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母乳vs.粉ミルクの論争だけではなく ひとりの母親が広げる「液体ミルク」の可能性

熊本地震でも親子を救った

熊本地震で避難した人は、ピーク時で約18万人。中には、生後まもない赤ちゃんもいた。

大きな災害が起きると、水やガスが使えなくなることがある。人前で赤ちゃんに授乳しづらかったり、ストレスで母乳が出にくくなったりすることもある。

そこで、お湯や哺乳瓶を使わなくてもすぐに赤ちゃんに飲ませることができる「乳児用液体ミルク」が4月下旬、救援物資としてフィンランドから熊本の被災地に届けられた。

当時、衆院議員だった小池百合子・東京都知事が、「日本フィンランド友好議員連盟」の会長として働きかけ、実現した。2011年の東日本大震災のときからの縁だ。

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あらかじめ液体の状態で容器に保存されている。粉をお湯に溶く必要がないため、手間が省けるうえ、外出時の荷物も少なくなる。パックから哺乳瓶に移し替えるタイプと、小型のペットボトルのような使い切り容器に吸い口をつけて直接、赤ちゃんに飲ませるタイプがある。常温で半年から1年は保存でき、粉ミルクよりは消費期限が早いものの、災害備蓄品としても使える。

だが、日本では買うことはできない

大きな災害のたびに海外から救援物資として寄付されて注目が集まるが、日本では日常的に手に入れることが難しい。

食品衛生法には、乳児用調整粉乳(粉ミルク)の規格基準しかない。液体ミルクについては規格がないため、製造も販売もできない。海外製品を輸入する場合は「乳飲料」の規格となるため、赤ちゃん用として販売することができない。

粉ミルクを製造・販売している森永乳業の広報部によると、液体ミルクの製造には高いハードルがあるという。

「国の規格が整備されるまで、製造・販売することができません。どういった規格が必要なのか、各メーカーや業界団体で研究している状況です。液体の場合、分離したり茶色っぽく変色したりしやすいため、品質面での課題もあります」

現状は災害時の救援物資としてのみ、特別に配布が認められている。

ニーズは災害時に限らない

横浜市の主婦、末永恵理さん(37)は、いま2歳の長女が生まれてすぐ、母乳があまり出ず、授乳がうまくいかないことに悩んでいた。夜中に何度も起きて粉ミルクをお湯に溶くのは大変だった。長女が栄養不足になってしまうのでは、と心配もした。インターネットで調べると、欧米では乳児用液体ミルクがスーパーで手軽に買えることがわかった。

「日本にも液体ミルクがあれば、子育ての負担が少しでも解消されるのでは」

末永さんはそう考え、たったひとりで「乳児用液体ミルクプロジェクト」を始めた。

なぜ液体ミルクが日本で売られていないのか。末永さんは厚生労働省やメーカーに直接、問い合わせた。まずは国の規格が必要。そのために業界団体を動かし、メーカーに技術開発を求めるーー。すでに安全な粉ミルクがあることや、少子化でミルク市場が縮小していることも逆風となり、道のりは長そうだった。

「親たちのニーズがあることがわかれば、動いてもらえるかもしれない」

2014年、インターネット署名サイトchange.orgで、メーカーに液体ミルクの製造を求める署名活動をはじめた。

今年4月の熊本地震で、液体ミルクが再び話題になったことで賛同者が増え、10月14日現在は4万1400人の賛同が集まっている。末永さんは、より詳しくニーズを探って国やメーカーに要望しようと、9月末から11月末までの期間でアンケートを実施している。

BuzzFeed Newsは、アンケートの途中集計(10月4日、6690件)の結果を教えてもらった。


日本にも乳児用液体ミルクがあったら、使いたいですか?

乳児用液体ミルクプロジェクト提供

普段からぜひ使ってみたい  38.4%

評判がよさそうなら試したい 30.9%

災害時の備蓄にしたい    29.9%

使いたいと思わない      0.9%

さまざまな要望も寄せられている

天候不順が続いて緊急避難も多くあるため、ぜひ自治体で備蓄してほしい

飛行機や公共交通機関を使うときに便利そう

男性が育休を取る場合にぜひほしい

日本でも、乳児用液体ミルクが買える日はくるのだろうか

さまざまな事情で母乳をあげられないことはあるし、父親だって育児をする。だが、母乳育児プレッシャーが根強い日本では、「ミルク育児で親が楽をするなんて」といった否定的な声が、まだ少なからずある。乳児用液体ミルクの必要性が理解されづらい背景の一つだ。

赤ちゃんにとっては、母乳かそれに代わるものがなければ、命にかかわる問題なのに。

末永さんは呼びかける。

「子どもがお腹を空かせて泣いているときに、ミルクをつくるために粉を溶く時間があったら、一刻も早く抱っこしてあげたいと思っていました。液体ミルクを使えるようになれば、親は子どもとの時間をもっと大切にできるはずです」




Akiko Kobayashiに連絡する メールアドレス:akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

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