食肉になる子犬を救え! 「子犬工場」に立ち向かう人たち

    「パピーミル(子犬工場)」の残酷さを伝えるドッグショーが英国ロンドンで開催された。インドやアフガニスタンなどで保護された犬やその飼い主たちも集まった。

    英国では、「パピーミル(子犬工場)」によって、多くの犬たちが苦しんでいる。しかし、その実態を知る人はほとんどいない。

    パピーミルでは多くの場合、犬たちは十分な餌を与えられず、十分な愛情を受けることもなく、次から次へと妊娠出産させられる。犬たちは、ブリーダーの私腹を肥やすためだけに存在するのだ。子犬の繁殖・販売に関する規制は皆無に等しい。

    ロンドンの「プリムローズ・ヒル」で9月2日に開催された「パップ・エイド(Pupaid)」は、最も倫理的な犬の入手方法を人々に伝える、1日限りのドッグショーだ。パピーミルの拡大を阻止し、より多くの犬たちに「終の住処」を与えることを目的に、マーク・エイブラハムさんが立ち上げた。

    BuzzFeed Newsは会場を訪れ、さまざまな環境で苦しんでいた犬たちを救った、素晴らしい人々から話を聞いた。

    ウィル・ホーキンス、息子のオーウェンと、ハッチ(アナトリアン・シェパード・ドッグ

    ホーキンス夫妻はFacebookでハッチに関する投稿を見付け、ペットとして迎えることを決断した。ハッチは、イーストロンドンのスピタルフィールズにある鉄道車両基地に捨てられ、列車にはねられて重傷を負った犬だ。

    「ハッチは列車によって膝下を粉砕され、尻尾も切断されました」とホーキンスは説明する。「結局、けがをした脚も切断されました。そして約2カ月後、私たちはたまたま彼のことを知り、たとえ1~2年で別れることになっても、彼に家を与えたいと思ったんです。彼がどれくらい生きられるかわからなくても、まともな暮らしを与えることはできます」

    ホーキンス一家がハッチを迎えたとき、予想外のことが起きた。それは、息子のオーウェンとハッチの絆だ。

    「ハッチが来る前、オーウェンが外出するときには、いつも私が肩車や抱っこをしていました」とホーキンスは話す。「彼は注目されるのが嫌で、車椅子に乗りたがらなかった。車椅子に乗れば、じろじろ見られると思っていました。しかしハッチが来てからは、散歩の手伝いが必要になったんです。最初の1カ月、人々はハッチに何があったのかと尋ねてきた。オーウェンは、私が質問に答えるのをそばで聞いていました」

    「オーウェンは徐々に自信を持ち始め、人々と関わるようになりました。そして間もなく、人々がじろじろ見ているのは、自分ではなくハッチだということに気付いたんです。オーウェンは以前と比べものにならないほど話すようになり、かつての自信を取り戻しました。そして、オーウェンとハッチの間に絆が芽生えました。オーウェンが学校から帰って来ると、いつもハッチが待っているんです。夜になると、ハッチはオーウェンのベッドに飛び乗っています。彼らは離れられない関係なんですよ」

    デイビッド・ヒルと、元野良犬のシャリファ

    ヒルはシャリファを、「ナウザード(Nowzad)」という慈善団体から譲り受けた。アフガニスタンの野良犬たちを保護し、世界中で飼い主を探すという団体だ。

    「(シャリファは)マザリシャリフの有名な寺院のそばで発見され、動物病院に運ばれたんです」とヒルは説明する。「病院に連れて来られたとき、彼女の首にはきつくロープが巻かれて、ひどい疥癬(かいせん)でした。数度にわたる手術と手厚い看護のかいあって、彼女は回復しました。残念ながら、けがのせいで、もう頭を持ち上げることはできませんが…」

    ヒルは2017年2月、シャリファに会うためアフガニスタンを訪れ、英国の自宅に連れて帰った。

    「朝と夕方、私のところにやって来て、ちょっと遊んでもらうのが彼女の日課だ。保護された犬はもう1匹いたんですが、脳腫瘍のため、安楽死させなければならなかったんです。そのときすぐ、シャリファに住む家を与えなければと思いました。しつけに苦労するだろうなと思っていましたが、混乱はなかったです。本当に素晴らしい存在です。一日中ひたすら眠り、これまでより幸せに暮らしている」

    アマンダ・リースクと、元野良犬のバダル

    バダルは、傷だらけでインドの街をうろついていたとき、慈善団体「ガーディアンズ・オブ・ザ・ボイスレス」に保護された。リースクは、ソーシャルメディアに投稿された動画を見て、彼を助けなければならないと思った。

    「(バダルに何があったのか)正確にはわかりませんが、体に付いた傷を観察した限り、なたのような刃物で傷付けられた可能性が高いと思います。悲しいですが、インドではよくあることです。ガーディアンズ・オブ・ザ・ボイスレスは本当に素晴らしい活動をしています。もし彼らがあきらめていたら、バダルは10分後に注射を打たれ、苦しみから永遠に解放される運命だったのですから」

    「しかし彼らは、バダルの目に光を見いだし、チャンスを与えることにしたんです。顔の傷は不恰好かもしれないが、この傷も彼の誇りです。本当に素晴らしい犬です。私には彼の目が、少しほほ笑んでいるように見えるんです」

    ミラクル

    リースクは、ミラクルというオスの犬も引き取っている。リースクによれば、「犬肉取引の象徴」だという。ミラクルは保護されたとき、ベトナムに運ばれる途中だった。

    「最初にミラクルの写真を見たのはソーシャルメディアでした」とリースクは振り返る。「写真を撮影したのは、以前一緒に保護活動に従事していた知り合い。彼女は、肉屋のトラックの木箱から顔を出していた犬を撮影したんです。その犬は逃走しようとしたが、つっかえてしまい、自分の首を締める状態になっていました。目を閉じ、すでに死んでいるような状態でしたが、写真を撮ると目をあけ、その後、歴史物語のような壮大な救助活動になったんです」

    「ミラクルに初めて会ったとき、テレパシーでつながっているような感じがしました。彼は私が何者かを知っていたんです。彼の回復を待ち、9カ月後に迎え入れました。彼は病気でしたが、すぐに通じ合うことができました。港まで迎えに行き、寝台車でスコットランドに連れて帰りました。ずっと私の胸で眠っていました。すぐに、接着剤のような絆が生まれたんです」

    「ミラクルは、まだ小さい私の息子と対面し、もう一つの絆が芽生えました。息子は、脳性まひと自閉症を患っています。ミラクルと息子は、ドッグショー『クラフツ』で『フレンズ・フォー・ライフ(生涯の友)』賞を頂きました。ミラクルは、『Daily Mirror』と『英国動物虐待防止協会(RSPCA)』による『アニマル・ヒーロー』賞も。そして本にもなりました。犬肉取引への関心が高まっているのは彼のおかげです。今は、身体障害者補助犬として登録する準備を進めています。彼は補助犬にふさわしい、と心から思うからです。実際、息子を乗せたバギーを引っ張り、息子の足代わりを務めています。私は運命を信じています。彼は家族の一員になる運命だったんです」

    ティナ・ロベルと、ビーグルのビー

    ビーは、「ビーグル・フリーダム・プロジェクト」という団体によって、ハンガリーの動物実験施設から助け出され、ペットとして英国に迎えられた。ロベルはハンガリーに行ったとき、「ビーと別れることができなかった」と振り返っている。

    「ビーは、声帯を切られた可能性があります。ほとんど鳴くことができず、キーキーという音を立てるくらい。動物実験で声帯を切ることは時々あるようですが、本当のところはわかりません。彼女に何をしたのか教えてくれませんでしたが、彼女を救うことができた。それで十分です」

    ロベルは、ビーと出会った瞬間について、本当にすてきな体験だったと表現している。「ただ素晴らしかった。誰もが、子犬が初めて歩く動画をYouTubeで見たことがあると思うけど、あんな感じです。初めて対面したとき、彼女はとても臆病でした。保護活動に従事する7人はとても疲れていたが、彼女を抱き締めたい一心で活動を続けました」

    リサ・ガーナーと、プラム・プディング(プードルのミックス)

    プラム・プディングは生後6カ月のとき、「メニー・ティアーズ」という慈善団体によって、ウェールズのパピーミルから救出された。もともと繁殖犬として一生を終える運命だったが、体が小さかったため、無事に脱出できた。

    「体重が2キロしかなかったため、繁殖に適した大きさまで育たないと判断された。彼女は本当に幸運でした」とガーナーは話す。「彼女は保護されたとき、おがくずまみれでした。毛はもつれた所だらけで、耳の感染症にかかっていました。極度の低体重で、あばら骨が浮き出ていました。私は元繁殖犬を3匹飼っていますが、一番幼いんです」

    パピーミルへの関心を高めることが重要だと、ガーナーは考えている。「このようなイベントに参加することは本当に重要です。多くの人は、保護犬をペットにできるという事実、雑種を入手できるという事実、どんな種類の犬でも見付かるという事実を知らないんです。しかも、パピーミルへの最も効果的な対抗策ですしね」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan