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飛べ!帰れ! 「伝書鳩」を研究する高校生が願う、携帯電話や電気に頼らない世界

鳩が生まれた場所に帰る能力を利用して、災害のときに孤立した人たちを助けたい。古くて新しい通信手段を研究している高校生がいます。

人気アニメ「鬼滅の刃」では「鎹鴉(かすがいがらす)」と呼ばれるカラスが鬼殺隊の伝令係を務めているが、かつて日本では、鳩が通信手段として使われていた。

鳩に再び通信を任せることができれば、災害で通信網が途絶えたときに、人を助けることができるのではないか。

そう思い立って研究を続けてきた高校生が2020年11月、内閣総理大臣表彰を受賞した。

若者の社会貢献活動を顕彰する「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」で2020年度の内閣総理大臣表彰を受賞したのは、山梨県南アルプス市に住む高校3年生、中嶌健さん。幼い頃から自宅で父親が鳩を飼育しており、鳩とともに育ってきた18歳だ。

中嶌さんはBuzzFeed Japanのオンライン取材に、受賞の感想を語った。

「研究が価値のあるものだと客観的に評価してもらえてうれしいです。将来は研究者になり、鳩の生態解明の第一人者になりたいです」

伝書鳩を再び

日本伝書鳩協会によると、鳩は飛翔能力と帰巣本能が優れ、1000km以上も離れた地点から巣に戻ることができるといわれている。

この特性を生かし、遠隔地に伝書鳩を輸送し、通信文を入れた小さな筒を脚につけて放鳩し、鳩舎に戻ってきたところで通信文を受け取っていた。かつては軍事用、その後も報道用の通信手段として、1960年代まで広く使われていた。

他の通信手段が発達したいまは、「レース鳩」として愛鳩家に飼育され、いかに速く帰ってくるかを競うものになっている。

災害のときに自分に何ができるか

中嶌さんは物心つく前から、自宅の隣にある鳩舎に遊びに行き、鳩の世話を手伝ったり、父親の訓練について行って練習したりしていた。

「カゴの中に一生いなきゃいけないペットの鳥はかわいそう。鳩は、自由に空を飛んでいる様子を見られるし、自分のところに帰ってくるうれしさもありました」

小学1年生のとき、「もしも魔法を使えたら」という作文で「はいきガスをへらしたい」と書くなど、幼い頃から社会課題に関心があった。東日本大震災や西日本豪雨など、災害が起こるたびに「自分に何ができるのか」を考えていたという。

中学2年生のときに課題研究で鳩の生態を調べたことがきっかけで、鳩の帰巣本能について本格的に研究するようになった。

2018年9月、北海道胆振東部地震が起きた。その後、北海道全域で大規模停電(ブラックアウト)となり、テレビが映らなくなり、携帯電話も充電ができない状況になった。

「災害時に電気が止まったり、携帯電話が使えなくなったりしたときにも、鳩なら通信手段として使うことができるのではないか」

中嶌さんは、伝書鳩を「災害救援鳩」として実用化できないかと考えた。災害地に鳩を運搬することができれば、脚に通信管をつけて飛ばし、必要な物資や現地の情報を遠隔地に伝えることができるのだ。

この研究は総務省の人材育成プログラム「異能vation」に採択され、研究費の助成を受けることができた。

父親の健司さんは、こう話す。

「レース鳩は、100羽を飛ばしたとして、1羽でも早く戻ってくれば勝ちなんです。でも、息子の考えは違っていた。戻ってこない鳩がいることに心を痛め、すべての鳩を戻したい、そして人の役に立てたいと考えたようなんですね」

鳩が戻らない原因は

鳩は通常の帰還コースをたどれば100%が戻ってくるが、猛禽類に襲われたり何らかの障害があったりすると戻ってこられず、ひどいときには全滅してしまうこともある。最近は、鳩の帰還率が下がってきているという。

「災害地からの有効な通信手段となるには、すべての鳩が絶対に戻ってこなければなりません」と中嶌さん。

何が帰還の妨げになっているかを探るために、一羽ずつ脚に小型GPS(全地球測位システム)を装着してデータを収集したり、ドローンで追跡調査をしたりした。

鳩の帰還率が悪かったルートには、地形の問題があったり、オオタカなど猛禽類が生息したりすることがわかった。もう一つ、共通して見つかったのが、携帯電話の基地局だ。

自宅から50キロ圏内を調べたところ、多くの基地局が見つかった。帰還率が下がってきた時期と、携帯電話が普及した時期も一致する。現代の通信手段である携帯電話の電波が、鳩の帰還を妨げているかもしれないという仮説が生まれた。

中嶌さんは、鳩の帰還率を上げるため、安全な帰還ルートを開拓したり、持久力の高い鳩を交配させたりと、さまざまな研究を続けている。

鳩は生まれた場所に帰ってくる本能があるため、飛ばす場所と帰る場所が近いほど、帰還率がよくなり、到着までの時間も短くなる。

「実用化するためには、どこで災害が起きたとしても、鳩が帰ってくる場所が近くにあることが必要です。鳩は人懐っこいので、小学校などで飼ってもらい、全国にたくさんの拠点がつくれるといいと思います」

中嶌さんは「災害救援鳩」の実用化に向け、大学でも鳩の研究を続けていきたいという。

「伝書鳩」というアナログな発想が独創的だと評価されるほど、デジタル一辺倒になっている時代。中嶌さんはクラスで1人だけスマートフォンを持たないが、「だからこそ、"常識"にとらわれないでいられるのかもしれません」。

「僕の研究を通して、電気に依存しない社会に目を向けてもらいたいです」とも語る。

「いまは電気がないと生活が成り立たなくなっていますが、災害が起きたときのためにも、電気に依存している状態から脱する方法や、限りあるエネルギーについても考えていきたいです」

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