男でも女でもなく、性別は「U」。そんな赤ちゃんの健康保険証

    ジェンダー欄は身分証明書に必要なのか?

    カナダの州政府が、性別を男や女ではなく「U」と示す健康保険証を乳児に対して発行した。成長した本人がジェンダーを決めるべきと考える親が勝ち取った。この親を支援する弁護士は「大きな一歩」としている。

    ブリティッシュ・コロンビア州政府が、シーリル・アルティちゃん(8ヶ月)に対し、性別をUとする保険証を発行した。身分証明書に性別やジェンダーを載せないことを求める団体「ジェンダーフリー身分証明書連合(Gender-Free I.D. Coalition)」が6月30日、発表した。

    同団体は「U」が「Unspecified(特定されていない)」「Unknown(不明)」を指すとみている。

    カテゴリーにとらわれず

    シーリルちゃんを出産したのは、コリ・ドティさん。昨年11月に友人宅で出産し、医師が子どもの性別を決める性器検査はしなかった。

    ドティさんは、男性とも女性とも自認しない「ノンバイナリー」のトランスジェンダーだ。CKNW Newsに対して、生まれたときに間違ったジェンダーを当てはめられたと打ち明ける。ブリティッシュ・コロンビア人権裁判所で、「ブリティッシュ・コロンビア・トランス同盟」や他の8人とともに、出生証明書を変える権利を求めて訴えている。

    同じような経験をシーリルちゃんにはさせたくないドティさん。「男の子はこうするべき」「女の子はこうするべき」といったカテゴリーにとらわれず、興味や関心を育んでほしいと願っている。

    「その人の意志に反して誰かの身分証明書を変えるように要求しているわけではありません。構造を変えるように要求しているのです。特に出生証明書など、どう身分証明が始まるかという構造です」。ドティさんはCKNW Newsに語る。

    「大きな一歩」

    封書で届いたシーリルちゃんの「U」の保険証。ドティさんを支援するバーバラ・フィンドレイ弁護士はBuzzFeed Newsに「大事なこと。大きな一歩だ」と評価する。

    「政府が子どもが生まれたときの性別を認定する権利はないと認めるものです。プライベートなことであり、後に変わることもあるのです」

    ただ、ブリティッシュ・コロンビア州政府が「U」としたのは、保険証だけ。人口動態庁は、性別を記入しない出生証明書を発行することをまだ拒否しているという。

    これに対してドティさんは「個人の生活・自由・安全、表現の自由、権利と自由憲章のもとの平等といったカナダ市民としての権利の侵害だ」などと訴えている。

    「わが子の性別を決めつけません。自らのジェンダーアイデンティティ(性自認)を発達させるぐらい十分に大きくなったときに、どう自認するか決めるのはシーリルなんです。性器を調べることで生まれたときのジェンダーを恣意的に決めつけて、自分で選べなくはさせません」

    ジェンダー欄は必要か?

    「トランスジェンダーやインターセックスの人たちは、自らのジェンダーに合わないジェンダーを載せられた証明書という重荷を負わされている」

    ジェンダーフリー身分証明書連合はこう主張し、最終的に、出生証明書・パスポート・運転免許証などすべての公的身分証明書からジェンダー欄を除くことを求めている。

    例えば、加オンタリオ州も、性別の「詳細不明」を意味する「X」を保険証で選べるようにしたという。だがこの解決策は、すでに周縁化された人たちを標的にするもので、差別を減らさないと主張する。

    「文書から完全に性別をなくした方がいい」とフィンドレイ弁護士。「赤ちゃんのジェンダーアイデンティティ(性自認)は徐々に育っていくんです。出生直後、医者が性器を調べるときではない」

    ドティさんはCBCに子育て論を話している。

    「自分が誰なのか話せる自我や語彙を持つまで、赤ちゃんとしてみます。男という箱、女という箱に閉じ込めることなく、一体的な人格を持てるように大きな愛情を注ぎ、サポートをします」


    BuzzFeedNewsはインターセックスやジェンダーを巡る議論について「女を否定され、競技人生を絶たれたアスリート 性を決めるのは性器かホルモンか? 」「えっ?英語『They』にこんな意味もある......その深いわけ 」をまとめています。

    この記事は英語から編集しました。