「赤ちゃんってどこからくるの?」
子がいる親なら、必ずといっていいほど直面する超難問。
このような性に関する質問に自信をもって答えられるようになれるマンガに出会いました。



学校では「性交」「避妊」を教えてくれない

子どもの性教育は親が適切なタイミングで

恥ずかしがらず、正面から受け止めて

「うちの子にはまだ早い」という幻想

ピルを飲むこと、避妊することの何が悪い

子どもが困ったとき相談できる親子関係を

「恥ずかしがらず、ごまかさず、正面から受け止めて」
子がいる親なら、必ずといっていいほど直面する超難問。
このような性に関する質問に自信をもって答えられるようになれるマンガに出会いました。
産婦人科医・宋 美玄(そん みひょん)先生監修の『娘に伝えたい 性の話』です。
子どもの性教育に悩む3人の母親の前に宋先生が現れ、日常生活を過ごす中で性について学んでいくストーリー。性の知識がわかりやすく解説されています。
監修を務めた宋先生に、書籍に込めた思いや家庭における性教育のあり方について聞きました。
「小・中学校では学習指導要領によって、性交や避妊について取り扱わない決まりになっています」
この背景には、学校での性教育に強く反対する人がいることや、学校で習うことで子どもが早期に性交に興味をもつと懸念されることなどがあるそうです。
「でもね、思春期には性ホルモンが出て、多くの子どもが自然と性に興味を持ち始めます。
親がどんなに『性交に興味をもってほしくない』『誰かと交際したりせず勉強に集中してほしい』と望んでも、性衝動って自然と発するものなので」
性に興味をもつタイミングは個人差が大きいものの、10歳前後が多いと宋先生は言います。
「つまり小学校高学年ごろ。興味をもったときに正しい知識を伝えることが大切では」
「そもそも性に興味をもったタイミングでないと、性の知識は吸収できないと思うんです。いつ、どんなふうに興味をもつかはそれぞれですから。
だからこそ、毎日子どもに関わってる親が、自分の子どもが興味をもったタイミングで適切な性教育をしてほしい」
また、学校で集団を相手に性教育するには難しさもあると宋先生は考えます。
「クラスの中に性被害に合った子や親から性的虐待をうけてる子がいるかもしれない。人工中絶をすでに経験している子もいるかもしれない。
さまざまな家庭環境があるからこそ学校で最低限の知識を教えるってことも大切なんですけど。でも、いろんな子がいることを考えると、扱うテーマは慎重にならざるを得ないです」
では、親はどのように子どもの興味をくみ取ればいいのでしょうか。
「子どもから質問されたり、ネットで『エロ漫画』なんて検索したりするようになったらタイミングですね。うちの子の例だと、絵を描いてました。ああ、興味があるんだな、と」
「子どもが3歳くらいになったら、親として性の質問に答える準備をしてほしいです。
多くのお子さんが幼稚園や保育園に行くようになって『〇〇ちゃんのおうちには赤ちゃんが来たのに、どうしてうちには来ないの?』みたいな質問をしたりしますから」
宋先生は、子どもから質問されたときには恥ずかしがらず、正面から答えてほしいと訴えます。
「『コウノトリが…』とか『キャベツ畑で…』なんて話をする人も多いですけど、子どもはごまかされたってわかるし、納得しない顔をしますよ。
ごまかされてばかりだと子どもは『親にこういう話はしちゃいけない』『恥ずかしいことした』と認識するようになり、親子で性について話しづらくなってしまいます」
子どもに性教育をするチャンスは、日常生活のいたるところに転がっています。
「子どもが人前で性器を触ったときに『やめなさい!』と怒鳴ってしまう人がいますけど、これはもったいない。
子どもにしてみれば、ただ自分の身体の一部を触っていただけ。むしろ性器について教えるチャンスです。
『そこはプライベートゾーンって言ってね。人前では触っちゃダメだし、触らせてもダメなんだよ』と教えあげてほしい」
日本性教育協会の調査では、高校生の男子約14%、女子約20%が性交経験済みという結果がでています。
「思春期に性衝動が芽生えるのはふつうのこと。10代の性交を頭ごなしに否定したり排除したりしないでください」
性に興味をもち始めた子どもにまず伝えるべきは、自分の身体に関することは自分自身で決められるという考え方(=リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)だと宋先生は言います。
誰と性交をもつのか、子どもを産むのか産まないのか、自分の心や身体のセクシュアリティをどう表現するのか、すべて原則として自分で決定できるということです。
「生理学ってそれこそライフスキルだと思うんですよ。自分の身体は自分が管理していくってことなんですから。こういうものをタブー視しちゃいけない。
何歳になったら性交OKと決まってるわけでもありません。したい人はする、したい人はしないでいい。
ただ責任とれないうちはきちんと避妊すべきだ、と親の考えを伝えられるといいですね」
有効な避妊方法の一つにピルの服用があります。少量の女性ホルモンが入った薬を飲むことで排卵を止め、妊娠する可能性をゼロに近づけます。
「日本では、避妊向け目的のピルは自費、月経困難症の治療薬としてのピルには保険適用と分けられています。
月経困難症のためにピルを飲んでる人が『私は避妊のために飲んでるんじゃない』とあえて主張することがありますが、それって日本ではピルに偏見があるからですよね。
でもね、避妊目的で何が悪いねん! 男性がコンドームを付けたら『ちゃんとしてる』『偉い』なんて褒められるのに。女性が自分で避妊することの何が悪いんですか」
女性が生理をコントロールすることへの偏見もなくすべきだ、と宋先生は考えます。
「生理は自然のことだから振り回されるのが当たり前、生理が毎月くるのは健康な証拠、って思ってる人がいますよね。でも違います。生理があることと健康かどうかは医学的に関係がありません。
今はホルモンや排卵、生理をコントロールできる時代なんです。振り回される人生と、自分でコントロールする人生、どっちを選びたいですか」
子どもが成長するにしたがって、親の目が届かない時間は増えていきます。
「もしそのときに子どもに困ったことが起きたら……事件に巻き込まれたり、レイプされたり、妊娠したり。そういうとき、親に隠れて対処してほしいって思いますか。
私なら自分に相談してほしい。だから性についても自分が教えられることを教えます。相談したいって思える親子関係を作りたいから。だって、人生何があるかわからない」
性に関する話題をごまかさない、質問には正面から答える、疑問は一緒に考える。そういった対話の積み重ねが親子のきずなになるのかもしれません。
「親世代が“性の話は恥ずかしい”って思ってしまうのはしょうがない。だってそういう環境で育ったから。私含め。
でも、子どもたちにこれからどう生きてほしいかを考えたら、親の意識を変えるしかないんです。
この本が、お母さんやお父さん自身の性教育のやり直しになれば、と思っています」