幼児教育・保育の無償化とは


待機児童問題が悪化する可能性
11時間保育を基本とする保育所の利用料は、認可保育所なら全額無償、認可外保育施設なら月額3.7万円まで助成される。
一方、5時間保育を基本とする幼稚園への助成は月額2.57万円まで。これを超えた利用料は利用者負担だ。
この金額の差を受け、従来制度なら幼稚園を希望していた人が保育所に流れる可能性があり、待機児童が増えることも懸念される。
保育士の処遇改善なしに、保育の質は保たれるのか
今、保育士不足は深刻だ。人材不足の原因としては、保育士の労働環境の悪さや賃金の低さなどが指摘されている。

食材料費負担の混乱
教育費と保育費が無償化される一方、給食の食材料費は利用者が実費負担する。
食材料費は各施設が自由に設定できるため、普光院さんは実費とかけ離れた費用が提示されないかと危惧する。
「アレルギー対応や特別な食育プログラムと銘打った追加料金を徴収することがあるかもしれない」
普光院さんが代表を務める「保育園を考える親の会」では、明らかに高い食材料費を提示された会員がいたそうだ。
「注意しなきゃいけないのは、人件費や設備費はここ(食材料費)には入らないということ。『人手がかかってるので食材料費を高く設定します』なんてことはナシ」
そのほか、食材料費を抑えるために副菜を減らした施設があることもSNSなどで話題になった。
保育園から悲しいお知らせ。10月からの保育料無償化に伴い給食費が有料になるんだけど、副食代が我が園では国が目安としている4,500円よりもずっと高く、少しでも下げるため、一汁三菜から一汁二菜に。そしておやつのフルーツを廃止ですって…!
普光院さんはさらにこう続ける。
「食事という現物支給をする給食の仕組みは子どもの貧困対策としても有効であり、学校給食の無償化を求める意見もある。子どもの食事の保障は、児童福祉の重要なポイントだ」
高所得者ほど恩恵が大きい
天野さんは「税の再配分という観点で偏りが見られる」と指摘する。
認可保育所の利用料は従来世帯年収に応じて設定されており、低所得者の利用料負担は少なかった。しかし無償化は世帯年収に関わらず適用されるため、高所得者層ほど減額の恩恵を多く受けられる。
所得によっては、食材料費などを実費負担することによって、かえって負担額が増えるパターンもあり得る。
幼稚園や認可外施設で“便乗値上げ”
幼稚園や認可外保育施設は利用料を自由に設定できるため、無償化のタイミングに合わせて利用料を値上げした施設もある。
便乗値上げについては以前から問題視されていたものの、対策がなされないままに無償化がスタートした。この問題について普光院さんはこうコメントする。
「幼稚園の多くは実際のところ経営が厳しい。改築もしなければならない。値上げは仕方がない面もあるのかもしれない。でも税金は目的に沿って使われるべきであって、“桶屋が儲かる”みたいなことはおかしい」
「幼稚園教諭の給料を上げたり、施設の改築などが必要なのであれば、そのための補助金で手当てすべき」
無償化を先行した韓国「必要な質の保証ができていない」
韓国では2012年、少子化対策の一環として無償化を導入した。しかし当初の期待通りには機能していないと報道されている。
朝日新聞によれば、韓国では「保育料補助の予算が肥大化する一方、保育の中身や保育士に投資できなくなった」「巨額の保育予算を使っているにも関わらず、少子化が進んでいる」などの非難があり、制度の見直しや廃止について議論が始まっているという。
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