妊娠がわかったのは27歳の秋。ずっと望んでいたはずだった

「いる! このお腹に、赤ちゃんが…!」
飛び上がって喜んだ。でも、浮かれた気分は1週間と続かなかった。
私はいま妊娠9カ月。妊娠が発覚したとき、転職活動の真っ最中だった。出産までの短い間でも希望の職につくため、アルバイトに切り替えて就職口を探すことに。
そうして、BuzzFeed Japanのフェローシップ制度に応募し、採用された。記事を書く仕事は楽しく「このまま正社員になって働けたら…」なんて夢も抱くが、日に日にお腹は大きくなる。
(私のキャリアはいったん中断…か)
もう一つ、浮かれてはいられない事情があった。
夫の扶養に入っている私は、当然ながら出産手当金や育児休業給付金がもらえない。育休中の収入は文字通り「0」になる。
夫はごく平均的な収入のサラリーマン。夫ひとりの稼ぎでは、子どもが生まれてからの家計は赤字になる。
(育休中は貯金を切り崩すしかない。1年後に私が復職さえできれば…)
出産が近づけば近づくほど、喜びに比例して不安も膨らんでいく。「楽しみ」の一言では表せない複雑な気持ちだった。
1年後に復職できる保証がない。高まる不安
私の不安をさらにあおるのは、匿名ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」で話題になった待機児童の問題だった。住んでいる地区の2016年4月1日時点の待機児童数は140人にのぼる。
働きたいし、働かないとやっていけない。しかし、復職できる保証がどこにもない。
(いつ復帰できるんだろう。同じ仕事に戻れるんだろうか。そのとき私は何歳になっているんだろう…)
「育休手帳」との出会い
不安を抱えながら妊婦生活を送っていたある日、先輩ママ社員が一冊の手帳をプレゼントしてくれた。

「育休手帳」というものだった。人材開発を手掛ける「ワークシフト研究所」から出版されている。表紙をめくると、こんなことが書かれていた。
日々の忙しさでいっぱいになり、
何をしていいか、何を始めていいか、わからない女性のための手引きです。
あなた自身やあなたの家族、あなたのキャリアを「見える化」をすることで
これからの未来に向けて、やるべきことが明らかになります。

育児のために仕事から離れている期間を充実させることを目的とした手帳だった。育児の予定だけでなく、自分のキャリアプランを考えて行動を計画できる仕組みになっている。
育休を、復職後の生活への適応期間と捉える

育休手帳の著者は、静岡県立大学で講師を務める国保祥子さん。ワークシフト研究所の創設者であり、3歳の女の子を育てる母親でもある。国保さんに、育休を有意義に過ごすためのヒントを聞いた。
「育休期間を、“育児に専念する時間”ではなく、“育児を優先しつつ、復職後の生活への適応期間”と捉えてみましょう。復職後に育児とキャリアを両立しやすくなります」
育児をしながら働く場合、出産前のように仕事だけに時間を割くことはできない。だからこそ、「働き方の変化に適応する」ことが大切だという。
とはいえ、育児をしながらどのように復職後の準備をすればいいのか。そんな余裕はあるのか。不安な私に、国保さんはこうアドバイスしてくれた。
「出産後のステップは大きく4つに分けられます。身体の回復に専念する時期、子どもの世話に専念する時期、仕事との両立を模索する時期、復職を見据えて生活を整える時期、です。自分の復職の時期を踏まえて、逆算して考えるとよいでしょう」
国保さんは自身の経験から、育休中に復職後の働き方をイメージしておくことがスムーズな復職につながると話す。
復職して忙しくなる前に、家事代行サービスやベビーシッターを手配しておいたり、時短家電を揃えたりしておくのも有効な手だてだ。
初めてなら難しいのは当たり前。育児を相談できる環境を
さらに、国保さんは育児についてもアドバイスする。
「初めての仕事を担当するとき、どうしますか? 先輩に教わったり、上司や同僚に助けてもらったりしますよね。育児も同じ。初めてなのだから、自分一人でなんとかしようと思わないでください」
初めての経験なのだから、育児に迷い、戸惑うのは当然だ。両親やパートナー、先輩ワーキングマザーとの接点をもち、質問や相談ができる環境を整えておくことが大切なのだという。
「育休手帳に日々の気づきや行動を記録することで、自分の成長を実感してほしい」
育休手帳には、子どもの成長を見据えてキャリアプランを考えるページ、仕事と家庭の予定を一覧できるスケジュールページなどがある。育児にも仕事にも役立てることができそうだ。
日々の成長を可視化することで、キャリアにつながるなにかが見つかるかもしれない。
自分にとって有意義な育休をイメージしておく
では、まもなく出産する私は、まず何から始めればいいのだろうか。
「まずは、自分のとって有意義な育休について考えておきましょう。目標があるかないかで充実度は変わります。もちろん、じっくり子どもと過ごすことが自分にとって有意義なのであれば、それもいいと思います」
自分にとって有意義な育休の過ごし方を、私も考えてみた。そして、手帳に書き込んでいく。
ママでもなく、妻でもなく、「わたし」の人生を歩むために

「育休中に育児ブログを立ち上げて、ライターとしての腕を磨く」
これが私なりの答えだ。もちろんうまくいくかはわからない。実際に育児が始まれば、ブログを書く余裕なんてなくなっているかもしれない。
それでも育休中の目標を立てるだけで、やみくもな不安は薄れていくような気がした。
育休手帳には、こんなことも書かれている。
もちろん、仕事も家族も大切ですが、
ママではなく、妻でもなく、わたしの人生を手放さないように、
1年を通して、あなた自身を見つめ直しましょう。
「時にはママを休んで、わたしらしく」
出産が楽しみになってきた。