• asobi badge

ゆるキャラの中の人に会ってきた話

子どもの頃、着ぐるみキャラクターの中に人間が入っているんだなんて、想像もしていなかった。ゆるキャラの中の人は、どんな人なんだろう。会いに行ってきた話を、これからします。

京王線の聖蹟桜ケ丘駅を出た途端、ムッとした熱気がアスファルトから立ちのぼってきた。この日、東京都多摩市の最高気温は34度。連日40度近かったことを考えると、マシになったほうだろう。

駅から歩いて2分の路地に、そのスタジオはあった。「ちょこグループ」というのぼりが立っている。ここは、日本で初めて設立されたという、着ぐるみ役者を養成するスクールだ。

3階のスタジオの扉を開けると、おしゃべりをしながらストレッチに励む人たちがいた。女性6人、男性4人。20代が多いようだ。19歳だという女性もいた。みんなおしゃれなトレーニングウェアを着ている。

これから始まるのは、着ぐるみ役者のレッスンだ。その証拠に、フロアの端っこからは動物たちが見守っている。

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

昭和と平成の着ぐるみ劇

ところで話は変わるけれど、あなたがアラフォーなら、覚えているに違いない。NHKの「おかあさんといっしょ」に出演していたキャラクター3人組のことを。

じゃじゃまる、ぴっころ、ぽろりが冒険する人形劇「にこにこぷん」の放送が始まったのは、1982年4月。私は4歳だった。

「にこにこぷん」の放送は10年半も続き、その間に元号は昭和から平成に変わった。中学3年になった私はもちろん幼児番組なんか見なくなっていて、「にこにこぷん」が終わったことに気づきもしなかった。

最後まで4歳の男の子のままだったのが、「ヨヨヨヨ」とすぐ泣く弱虫ネズミのぽろり。多くの子どもたちがテレビの中のぽろりを見て、「あんなふうに泣き虫にはならないぞ」と心に決め、成長してきたのだろう。

「ちょこグループ」を設立した大平長子さんは、ぽろりの中の人だった。

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

大平長子さん

擬人化された動物の気持ち

「着ぐるみ役者になったのは、ひょんなことからでした。OLを1年半ほどやって辞めて、知人の紹介で人形劇団のオーディションを受けたら受かっちゃって。パペットだと思っていたら、着ぐるみだったんです」

大平さんが思い返すのは、今から40年ほど前のこと。

表情やセリフで演技をするのはちょっと気が引けるタイプだった。「あのとき、自分の顔や体を見せる演劇だったら、役者にはなっていなかったかもしれない」と話す。

着ぐるみ役者として、単発の公演や幼稚園の巡回などで2年ほど経験を積んだあと、劇場で本格的なお芝居をするようになった。

ちょこグループ提供

男の子の役、お母さんの役、おじいさんの役......。舞台の袖から登場する瞬間、歩き方やしぐさが着ぐるみの見た目とちぐはぐだと、観客は混乱する。街に出て人間観察をするのが日課になった。

動物の場合も同じ。着ぐるみの動物はたいてい、擬人化されている。ウサギになるとしたら、年齢、性別、性格などのキャラクター設定をまず聞き、役づくりをした。一方で、動物園で動物の動きも観察した。

着ぐるみを着る準備には、30分ほどかかる。最後に面をかぶり、自分の顔が隠れる瞬間に、その役になりきるのだという。

「ヘンゼルの役のときは、妹のグレーテルを愛おしむ気持ちが自然と湧き上がってきました。ウサギの役をしたときは、ウサギの目では人間はこんな感じに見えるのか、と純粋に感じました」(大平さん)

私はそれを聞き、漫画『ガラスの仮面』を思い出した。主人公の女優が役になりきることを、見えない仮面にたとえている。着ぐるみ役者はわかりやすい面をかぶるけれど、その下で「ガラスの仮面」もかぶっているのだ。

「重い、暑い、臭い」の三重苦

以前は、着ぐるみは「重い、暑い、臭い」の三重苦だったという。今は軽い素材で作られるようになり、消臭剤も使えるが、暑さだけはどうにもならない。保冷剤を身につけてもすぐ溶けてしまう。

ちょうど数日前、東京ディズニーランドで着ぐるみを着てショーに出演していた契約社員2人が、過重労働やパワハラを訴えて運営会社を提訴した、という報道もあった。

大平さんに水を向けると、「自分の身を守ることが一番大事」と指摘し、短時間にする、水分や塩分を補給する、スタッフがサポートする、などのさまざまな安全配慮について教えてくれた。

みんながニコニコする

そうした配慮がきちんとなされたうえで「大変さを上回る楽しさややりがい」があるという。

「着ぐるみがいると、子どもも大人も、みんな『あっ!』と声をあげて走り寄ってきて、ニコニコしますよね。日本人って普段あまりハグしないけれど、ハグをしたり握手したりもして。私はあの感じが大好きで、40年も続けてきたんです」

「お客さんからは見えないですけれど、着ぐるみの中の人も、ニコニコしているんですよ」

着ぐるみ役者には、演技のほかにも重要な仕事がある。ショッピングセンターやイベント会場で、来場者と握手をしたり写真撮影をしたりする「グリーティング」だ。

グリーティングを体験したある年配の男性は、子どもたちが駆け寄ってきて人気者になれたことに感動し、「素の自分だったら絶対に体験できないことだ」と大平さんに話したという。

素ではできないようなおどけたポーズをとるなど、自分を解放することに楽しさを感じる人もいる。

ちょこグループ提供

怖い系キャラは難しい

着ぐるみはしゃべってはいけない。視界が限られるため、子どもたちを無視したりケガをさせたりしないよう、注意を払わなければならない。

アテンドするスタッフは、着ぐるみに話しかけるのではなく、子どもに「ウサギさんが握手してくれるよ」と話しかける形で、どこに握手を待っている子どもがいるかを着ぐるみに知らせている。

また、ゴリラなど子どもたちが怖がって寄り付きにくいキャラクターもいる。ひょうきんな動きをして楽しませなければ、ポツンと街頭に取り残されてしまう。レッスンでは、着るキャラクターの難易度をだんだん上げて経験を積んでいくという。

目を合わせることが大事

最も大切なのは、「目を合わせること」だと大平さんは言う。ひとりひとりとしっかり目を合わせることで、キャラクターが生きているように見え、観客が近寄りやすくなる。

しかし、着ぐるみの目は、中の人の目ではない。着ぐるみの目は頭のてっぺんにあることもあれば、腰のあたりにあることもある。着ているキャラクターの目の位置を意識して、目を合わせなければならない。

「いい着ぐるみ役者は、キャラクターの気持ちを深く読み込み、感情の流れを理解して演技ができる人。指名で仕事がくる役者もいます」

「もっと大事なのは、基本的なコミュニケーション力。ひとりで初めての現場に行くこともあるので、ちゃんと挨拶ができ、時間通りに面がかぶれるよう準備できることがマストです。自己管理ができ、周りにも目を配れる人は、着ぐるみの中でも力を発揮できます」

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

着ぐるみ役者を目指すレッスンの様子

素の自分が通用しない世界

再び、レッスンの様子に戻りたい。なぜ着ぐるみ役者を目指そうと思ったのか、生徒数人に聞いてみた。

フリーターの男性(26)は昨年の春、勤めていた会社のイベントで着ぐるみを着ることになった。

「暑くて重くて大変だったけど、イベント期間が終わったあと、もっと続けたいなって思ったんです」

接客業の経験から、笑顔で愛想よくさえしていれば仕事はうまくいくという成功の法則が、自分なりにあった。

「着ぐるみは、それが通用しない。自分がどうするか、ではなくてキャラクターとしてどうすれば喜んでもらえるか。まったく違う振る舞いをもっと学びたいと思いました」

男性は昨年秋からレッスンに参加し、プロ野球の球団マスコットのような「会いにきてもらえる」着ぐるみ役者を目指している。

週3回、保育園で働いているという主婦(58)は、子どもたちに喜んでもらいたくてレッスンに参加した。手話を習っており、いつか着ぐるみで手話通訳をしたいという夢もある。

「最近は親の介護のため、しばらくレッスンを休んでいました。年齢的に、なかなか思うように体が動きませんけどね。日常のひとときの息抜きにもなっているんです」

そう言って笑い、首にかけた手ぬぐいで汗を拭った。

ちょこグループ提供

何者にでもなれる

レッスンは、最初にダンス指導、演技指導があり、最後に面をつける。冒頭のダンスは15分もすれば、みんな汗びっしょりになっていた。

お芝居は、アテレコのセリフに合わせた静かな演技だ。言葉を発することはなく、しぐさだけで表現する。女の子の役の男性が手を腰にあててかわいらしいポーズをし、ゴリラ役の女性がガニ股で床を踏み鳴らした。

着ぐるみ役者は、何者にでもなれるし、何者にでも見せられる。そのことを心底、楽しんでいるように見えた。

幼い頃には知らなかったけど、大人になったからわかったこと。着ぐるみの中には、人間がいる。ゆるキャラは、中の人によって生かされている。

それぞれ異なる個性や人格をもっていながら、それをひけらかさず、人に喜んでもらいたいという強い想いのある人たちが、キャラクターに息を吹き込んでいるのだ。

次にどこかで着ぐるみに遭遇したら、きっと今までとは違う出会い方ができるだろうな、と感じた。この秘密、子どもには絶対に教えないけれど。

_🏕️_____🏕️__

なにが「遊び」なのかは、人それぞれ。ゲームをしたり、写真を撮ったり、どこかへ出かけたり。つまらないと感じることでも、ある人の視点を通すと、楽しくなって、それが「遊び」に変化することもある。「遊び」には、限界がないのです。BuzzFeed Japanは、人それぞれの「遊び」を紹介し、平成最後の夏を思いきり楽しむ!


Contact Akiko Kobayashi at akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here