「ワーママ=早く帰る人」そんなイメージが世の中に定着している。
しかし今は高齢化の時代。親の介護をしながら働く人、病気の治療をしながら働く人が増えていくだろう。副業や趣味に時間をあてるなど、働き方も多様化している。
それはつまり、制約のある社員が増えているということ。「早く帰る人」はワーママだけに限らない。
「ワーママにとって働きやすい会社は、誰にとっても働きやすい会社なんです」
そう語るのは、ライフキャリア支援を専門とする堀江敦子さんだ。

堀江さんは2010年に起業し、「子育てしながらキャリアアップする人材・組織を育成する」をテーマに事業を展開。
その中で、ワーママの働き方が職場に貢献する事例を多く見てきたと言う。
「子育てのために柔軟な働き方を希望することは、決して、“ワーママのワガママ”ではなく、皆のためにもなるイノベーションなのです」
みんな残業しているのに先に帰って申しわけない、子どもの発熱で欠勤が続き迷惑をかけてしまった……肩身の狭い思いをしがちなワーママに、堀江さんはこう語りかける。
「堂々と、自分自身の働きやすさにこだわってみてください」
職場を変えた、ワーママの一声
子どもの世話に家事。保育園の送り迎え。急な体調不良への対応。
子育てしながら働いていると、仕事を効率化させなければ立ち行かない。この仕事効率化のノウハウこそ、多くの企業が必要としているスキルだ。
「5年ほど前でしょうか。ある企業に長時間労働が習慣化している部署があったんです。残業時間が毎月100時間を超える人がいたりして」
若手の多い部署だったが、その中に一人のワーママがいた。
ワーママは毎日17時に退勤。どのようにして17時までに仕事を終わらせているのか、生産性を上げるにはどうすればいいのか、自身が実践する仕事術を社内でプレゼンした。
その後、部署全体の残業時間が軽減。
当時のマネージャーも長時間労働に課題意識をもっていた。どうすれば残業を減らせるかと頭を悩ませていたときに、ワーママから打診があったのだった。
「『17時に帰る私の働き方は、残業の多い社員の働き方を改善するヒントになるはず。だから話をさせてほしい』と伝えたそうです。チームのためになる、という提案が大切ですね」
いまや長時間労働は社会全体の問題。堀江さんは「上司から依頼がなくても、自分から積極的に働きかけてもいいんです。それは、職場のためになるからです」と話す。
子育ての緊急事態にどう備えるか
どれだけ自己管理をしていても、子育てに緊急事態はつきものだ。
「急な早退や欠勤で『仕事に穴を空ける』ことに対しては、後ろめたさを感じる人がほとんどかもしれません」
「でも、ここであえて、“逆転の発想”をしてみてほしいのです」
急な欠員に対応するには、属人的な業務を見直したり、誰でも業務が遂行できるマニュアルを作成したりする必要がある。
堀江さんが取締役社長を務める「スリール」では、案件ごとにチームを結成。1つの案件に原則3人の社員が携わることで、誰かが欠けても支障をきたさない体制が整っている。
さらには意思決定をチームで行うことで多様な意見を検討でき、質の高いアウトプットにつながっていると堀江さんは言う。
「急な早退、欠勤は、職場にとってマイナスではなく、チームワークをもっと強くしたり、助け合い文化を育てたりする効果も望めます」
職場に助け合いが足りないと感じたら、ワーママから上司や同僚に要望を出せばいい。職場のため、チームのため。その視点があれば相談もしやすいだろう。
職場に味方を増やすために
チームで動く以上、起こり得るシチュエーションを共有しておくことも大切だ。
「『最悪の事態』を想定してシミュレーションし、その対応策をチームともあらかじめ共有しておきましょう」
伝えるときにおさえるべきポイントとして、堀江さんは“4K”を掲げる。「覚悟・懸念・交渉・感謝」だ。
例えば、こんなふうに。
「3年後には後輩を育成する立場になりたいです。【覚悟】
でも今は、子どもの体調が安定しないため日々の業務をこなすだけで精一杯。しばらくは先のキャリアに向けて行動する余裕がありません。【懸念】
日々振り返りをして業務改善を行っていますが、子どもの体調はどうすることもできず、突然の欠勤を避けられません。自分が休んでも回る体制を作りたいです。例えばチームを3人制にして……【交渉】」
そして、フォローを受けたら【感謝】の気持ちを伝えることを忘れずに。
「最初が肝心です。最初に伝えておけば上司や同僚も想定できるので、突然フォローが必要になってもマイナスの感情は生まれないはず」
フォローに対してきちんと感謝をすれば、むしろプラスの評価になることもあり得る。
「一度味方につけたら、仕事がグッとしやすくなりますよ」
私、仕事やめたほうがいいのかな…と思ったら
どんなに理想を掲げても、子育てをしながら働く上で悩みや苦労は絶えない。
キャリアに行き詰まったり、周囲に迷惑をかけて気を揉んだり、子どもとの関係に悩んだり。「仕事やめたほうがいいのかな」そんなふうに考えることもあるだろう。
そんなワーママに、堀江さんはこんな言葉を投げかける。
「悩んでるのはあなただけじゃない。それに、完ぺきにしなくっていいんです」
「核家族で、共働きで、その上ワンオペ育児。この状況を完ぺきにこなした人なんて、歴史上どこにもいないんです。だから“完ぺきにできてないからダメだ”なんて思わないでください」
国や自治体のサポートはもちろんのこと、職場の理解やサポートを必要とするのは当然だ。
多くのサポートを受けながら、ワーママが働きたいように働く。そのこと自体に大きな意味がある。
「先人のワーママのおかげで、今、誰もが子育てしながら働くことができる時代になってきました。ここで諦めてしまったら、この世代でも変わりません」
「私たちの子どもたちの時代は、自分が望む人生を“ワガママ”に生きる、そんな時代であってほしい。今私たちが働きたいように働くことが次世代につながるんだ、そう思って働いてほしいです」
