「私は『S』という文字が嫌い」ハーバード大に合格した女性の小論文に込められた意味
「私にはかつて、親が2人いました。でも今は1人しかいません。『parents(親)』に付いている『S』には、行き場がないのです」
こちらの女性はアビゲイル・マックさん(18)。彼女は最近、アメリカのトップ大学の1つであるハーバード大学に合格した。
ハーバード大学は、プリンストン大学やイェール大学などを含む、アメリカ北東部のトップ私立大学の総称「アイビーリーグ」の1つだ。
アイビーリーグの名門大学に通っただけでもかなりの偉業だが、彼女が合格に至るまでの道のりが、ネット上で大きく注目されている。
アビゲイルさんはTikTokで、大学の入試小論文の内容を数本の動画に分けてシェアした。
アメリカの大学入試では、SATやACTといった全米統一テストの成績、学校からの推薦状や学業成績の他に、ボランティアや部活などの課外活動や、小論文の提出が求められる。
アビゲイルさんの小論文は、親を失った10代の女性が、その現実から逃れようと課外活動に打ち込む日々を描いた内容だった。
心を打つその一連の動画は、1900万人以上に視聴されている。
アビゲイルさんは、母親をガンで亡くした。英語では名詞の単語を複数形にする時、語尾に「S」をつけるが、「parents(親、両親)」の「S」について小論文に書いた。
以下は、彼女が実際に書いた小論文の一部だ。
「私は『S』という文字が嫌いです」

「『S』が付く単語16万4777個のうち、私の心に引っかかってしまうのはたった1つです」
「『S』が使われている単語のうち.0006パーセントのためだけに、『S』という文字そのものを非難するのは、統計的にはばかげています」
「とはいえ、そのたった1つの使われ方が、私の人生を100%変えてしまいました」
「私にはかつて、親が2人いました。でも今は1人しかいません。『parents(親)』に付いている『S』には、行き場がないのです」
「Sは私の後を付いてきます。友達は『両親(parents)』と一緒にご飯を食べに行くのに、私は『親(parent)』と一緒に食べるという事実を思い出さない日はありません」
「この小論文を書いている間にも、『parent』の文字の下に出た青い線が、文法を確認するように訴えかけてきます。(英文法)校正ツールのGrammarly(グラマリー)でさえ、『parents』であるべきだと決めつけてくるのです。つまり、親は複数いるべきだと」
「でもガンは、こうした校正案に耳を傾けてなどくれません」
「私の状況は、16万4777単語の1つ、というほど特別なものではありません。でも、基準から外れたもの、外れ値であることに変わりはないのです」
「世界は、この例外には合わないようにできています」
アビゲイルさんはこの小論文で、他の有名大学にも合格した。小論文の後半では、アビゲイルさんは「S」という文字、さらに言えば「母親がいない」という事実から、いかにして逃れようとしたかをつづっている。彼女にとってそれは、スポーツやクラブ活動などの学校活動にひたすら参加することだった。
「家族と一緒に食事ができないほど忙しく過ごせば、親(parent)と食事をする時間はありません」
「私は、自分の人生から失われた『S』を埋めることはできませんでした。でも少なくとも、考えずに済むことはできました」
「人生には自分でコントロールできないことは山ほどあります。なので私は、自分でできるものをコントロールしました。つまり、私のスケジュールです」
最終的に、アビゲイルさんはあれこれと手を出すのをやめ、自分には好きなものが3つあると気付いたという。それは、芝居、学問、政治だった。
「私は1つの『S』から逃げるのを止め、2つの『SS』を追いかけることにしました。『paSSion(情熱)』です」
「『Passion』は私に目的を与えてくれました。(親は複数であるべきだという)伝統的な家族構成の束縛から逃げようとしていたがゆえに、私は『S』に束縛されていたのです」
「『S』はきっかけにはなりましたが、私を突き動かし続けるものではありませんでした」とアビゲイルさんは書き、小論文を次のように締めくくっている。

「悲しみを探し求めるようなことはしません。なので、『S』は脇へ追いやります」
「私が本当の意味で心の準備ができるそのときまでは、モチベーションがもらえればそれで十分なのです」
合格発表の3週間前、アビゲイルさんは自分の出願ステータスが更新されているのに気付いた。
「Likely Letter(ライクリー・レター:合格見込み書)というものを受け取りました」
「これは、手紙を受け取った受験生がその大学を第一希望にしてくれるよう、正式な合格発表日よりも前に大学側が合格を知らせるものです」と、アビゲイルさんはBuzzFeedに語った。
「この手紙を受け取るのはとっても珍しいことなので、もらえた私はすごく幸せ者だと思います!」
「自分のリアクションは…興味深かったです。叫びまくってて(この後1週間くらい声が出ませんでした)。今にも涙が出そうでした」
アビゲイルさんが投稿した一連のビデオは、彼女の言葉に感動した人や、家族を失った経験を乗り越えた話に共感した人など、大勢の人々の心を打つものだった。

「同じく若い頃に親をガンで失ったハーバード大学生として、これは感動する。それから、ようこそ!会うのを楽しみにしています!!!」

「クレイジーな私たち、とても似てるね。悲しみに対処するために、私もまったく同じことをしました。文字通り、自分にできることすべてに手を出したから」

「才能あふれる作家ってこういう人なのね」
悲しみを乗り越えるプロセスを通じ、学問に加え、他に情熱を傾けられるものを見つけたアビゲイルさん。それが自分の人生にどんな影響を与えたかについて、彼女はBuzzFeedにこう語っている。
「私は、かなりの芸術一家で育ちました。母がダンス・スタジオを開き、今も父がそのスタジオを経営しています」
「それから、父はピアノの先生なんです。なので、舞台はずっと私の人生の一部でした」
「新しい世界に逃げ込んで、たとえほんの数時間でも舞台上で他の誰かになり切るのは、(溜まっていたものが排出され心が浄化される)カタルシスのような効果がありました」
「また最近は、政治にも情熱を感じます」と、アビゲイルさんは語る。

「黒人差別に抗議するBlack Lives Matter(黒人の命は大切だ)運動が昨年夏に起きた時、自分が政治にどれだけ熱い思いを抱いているかに気付きました」
「世界が私を置いて飛躍的に変わっていく様子を、もはやただ黙って見ているわけにはいかない、と思ったんです」
「(それらを受けて、)エド・マーキィー上院議員の再選に向けた選挙運動のフェローになりました。大統領選では、ジョー・バイデン陣営で、投票依頼の電話をかける方法をボランティアの人たちに教えることもしました」
「自分の声に耳を傾けてもらえるのは、ものすごく満たされる経験でした」
アビゲイルさんは、自身の経験に刺激を受けた未来の受験生たちに向けて、アドバイスを送った。
「出願には、何に対する情熱でもいいので、とにかく熱い思いを全身全霊で注いでください」
「出願は、高校でしてきたすべての集大成です。すでにやってきたことなので、一番大変なところは済んでいます」
「今は、それを紙に落とし、自分が何を達成したかを伝え、そして何よりも大切なことですが、将来的にどうやって変化を作っていくか、あなたにしかできない独自の方法を描き出しましょう」
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan