仕事も家庭も両立なんて、誰ができるの? 悩んだりょうに、息子がかけた言葉

    はちみつドリンクをそっと渡しながら。

    女優りょうの主演ドラマ『部長 風花凜子の恋』が、7月5日夜11時59分から読売テレビ・日本テレビ系(一部地域を除く)で放映される。弘兼憲史さん原作『会長 島耕作』(講談社)の特別編。

    早朝から深夜までロケに明け暮れるりょうの支えは、家族だ。

    45歳。キャリアも、家庭も、子どもも、美しさも、すべてを手に入れたように見えるりょうに、その心境を問うた。すると、間髪入れず、低く通る声で短く「いえ」と否定した。

    「スーパーウーマンってどこにいるんでしょう? 私、両立なんてできないんじゃないかと思っているところがあるんです。両立...って、なんなんでしょうね」

    50:50は理想だけれど

    ドラマで演じる風花凜子は、島耕作が会長を務める大手電機メーカー・テコットで、初の女性執行役員を目指している。

    「思いっきり働いて、思いっきり余暇も楽しむ」がモットーで、仕事もプライベートも「50:50」を公言する。昼は新規プロジェクトを率いる部長、定時で退社し、夜はサックス奏者としての顔を持つ。

    「凜子のように生きられたら、ものすごく理想的。でも実際は難しい。家庭を持つこと、子どもを育てることは大変です。一方で、仕事するのも大変なこと。1人ですべてをこなすのは不可能なんじゃないかと思っています。私は、家族の協力がないと絶対にできないです」

    「家族のおかげで自分が好きな表現をやらせてもらっているので、絶対にいいものにしようという思いが強くあります。仕事にかけるエネルギーと家庭にかけるエネルギーのどちらも、私の中でものすごく奥深いものになっています」

    「休むことも大事だよ」

    華やかな世界にいながらも、日常に戻る場所がある。ひとりぼっちで葛藤するのではなく、ささやかな幸せや喜びのカケラを拾い集めていける。たとえ、それぞれに割ける時間が均等ではなかったとしても。

    「深夜に帰って子どもの寝顔を見て、ちょっと触ってみちゃったりもして(笑)。このドラマの撮影中に『ああ、セリフ覚えなきゃ』とついつぶやいたら、長男がこう言ったんです。『ママ、休むことも大事だよ。寝て、ちょっと休んでからセリフ覚えるのもいいんじゃない?』って」

    温かいカリンはちみつのドリンクを「はい」と渡された日もあった。

    「子どもが私を必要としているときにそばにいてあげられていないんじゃないか、と悩むこともありますが、長男は『ずっと仕事しててほしい』と言ってくれる。それがものすごく、救いになっていますね」

    いい仕事のために充電する

    日常的に仕事とプライベートの「50:50」を実現するのは難しくても、休むときは休む。キャリアを重ねるにつれ、特に意識していることだ。

    連続ドラマの出演が続くと難しいこともあるが、ひとつの仕事が終わったら、次の仕事に向けて充電期間をとるのが理想だ。

    「私、インプットをする準備期間がないと、仕事を全力でできていない感じがするんです」

    りょう自身は「だから人に比べると休みがち」と笑うが、その期間にやっていることといえば、体力づくりだったり、役づくりだったり、役を演じるための勉強だったり。「仕事を一番いい状態でできるための自分をつくる」ことなのだそう。

    それでは、休んだことにならないのでは?

    「自分への安心材料ですね。時間をかけて準備することによって、これだけやったんだから大丈夫、という自信をもてる。この準備期間がまったくないと、仕事が始まったときに、ちゃんと力を発揮できるのかとか、私には重すぎる仕事なんじゃないかとか考えてしまうので、モチベーションを上げるために必要な時間なんです」

    「駆け出しのころ、経験や勉強のためにどんどん仕事をすべきだ、というスタンスについていけないところがあったんです。のんびりスローなペースで、人からは遠回りに見えたかもしれないけど、私には充電する時間が必要でした。でもだからこそ、今があるんじゃないかなと思います」

    個人を尊重するということ

    ドラマでは、凜子は女性活躍推進や働き方改革の理想を体現する存在だ。しかし、そのひずみで生じるセクハラ、パワハラにも管理職として対峙することになる。

    会社や世の中で起きる問題の多くは、白か黒かではっきりとは分けられない。「やっぱり、根深いものがあるんじゃないですか」とりょうは言う。

    <なぜ、あなたたちのスケベ心を忖度して、女性のほうが服装を気にしなくてはならないんですか?>

    7月12日に放送される後編の、このセリフが印象に残っているという。モデルとしてキャリアをスタートしたりょうにとって、ファッションは大事な自己表現だ。それなのに、時と場合によって、相手への気持ちの大きさや自分の判断とは関係なく、「定型」として求められる服装がある。そのことを息苦しく感じてもいた。

    「ファッションによる自己表現は、モチベーションにも関わります。この作品に出てくるいろんな言葉が、個人を尊重するとはどういうことなのかを、改めて考えさせてくれました」

    時代に合わせて変化する

    「服であれ、仕事であれ、時間の使い方であれ、人から言われるのではなく、自分で考えたことを実行する。それが結果的に、会社の質を上げていく。そう考えると、すべてのことに納得がいくんじゃないかなと思いました」

    「セクハラもパワハラも働き方改革も、社会問題として大きく取り上げられるようになったのは最近ですが、内容としては昔からあったはずです。でも、昔と同じことを今したら、大きな問題になる。それは時代が変わっているということなんですよね。新しい時代に合わせて自分も変化していかないと」

    凜子のようなスーパーウーマンは、実在しない。しかし、既存の仕組みを変えるエネルギーの芽は、すでにどこかにたくさんある。

    事実、りょうも、その一人だ。