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「子どものほうから誘ってきたんだ」。なぜ小児性加害者は都合よく解釈するのか

性についてまだ知識のない子どもが「喜んでいる」となぜ思い込んでしまうのか。子どもに性暴力を繰り返す人たちが都合のいい解釈をする理由について聞きました。

性の知識や経験がない子どもに性的な行為をする人は、どんな思考回路でその行為を正当化しているのか。

子どもに性加害を繰り返す人たちの再犯防止プログラムに携わっている、大森榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳さんによると、「子どもが求めている」「気持ちよいと感じている」と都合よく解釈する人が少なくないという。

「子どもを性の対象としてもいいという誤った前提から学習し、都合のよい"現実"を自らつくりあげています。その解釈は、加害行為を繰り返すたびに強化されていきます」

斉藤さんはこの思考体系を「認知の歪み」と呼んで問題視している。詳しく聞いた。

「子どものほうから誘ってきた」

斉藤さんによると、性暴力やハラスメント、ストーカーやDV(ドメスティック・バイオレンス)を繰り返す加害者たちにも、「相手は喜んでいた」などといった特有の認知の歪みがあるという。

特に、子どもに性加害を繰り返す人たちの主張には、このようなものがある。

  • 子どものほうから誘惑してきたから、応じただけ
  • あの子とは純愛で結ばれている
  • 最初は痛がっていてもだんだん気持ちがよくなる
  • 将来、記憶に残らないから幼いうちに関係をもつのがやさしさ
  • いずれ経験するのだから、これは性教育の一環だ
  • 性交はしないが、触るくらいなら汚れない
  • 騒がれたら、殺してしまえばいい


斉藤さんは加害者臨床を専門とし、2018年に日本で初めて子どもへの性加害を繰り返す人に特化した再犯防止プログラムを始めた。2019年5月までに受講した117人に聞き取った結果を著書『「小児性愛」という病』にまとめた。

「挿入はしない」

13歳以下の子どもを含む被害者に対して、どんな加害行為をしていたかを聞いたところ、「(性器を)触る・触らせる」といった強制わいせつに相当する行為が44%、挿入を伴う行為(口腔・肛門・膣)は、強制性交等(9%)と児童買春(3%)を合わせても12%だった。

「加害を軽く申告している可能性もありますが、『汚したくないから挿入はしなかった』などと誇らしげに言う者もおり、認知の歪みがあることは明らかです。挿入しなかったからといって、子どもの受けた性被害が軽いといえるわけがありません」

「子どもの反応を勝手に歪めて都合よく解釈するのが加害者の典型的な思考パターンだということは、もっと知られるべきです」

こうして行為を矮小化したり正当化したりすることが、何度も加害行為を繰り返すことにつながっている、と斉藤さんはみる。

認知の歪みのプロセス

なぜ、認知の歪みは起きてしまうのか。斉藤さんはこう指摘する。

「まず子どもとセックスをしたいという強い欲求があり、それを成し遂げるために、現実を自分に都合よくとらえて性加害を続けるための言い訳にしています。そして、それは行動化を繰り返す中で強化されていきます」

加害行為をする前の段階では「自分は大人の女性に相手にされないから、子どもに手を出すしかない」と考え、実際に加害をしている最中には「いずれ経験することだし、先に教えてあげているだけなんだ」と思い込む。加害した後には「騒がなかったから、この子は自分のことが好きに違いない。これは純愛だ」と解釈する。

「自分がしようとしていること、していること、してしまったことを、それぞれの段階で正当化しながら、加害のプロセスを前に進めていくのです」

認知の歪みを自覚するには

斉藤さんは、性犯罪を繰り返す人を対象にした再犯防止プログラムのディレクターをしている。問題変容や認知の歪みへの反応を変えるための認知行動療法やグループセッション、薬物療法などを通して、再犯せずにやめ続けることで社会に再適応していくことを目指すプログラムだ。

子どもへの性暴力を繰り返す人たちの再犯防止プログラムでも、再犯防止計画などのワークシートを活用したり、加害経験についてお互い正直に分かち合ったりする。

プログラムの中では、加害をしない状態を長く続けている人が「自分もずっとそう思ってきたが、今ならそれは愛ではなく、性暴力だったのだとわかる」と発言することもある。当事者同士が自らの認知の歪みへの自覚を促されることも、グループワークのねらいだという。

だが斉藤さんは、「加害者にとって都合のいい認知をしているのは、加害者だけではない」と警鐘を鳴らす。

「親が目を離したからだ」

それは、他の性暴力に共通する被害者の「落ち度」を責める自己責任論や、支配関係に対する無自覚さにもつながるという。

「低年齢の子どもの場合には、他の性暴力のように被害者本人が責任を問われることはありませんが、『目を離していたからだ』などと親、特に母親の責任が問われる傾向があります」

「子どもが親の目を離れていることと、性暴力被害に遭うこととの間には本来、因果関係はありません。子どもが一人でいるからといって、性加害をしていい理由にはなりません」

「それなのに、日本社会にこうした加害者優位の価値観がはびこっていることは、加害者にとってとても都合のいい環境です。社会に存在する認知の歪みが、加害者の認知の歪みをより強化してしまうことを、私たちは考えていかなければなりません」

子どもに対する性暴力については、男児の性被害と、加害者の再犯についても取り上げています。