トランスジェンダーへの偏見は、たった10分で変えられる

    会話こそが、人の心を変える

    大統領選の候補者選びが白熱するアメリカ。戸別訪問を行うボランティア運動員が、有権者と10分間の会話をするだけで、トランスジェンダーの人々に対するネガティブな感情を軽減させられることが、新たな研究によって明らかになった

    雑誌「サイエンス」で発表されたこの研究によると、10分間の会話で見られた変化は、アメリカで1998年から14年間に起こった、ゲイの人々に対する感情の変化よりも、大きかったそうだ。

    トランスジェンダーの人たちが生来の性以外でトイレを使用することを禁止する新法を通過させたノースカロライナ州など、多くの都市や州が、反LGBT新法を成立させる動きがある。今回の研究結果は、有権者の態度を変化させる上で、大きな意味を持つかもしれない。

    「有権者に関する多くの先行研究では、偏見や政治的見解は非常に強固で、変わりにくいとされてきた」。政治経済が専門で、この論文の共同執筆者であるスタンフォード大学准教授のデイビッド・ブルックマンは、このようにBuzzFeed Newsに話した。「非常に大きく、長期的効果を期待できることが明らかになった。これは予想外だった」

    この新しい研究は、ロサンゼルスLGBTセンターと、サウスフロリダで戸別訪問を実施したSAVE Miamiの支持者の協力によって生まれたものだ。ブルックマンと研究チームのメンバーは、収集したデータを分析した。

    56人の戸別訪問員 (トランスジェンダーの人も、そうでない人も含む)が、ブルックマンとそのグループが送付した調査項目に、あらかじめ回答した有権者と会話を行った (有権者は、この2つの出来事が関連していることを知らない)。最初の戸別訪問活動の後、ブルックマンは3日後、3週間後、6週間後、3カ月後にフォローアップ調査をし、トランスジェンダーの人々に対する有権者の態度を評価した。この調査は、別の話題(今回の場合はリサイクルだった)に関して会話した別の有権者グループの態度と比較対照された。

    研究者らは、トランスジェンダーの問題に関する10分間の会話を行った集団の方が、リサイクルに関する話をした集団よりも、トランスジェンダーの人々に対して肯定的な態度を示す結果が出た (この結果は、戸別訪問員がトランスジェンダーかどうかには、よらなかった)。

    有権者の態度を評価するのに、「感情温度計」という指標が使われた。101度が最高の感情温度計で測定すると、戸別訪問で会話をしたグループの、トランスジェンダーに対する肯定的な感情は、平均で10度上昇した。研究者たちは、この数値の伸びは、1998年から2012年までの間にアメリカ人に見られたゲイやレズビアンに対する肯定的な感情の上昇度の平均である8.5度よりも、大きいことを指摘した。

    トランスジェンダーの問題に関する戸別訪問を受けた人々は、トランスジェンダーに否定的な宣伝などにも、影響をされにくいという結果が出た。

    ブルックマンの研究チームがなぜ、トランスジェンダーの人々に対する肯定的態度を大幅にアップすることができたのかは、誰にもわからない。過去数十年の間、ゲイやレズビアンに対する、社会の否定的な感情を変えようという闘いを考えればなおさらだ。

    ケイトリン・ジェンナーなど、ポップカルチャーの中で、トランスジェンダーの人々がより目立つようになったことなどで、有権者の心を動かしやすくなっているのでは、という人もいる。

    ロサンゼルスLGBTセンターのリーダーシップ研究所所長のデイブ・フライシャーは、この考えには否定的だ。「そのような考え方を裏付けるデータは全くない」とフライシャーは言う。「単に会話が人の心を変えられるのかもしれない」