカは、会社の株式から得られる配当の受け取りをやめることになるとPoliticoは伝えている。それに代わって、今後彼女は「さまざまなプロジェクトから生じる一連の支払いを、定額で受け取ることになる」ようだ。

    なぜトランプ氏は自身の事業を売却しなかったのか?

    トランプ氏の弁護士シェリ・ディロンは、トランプ・オーガニゼーションを売却するプロセスは新たな利益相反を生むことになると述べた。部外者がトランプ氏のホテルやオフィスタワーを買えば、何千万~何億ドルという金が、大統領就任前後の数カ月間にトランプ氏の手に渡ることになり、彼らが支払う額はご機嫌取りの一手段としてみなされる恐れがあるというのだ。

    IPO(株式公開)を介したトランプ・オーガニゼーション株の売却、つまり、トランプ・オーガニゼーションを公開会社として株式市場に上場することは「現実的ではない」「面倒で複雑なプロセス」であり、「妥当とは言えない」とディロン弁護士は述べた。

    海外のパートナーとの取引については?

    ディロン弁護士によると、アメリカ国外のパートナーとの間で新規の取引が行われることはなく、締結過程にある契約は解除される。約30件の取引がこれによる影響を受ける見込みだという。

    記者会見の後半でトランプ氏は、先日、ドバイに本社を構えて不動産開発業を手がける上場企業、DAMACプロパティーズの創業者でもあるフセイン・サジワニ最高経営責任者(CEO)から提案された20億ドル相当の不動産プロジェクトを断わったと述べた。

    トランプ・オーガニゼーションは外国政府から金を受け取るのか?

    トランプ氏は、自身所有するホテルに、外国の政府関係者たちが宿泊した場合の支払いを、一つの例としてあげた。トランプ氏が所有するホテルは今後も継続してこうしたゲストを受け入れるが、事業から得られる利益はすべて、米財務省に寄付されるという。

    会見でトランプ氏や弁護士は、これが機能するしくみについて具体的に説明しなかったが、財務省財政業務局(BFS)では、国庫に寄付できるプログラムが運営されている。

    これで利益相反の問題は解決されるのか?

    以前からトランプ氏は、利益相反に関する連邦法規は大統領には当てはまらないし、経営管理を息子たちに譲り渡すことで、自身は要件に十二分に応えられると言ってきた。だがトランプ氏は、アメリカ国内外の資産を含む、無秩序に広がる事業ポートフォリオをいまだに所有している。これらの資産は、政府の方針による直接的な影響を受けるだろう。

    ディロン弁護士によると、トランプ・オーガニゼーションには倫理アドバイザーがつく。アドバイザーには「倫理や利益相反に関する懸念を潜在的に引き起こしうる、新たな取引や活動、売買など」に対して承諾書を出すことが義務づけられるという。

    政府の透明性を監視する非営利組織「サンライト・ファウンデーション」は、トランプ氏の潜在的な利益相反に関するリストを保持してきた。1月11日の発表を受けて同団体は、懸念の多くは残ったままだと述べた。

    サンライト・ファウンデーションは、「トランプ氏の計画は、大統領職を自己取引や憲法への抵触、腐敗とみなされる行為、そのほかの職権乱用に関して懸念される状態にするものだ」と主張している。「統治と倫理に対するトランプ氏のアプローチは、何十年にもわたって受け入れられてきた近代民主主義的な説明責任の規範を否定するものだ」

    政治倫理専門家や当局は、この計画をどう思っているのか?

    評価は低い。

    米政府倫理局(OGE)のウォルター・ショーブ局長は1月11日、トランプ氏の記者会見のあとに行われたスピーチのなかで、「トランプ氏自身の計画は、彼が選んだ閣僚候補者や、過去40年間の全大統領が満たしてきた基準にさえも合致しない」と述べている

    ショーブ局長は、トランプ氏が設置しつつあるトラストは「ブラインドという状態に半分も満たない」と指摘。政府倫理局は、トランプ氏のトラストを計画するプロセスの「蚊帳の外」に置かれてきたと指摘した。

    「(もし機会があれば)われわれは、この取り決めは法定要件を満たしていないと彼らに伝えただろう」とショーブ局長は述べた。

    ショーブ局長は、トランプ・オーガニゼーションとトランプの息子たちが、彼らが所有する建物やビジネスを手放さないのなら──事実、彼らはそう計画している──、トランプ氏がビジネスの運営について知ることは避けがたい、というトランプ氏の弁護士の発言に同意した。

    「ブラインド・トラストなら、そのようなことにはならない」と同局長は述べた。


    翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan


    この記事は英語から翻訳されました。