手がかりは中国地図サービスにあった「空白」。 ウイグル自治区の強制収容所拡大が明らかになるまで

    中国の検索サイト「百度(バイドゥ)」の地図サービスには、ところどころに空白部分がある。BuzzFeed Newsはこの位置情報等を利用して、新疆ウイグル自治区の刑務所や拘置所の特徴を持つ建物群を見つけ出した。本記事では、その方法について説明する。

    この記事は、新疆ウイグル自治区で中国政府により行われているイスラム教徒の強制収容に関して、BuzzFeed Newsが独自に実施した調査のパート3である。パート1はこちら、パート2はこちら、パート4はこちらから。

    このプロジェクトは、オープン・テクノロジー基金ピューリッツァー危機報道センターECFJ(Eyebeam Center for the Future of Journalism、ジャーナリズムの未来のためのアイビーム・センター)の協力のもと行われた。


    2018年夏、中国の西端に位置する新疆ウイグル自治区では、ジャーナリストによる取材活動が以前にも増して難しくなっていた。

    そうした状況下でBuzzFeed Newsは、衛星画像を活用してウイグル族などのイスラム系少数派が拘束されている施設を調査する方法を検討し始めた。

    この調査を始めた時点で、そうした施設は1200ほど存在すると言われていたが、実際に確認されていたのは数十に留まっていた。我々は、残りをすべて見つけ出したいと考えた。

    突破口となったのは、中国の地図プラットフォーム「百度地図(バイドゥマップ)」を使っている時に、施設があるとされる場所周辺の衛星画像におかしな部分があると気づいたことだった。

    衛星画像は古いものだったが、ズームアウトで見る限りは綺麗に撮れていた。しかしズームインすると、ある段階で収容施設がある位置に、通常のタイルの色ではない、「薄い灰色」のタイルが現れるのだ。

    さらにズームインしていくとそのタイルは消え、衛星画像は、建物の輪郭や道路のような特徴を示す標準的な灰色のリファレンス・タイルに置き換えられていた。

    当時の百度地図は、新疆ウイグル自治区のほとんどの部分を、中程度の解像度の衛星画像でしか提供していなかった。そして、ズームしていくと、一般的なリファレンス・マップタイルで置き換えられていた。

    だが、収容所の位置についてはそうではなかった。収容所の位置に現れた薄い灰色のタイルは、リファレンス・マップタイルとは異なり、道路などの情報が欠落していた。

    これが、読み込みの失敗でもなければ、ここだけ地図情報が抜け落ちているわけでもないことを、我々は知っていた。

    通常、地図プラットフォームがタイルを表示できない場合は、標準的なブランク(空白)タイルが表示され、電子透かしも入る。そうしたブランク・タイルは、我々が気づいた収容施設の上のタイルよりも色が濃い。

    このブランク・タイルを確実に再現できることがわかったので、BuzzFeed Newsは、すでに公開され位置が知られている他の収容施設について、そこでも同じことが起こるか確かめてみることにした。

    結果は、思った通りだった。

    6施設に関する検証において、5つでは、百度地図のズームレベル18で、その位置にブランク・タイルが出現した。また、このズームレベルで現れたブランク・タイルは、さらにズームインしていくと姿を消した。

    残りの1つの施設はブランク・タイルにならなかったが、2019年にここを訪れた人物によると、すでに閉鎖されたとのことで、それなら納得できた。

    後で気づいたことだが、街の中心部でブランク・タイルが表示される場所はなく、そうなるのは街の外れや郊外の地域だけだった。この件について百度地図に何度もコメントを求めたが、反応はなかった。

    このようにブランクタイルを探していけば収容所を見つけることができると考えた我々は、新疆ウイグル自治区全体で、百度地図の衛星画像タイルを調べた。その際には、地図の別レイヤーを構成していたブランクのマスキングタイルも含めた。

    Google Earthや欧州宇宙機関のセンチネル・ハブ(Sentinel Hub)、プラネット・ラボ(Planet Labs)からの最新映像と比較することで、マスク化された位置の解析を行った。

    新疆ウイグル自治区全体で、マスク化されたタイルは計500万個存在した。軍の基地や運動場、刑務所、発電所、さらには鉱山や商業施設、工業施設など、戦略的にさほど重要とは思えないエリアまで含まれているようだった。

    調べる位置があまりにたくさんあったので、都市や街、主要道路の周囲のエリアに対象を絞り込んだ。

    刑務所や収容施設の近くにはインフラが必要だ。そうしたものを建設する際には、まずは建築資材や重機が大量に必要になる。さらに、中国当局が大量収容活動を始めた初期の頃にそうしたように、新たな拘束者を千人単位でそこに運ぶためには、整備された道路や鉄道が必要になる。

    したがって、そうした主要インフラに近い位置の解析は、最初の探索を集中的に行う上で、よい方法だった。そのおかげで、調べる場所を5万か所にまで減らすことができた。

    BuzzFeed Newsは、調査やデータ管理をするために構築したウェブツールを使って、マスク化されたタイルの位置を調べ始めた。カシュガル地区全体と、新疆ウイグル自治区の南部にあるウイグルの中心部、さらに、近隣州であるキルギス自治州の一部を、この方法で解析した。

    マスク化されたタイルの位置を1万か所調べ、拘置所、刑務所、収容施設の特徴を持つ施設をいくつも特定した。そして、こうした施設設計の仕方や、施設を見つけやすい場所の種類も理解した。

    すると、以前に知られていた施設と比べて、そうした場所がいかに大きいか、そして、いかに厳重な警備がしかれているかに気づいた。

    新疆ウイグル自治区では以前、学校や病院が収容施設として改装されていたのだが、新しい建物の配置や建築方法、警備の仕方の特徴は、そうした改装された建物よりも、中国各地にある刑務所にとてもよく似ている。

    施設の設備もまた、改装されて利用された以前の施設とは違って、長期使用に耐えられるようにできている。たとえば、外壁は厚いコンクリート製だ。以前の収容施設のフェンスの特徴だった有刺鉄線と比べると、作るのはもちろん、後から壊すのにも時間がかかるだろう。

    ほとんどの県で、拘置所の特徴を持つ建物や、規模が大きく警備が厳しい収容所・刑務所の特徴を示す新しい施設を見つけることができた。

    通常は、街の中心部に古い拘置所があり、新しい収容所や刑務所は、郊外や、多くの場合は最近開発された工業エリアにある。

    そうした施設が見つけられなかった県、特に最近の衛星画像が手に入らない地域で、我々はこうしたパターンを探し続けた。高解像度画像が公開されていない場合は、プラネット・ラボやセンチネルからの中解像度画像を使い、似たような場所を探した。

    プラネット・ラボは親切にも、そうした場所の高解像度画像にアクセスさせてくれた。また、2006年以来、高解像度での撮影が行われていなかった地域の新たな画像を撮影してくれた。

    これにより我々は、ある県で、他の研究者たちが以前特定した拘置所がすでに破壊されたことを確認し、街の外れに新しい刑務所を発見した。

    Google Earthでとらえたハミ市アラトゥルク県の高解像度画像。

    こちらは、新しい刑務所が建設中と見られる場所のクローズアップ画像だ。

    プラネット・ラボは2020年に新しい衛星画像を撮影した。施設が完成していることがわかる。

    刑務所に必要な条件と、そこに建てられる理由

    こうした施設が都市の近くに作られるのには理由がある。

    達坂城区に広がる収容所のように、都市部からより離れた場所にできた収容所はあるが、その場合も、主要道路の横であり、近くには小さな町がある。

    一般的にいえば、既存の町の近くに刑務所や収容所があれば、拘束者の移送距離を最小限にできる。ただし、アナリストによると、先頃再び登場したドローン動画にあるように、カシュガル市からコルラ市まで、新疆ウイグル自治区を横断して囚人や拘束者が移送された例もある。

    家族にとっては、面会しに行くのも簡単だ。町に近いということは、刑務所や収容所のスタッフも確保しやすい。守衛には家族がいて、子どもたちは学校に行き、パートナーにも仕事があり、病院などに行く必要もある。

    そもそも、刑務所を建てるには建設作業員が必要だ。生活設備に関しても便利だ。刑務所・収容所には、電気、水道、電話線がなくてはならない。遠い場所まで何千キロものパイプやケーブルを新たに引くより、すでに近くに存在するネットワークにつなぐほうが安上がりだし簡単だ。

    最後に、刑務所を作るには広い土地が必要で、できれば将来施設を拡張できるスペースがあるとよい。町や都市に近く、整備された広い土地、最近開発された工業エリアなどは、これらを提供してくれる。

    工業エリア内に建設することは、施設を強制労働工場の近くに建設するということでもある。敷地内に工場を持つ収容所は多いが、拘束者をバスで他の工場へ運んで働かせているケースも、我々はいくつか知っている。

    BuzzFeed Newsが特定した315か所の収容施設

    刑務所や拘置所の特徴を示す場所を、新疆ウイグル自治区内で428か所特定した。そうした場所の多くは、収容所、公判前行政拘置所、刑務所など、2~3の収容施設を併設している。BuzzFeed Newsは、これらの場所をさらに分析し、今後数か月のうちに、より詳細なデータベースを作るつもりでいる。

    我々はこれらの場所のうち315か所が、現行の収容プログラムで使われていると考えている。内訳は、新しい収容所または刑務所の複合施設が268箇所と、この4年間に拡張されていない公判前行政拘置所が47か所だ。

    これらの拘置所が、人々の拘束場所としてたびたび使われているという目撃証言がある。彼らの多くはそこから別の収容施設へ移送されて行ったということなので、これらを数に入れることが重要だと考えている。

    この315か所からは、おそらくは閉鎖されている39か所と、破壊された、あるいはもう使われていないと証言が得られた11か所が除外されている。

    他の研究者によって特定された施設も14か所あるが、われわれのチームが衛星画像をチェックした範囲では、証拠として不十分だ。したがって、リストにその14か所は含まれていない。

    BuzzFeed Newsは、2016年以前のプログラムに属していたと思われる刑務所63か所も特定した。こうした施設は通常、現在の収容プログラムの数年前、場合によっては数十年前に建てられ、2016年以降は大規模な拡張は行われていない。

    これらは、中国語で「看守所」と呼ばれる拘置所とはスタイルが違うし、新しい収容施設とも違う。こうした施設は、現在の収容プログラムの一部として利用されていると考えた315施設には含まれていないが、データベースには別カテゴリーとして入れている。

    初期の施設の多くは、別の利用目的から転用されたものだったが、2018年後半~2019年初めにかけて、中庭のフェンスや見張り台、その他の警備施設が撤去されている。

    バリケードの撤去に加え、敷地内のあちこちに車輌が駐車されていることが多い事実は、これらがもはや収容施設ではないことを示唆しており、我々のデータベースでは「おそらくは閉鎖」として分類されている。

    警備施設の撤去のタイミングは、より大型で警備体制の厳しい施設が近くにできたことと一致していることが多く、拘留者が新しい施設に移された可能性があることを示している。

    収容施設にする目的で建てられ、中庭フェンスがすでに撤去されているものの、敷地内の車の種類など、それ以外の点では使用目的が変わったように見えない施設は、まだ収容所である可能性は高いと考えている。

    ただし、警備レベルは下げられているようだ。

    謝辞

    今回の調査は、ショーン・チャン氏、エイドリアン・ゼンツ氏、ビター・ウィンター氏、ジーン・ブニン氏、ETNAM、オープン・ストリート・マップのコントリビューターたち、労働改造所ハンドブック(Laogai Handbook)など、数多くの協力者たちとの仕事の上に成り立っている。

    BuzzFeed Newsは、それらのデータベース内にあるすべての位置を検証し、適切な場合は独自のデータベースに追加・分類した。労働改造所ハンドブックの場合は、施設の位置自体を特定した。

    プロジェクトの初期段階では、オーストラリア戦略政策研究所(Australian Strategic Policy Institute)、特にネイサン・ルーサー氏のアドバイスが非常に貴重なものとなった。

    また、共に仕事をしてくれた通訳者の貢献にも触れておきたい。

    協力者の氏名や協力内容の詳細は、セキュリティー上の理由で共有していないが、われわれの感謝の意を公にしたい。

    自身の貢献については、自身がいちばん理解しておられるはずだ。


    アリソン・キリングは、Open Technology Fundからの助成金とさらなる支援を受けて、このレポートを作成しました。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan