「ここもナイトクラブと同じなのに」 お茶出しを続ける女性の苦悩

    「接客業は、お客様がサービスとして期待する限りはやめられない。だから休業要請が出ればいいのにと思ってしまいます」

    新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言に伴い、7都府県では休業を要請する業種を調整している。東京都は4月10日に業種を発表するとしている。

    「うちも休業になればいいのに」

    都内の高級車ディーラーで営業アシスタントとして働く30代の女性は、そう願っている。

    「業種は違いますが、私がやっている仕事は、ナイトクラブの接客と同じようなものです」

    至近距離で会話をする

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    東京都の小池百合子知事は3月30日の会見で、感染が疑われる事例が多発しているとして、「バーやナイトクラブなど、接待を伴う飲食店に行くことは自粛して」と呼びかけていた。

    この女性がしている仕事のひとつが、車のオーナーへのサービスとしての「お茶出し」だ。

    車の点検や洗車などで訪れるオーナーは、ショールームのソファでくつろぎながら待ち時間を過ごす。その間、営業アシスタントが飲み物の注文をとり、ひざまずいて提供する。

    オリジナルグッズを販売するノルマもあるため、その場でカタログを広げ、顧客に見せながら数十分間にわたって会話をすることもある。

    「コロナで大騒ぎになってからも提供方法は変わらず、素手で飲み物をお渡しし、すぐ近くでお話しています」

    本部からは、カップかペットボトルかを顧客が選べるようにするようにとの指示があっただけ。ほとんどのオーナーが、いまだにカップでの提供を希望するという。

    「顧客満足度や販売実績は店舗の成績に関わるため、お客様が望む限り、私たちはできる限りのサービスをしなければならないし、そうしたいと思ってしまいます」

    休校で子どもの遊び場に

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    感染が拡大する前と比べても、来店する客の数はまったく変わっていないという。緊急事態宣言が出てからは営業時間を短縮したが、短い時間により多くの客が集中するだけだった。

    休校が延長したためか、子連れの客も目立つ。習い事が中止になったり公共施設が閉館したりしているため、子どもを遊ばせたり宿題をさせたりする場所として活用しているようだ。

    「孫に車を見せたら喜ぶだろうし、キッズスペースもジュースもお菓子もあるし、と高齢の男性が小学生を連れていらっしゃいます。子連れのご家族が5組も集中したときには、ここでクラスターが発生したらどうしようかと心配になりました」

    同じマスクを5日間つける

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    本部からは「必ずマスクをして接客するように」と指示されたが、店舗に支給された枚数ではまったく足りない。女性はネットで探し、50枚入り2500円の使い捨てマスクを自腹で買った。送料は700円だった。

    半日ごとに取り替えていたものが1日1回になり、2日に1回になり、いまは除菌スプレーを吹き付けたりお湯で洗ったりしながら、5日間は使い続けている。

    「入り口ドアや試乗車の消毒もしていますが、マスクも除菌スプレーも感染対策というよりは、お客様に安心していただくためのポーズになってしまっています」

    車はプライベート空間という感覚

    だが、顧客は感染リスクをあまり気にしていないようにも見える。

    「車は自宅と同じプライベート空間だという感覚のようです。電車やバスで移動するのは怖いけれど、自家用車で出かけるなら安全だという意識なのかもしれません」

    「お客様にとっては、店舗は優雅で清潔で、不安な日常から離れてくつろげる非日常的な場所。高齢のお客様が営業マンと顔を付き合わせて『コロナ怖いよね』と話しているのを見ると、心配になってしまいます」

    「お茶出しは不要不急では」

    時事通信

    4月6日、東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議の後、記者会見する小池百合子知事

    女性が担当している業務は、受付での案内や車の移動、予約確認の電話などさまざまで、お茶出しだけではない。「お茶出しは不要不急ではないか」と同僚と話し合ったこともある。

    それでも、顧客がサービスとして期待しているのであればやめるわけにはいかないというのが、本部や上司の判断だ。

    「お客様がいらっしゃる限りは、しっかりと最善の対応をして満足していただくのが私たちの仕事。接客業には同じような立場の人や、もっとひどい立場の人が多くいるのではないでしょうか」

    業務の内容で判断してほしい

    女性は、店舗が営業を自粛できないのは、顧客の車によっては車両の法定点検の期限が迫っていることや、こうした点検もサービスに含まれるためだと聞いている。

    国土交通省は4月7日、緊急事態宣言の出た7都府県で、車検については有効期間を6月1日まで延ばすと発表した。

    ただ、整備士の予約は通常でも常に埋まっており、点検の予約を延期すると、いずれ過重労働になるだろうとも予想できる。

    「それでも、早く休業要請が出ればいいのに、と思ってしまいます。せめて、業種だけで区切るのではなく、業務の内容によって判断してほしい。例えば2メートル以内で会話する業務はやめるよう要請するなど、具体的な方針を出してもらいたいです」

    小池知事は、店舗や施設を「基本的に休業を要請」「施設の種類によって休業を要請」「社会生活を維持する上で必要」の3つに分類する方針で、4月10日にも発表する。


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