• mokumoku badge
  • worklifejp badge

上司に「自分で子育てしたい」と言ったら驚かれた。退職後、とことん本音をぶつけてみたら

「世代に関係なく、この仕事だけは誰にも渡したくないという欲や野心って、あると思うんですよね」

私の元上司は、バブル世代。男女雇用機会均等法の施行から3年目に、社会人になったそうです。11歳年下の就職氷河期世代の私は、仕事をする環境にも、仕事に対する考え方にも、世代間ギャップを感じていました。正直なところ。

元上司は、週刊誌AERAの元編集長で、今はBusiness Insider Japanで統括編集長をつとめる浜田敬子さんです。

"クローン"に裏切られた

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

浜田敬子さん

浜田さんが出版したばかりの単著『働く女子と罪悪感』には、こんなことが書かれていました。

私が山口から親を呼び寄せれば、二つ下の後輩までは北海道から親を呼び寄せました。でも、10歳下になると変わります。親の人生を変えてまで働きたくない。親には親の人生がある。


さらに「自分でできる限り子育てをしたいんです」と言われた時には、「え? え?」という感じで、ものすごいショックでした。


これまでずっと手取り足取り仕事を教えてきて、自分の"クローン"のように思っていた後輩にそう言われて。最初は正直「裏切られた」という感覚もありました。


でも、徐々に私自身の考えが変わったんです、もう自分たちの世代のやり方は通用しないんだ、と。彼女たちの方が数も多いので、そちらに合わせるしか、多くの女性が働き続けることはできないんだと。

え? え? クローン...??

ここに登場する「後輩」とは、私の2つ上の40代前半の先輩Kさんのことです。確かに浜田さんの指導は丁寧でしたし、AERAで女性の働き方や生き方を特集するにあたって、編集部に一定の価値観が共有されていたことは事実です。

でも......。

仕事と子育てについての意識に、ここまで隔たりがあるとは。浜田さんたち世代(アラフィフ)と、Kさんや私の世代(アラフォー)、そして、そのまた下の世代(アラサー)との違いは何なのか。お互いに職場が変わった今だからこそ聞けるかも、と久しぶりに元上司に会いに行ってみたのです。

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

ーー『働く女子と罪悪感』、読みました。元職場について相当ぶっちゃけてありましたが、特に気になったのは世代間ギャップの話です。"クローン"ってKさんのことですよね?

そう。Kさんは私が最も信頼していた記者の一人で、私と同じくらい仕事人間のはずだと思っていたんだけど、副編集長に就任を打診したら、こう言われてびっくりしちゃって......。

「ハマケイさんのように両親に頼ることもできないし、できれば私は子育ても自分でしたい。その中でできる範囲で仕事を頑張りたい」

10年以上、一緒に仕事をしてきたから、自分と全く同じ価値観で彼女も働いていると思い込んでいたんだけど、単に私のことを忖度していただけだったのかな、と相当ショックでしたね。

ーー私も当時、Kさんからその話を聞いていましたが、別に働きたくないというわけじゃなかったんですよ。

ただ、親を呼び寄せてまで働くという発想はなかったですし、実力や目標としても、編集長を目指すほどじゃないなら子育てもしたいし、リスクヘッジもしておきたいという。

そういうことだったの......。

ただ、みんなそう言うけど、最初からあきらめるのはもったいないよ。

男性は、20代から負荷が高い仕事をするチャンスを与えられてきたけれど、女性が管理職になりたがらないのは、その機会がなかったから。自信がないのです。社会人になってからの経験だけでなく、女の子は目立ってはいけない、という子どもの頃からの刷り込みも影響していると思います。

環境を整えさえすればできる人は、女子の中には必ず何人かいます。管理職や次のポジションになって初めて見えることや、できることってある。私もそうだったから。

負荷の高い仕事をさせる理由

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

ーー浜田さんは副編集長になったのも早かったですし、女性初のアエラ編集長にもなりました。それでも上司を見て「あんなふうにはできない」と思うことがあったんですか?

上司といえば男性ばかりでしたからね。私が1989年に朝日新聞社に入社した時、記者の同期は80人。うち女性記者は14人でした。副編集長になると、男性部下とギクシャクしたり、社内の派閥や人脈に苦労したりしましたね。男性のリーダー像しか見ていないので、渡り歩き方がわからなかったのね。

当時の男性編集長の剛腕ぶりを見て「あんなふうにはなれない」と思っていました。トップになるのは荷が重いから、「二番手の女」でいいと思っていた。

ーーところが突然、出版で編集経験のない男性が編集長に就任したんでしたね。それで浜田さんは副編集長から編集長代理に。

あの1年半は本当につらかった。なんで私ではないんだろう?って。「何としても編集長になりたい」と思ったのもその時期でしたね。

世代に関係なく、管理職を目指していないという女性でも、この仕事だけは人に渡したくないという欲とか野心って、あると思うんですよね。いざという時に、自信がないからとそれを手放すのは悔しいですよ。だから若いうちから、負荷が高い仕事の経験を積んでおいたほうがいいんです。

ーー負荷が高い仕事といえば、東日本大震災が発生したとき、「被災地の取材に行ける?」と声をかけてもらいました。当時は夫が単身赴任中だったので、私は4歳だった長男を実家に預けて出張しました。

子育てしている社員に対して、できない前提で仕事をふらないのではなく、まずは状況を聞きたいと思っているんですね。やりたくない時やできない時は「できません」と言うだろうし、やりたい時はベビーシッターを雇ってでも何としても都合をつけてやるだろうし。

ーー取材に行きたい思いと同時に「いつも早く帰らせてもらっているのにこんな時だけ図々しいのでは」「そもそも期待されていないかも」といろいろな思惑を天秤にかけていました。声をかけられなかったら出張していなかっただろうと思います。

働く女子のキャリア格差』を書いた育休プチMBA代表の国保祥子さんとの対談で話しているのですが、仕事を続けるか辞めるかのどちらかの選択肢しかなかった均等法世代は、仕事を続けるためにはどうすればいいかという発想だった。けれど、制度が整ったアラフォー以降は「続ける」というより「辞めない」という選択なんですね。

「辞めない」ためには、やりがい、評価、成長実感などが必要で、そのためにも負荷が高い仕事をふってあげないと、力を持て余しちゃうし飽きちゃうし、評価されていないと感じてモチベーションが下がってしまいます。

「それでも、寂しい」

Hwanchul / Getty Images

(写真はイメージです)

ーー普段はすごく働きやすくて、校了日の夜も「あとはやっておくから帰っていいよ」と声をかけてもらっていました。浜田さんが何時に帰っていたのか、私は知りません。

当時は、約30人の部員のうち女性が約20人、そのうち子育てしている部員が10人くらいいて、仕事をしてもらうためには配慮をしなければ回らなかった。

時間で人を評価することはしないし、してはいけないともわかっている。原稿さえ出しくれていれば、どんな働き方をしてもらってもいいと。

でもさ、寂しいわけよ......。

校了日の夜、みんなが自宅や遠隔で作業をするようになって、誰もいない編集部でポツンと校了作業をするとなると。何か相談したいことがあっても顔を合わせて話せる人もいないし。

ものを一体となって作っている感じがしなくて。古い感覚かもしれないけど、校了日くらいはみんなで雑誌を作っている実感を得たいというのが本音だったかな。

ーーそういえば、祝日(週刊誌のため祝日も平日と同様に稼働)に在宅勤務をしていたら、浜田さんから「子どもを連れてきてもいいから出社して」と言われたことがありました。ワンオペ育児中だった私は「そこまでする必要がありますか」と。

そんなこともあったね。正直、私は共働きで両立しているといっても、実家の親に育児を頼りきりだったから、ワンオペ育児でどのくらい物理的、精神的に追い詰められているかなんて想像がつかなかった。

ーー結局、その後は、出社するようには言われなくなりました(笑)

そうやって言ってくれないとわからないから、言ってくれてよかったと思っています。ただちょっと、明子ちゃんとの間には、緊張関係があったかもね(笑)

だって、他の部員は全然、不満を言わなかったんですよね。管理職としては、他の人とのバランスを取らなきゃいけないという思いがあったのも事実です。

私が独身だったり子どもがいなかったら気を使わなかったでしょうけど、私もワーキングマザーのグループにいるという意識はあって。子どものお下がりを持ってきて盛り上がるママ部員の横で、その輪に入ってこられない人たちの存在が気になってもいたんです。

結局、校了日に遅くまで残っているのもその人たちだけ。「悪いけど急ぎの仕事をやってくれない?」と頼むのもどうしてもその人たちばかりになっちゃう。子育て中の部員に配慮しているつもりだったけれど、実は家庭の事情を抱えていたのに言い出せなかった部員もいたんですよね。

「校了時間を早めたら」と言われ

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

そんな中、明子ちゃんはついに「校了時間を早められないか」と言ってきたよね。そうすれば子育て中の部員だけでなくみんなが早く帰れるから、と。あの時は「おぉ、ついにきたか」と思いましたよ。

校了時間を3時間早めるのは、できないことはないけれど、そのためには印刷所やデザイナー、すべての人のスケジュールを動かさなければならない。「どんなに自由に働いてもいいし、配慮もするけど、それだけは難しい」というのが当時の私のある種の限界だったのかもしれませんね。

でもそうやって話すことで、できることとできないことが、お互いにわかってきます。だからやっぱり、忖度してちゃいけない。話さないといけない。

部下から「話があります」と言われたら、辞めたいか、文句があるかのどちらかしかない。言われた時はものすごくショックだし緊張も走るけど、結果的には話したほうがいいんです。この世代は私たちの世代とは違うんだということを気づかせてくれるから。

ーー均等法世代と氷河期世代のギャップの話をしてきましたが、もっと下の世代とはどうでしょうか? 30代や20代は。

20代はもうね、宇宙人(笑)。微細な感情のあやをお互いに思いやりながら会話ができるのは、氷河期世代くらいまででしょう。

気をつけているのは、感情ではなく理屈で話すということ。例えば「どんな格好をするのも自由だけれど、取材先で損したらもったいないよね」とか「子育て中は夜の取材や会合に出づらくなるから、独身の間にめいっぱい仕事をしておくことは"貯金"になるんだよ」とか。

感情がどうこうという話ではなくて、ある意味、私は合理主義者なので、仕事をしてもらうためです。アエラ編集部でも今のBusiness Insider編集部でも、少ない人数で結果を出すためには、みんなが困っていることを解決して仕事で能力を発揮してもらわないといけないからです。

世代って人の歴史であり育った環境だから、意識は変えられないし、世代間ギャップは埋められない。結果から逆算し、こうやったらうまくいくということを一つずつやっていくほうが合理的だし楽ですよね。

何に対する罪悪感なのか

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

働く女子と罪悪感』(集英社)

ーー働き始めてからの30年、どんな変化を感じましたか。

私たちの世代で働き続けている人はごく一部の残った人だから、気合いや根性が入っています。だけど氷河期世代以降は裾野が広がっているぶん、もうちょっとニュートラルになっています。

自分のキャリアよりも、夫への気遣いを優先する人もいれば、もっと子どもと一緒にいたいという人もいます。さまざまな価値観の人が働き続けるための制度は整ったのに、意識は変わっていない。働くことに対して、家族や子どもに対する申し訳なさや罪悪感をいまだに多く女性が抱えているのです。

この本で最も伝えたかったのは、「仕事が楽しい」と言うことに罪悪感を感じなくていいよ、ということです。誰にも遠慮しないで「仕事が好き」って言っていいんだよ、と若い世代に伝えたい。

1990年代は、日本の働く女子にとって失われた10年でした。仕事を続けたくても続けられなかった人たちがたくさんいます。90年代に私の周りで仕事を辞めていった優秀な女子たち、あのしかばねを無駄にしないでほしい。

いまは制度は整ったのだから、自信を持って、自分の意識を自分で変え続けてほしい。頑張ってほしいというより、遠慮しないでほしいな、と思います。


ーー後日、浜田さんが"クローン"だと思っていたという、Kさんにも話を聞いてきました。

「フツー」が違うのかも

Amesy / Getty Images

(写真はイメージです)

Kさん 私としては、副編集長になるのを拒んだつもりはなかったんですが、当時は「副編集長たるもの、午後6時の電車で帰るのはいかがなものか」という風潮がまだあり、私がそれに合わせて遅くまで働いたとして、次に続く人が幸せになれるのかな、という思いはありました。

「できる限り自分で子育てしたい」と言ったのは、子どもは母親が育てるべきだ、と過剰に母性幻想にこだわっているわけでも、シッターさんに頼りたくないわけでもありません。

ただ、給料をすべてシッター代につぎ込んだり週5で両親に預けて働きたいかというと、私の中ではシッターさんは週1が限度だな、という。それでも普段の保育園のお迎えは誰よりも遅いくらいですから、浜田さんの世代とは「フツー」が違う、と言うか......あ、もしかしたらその世代でも、浜田さんほど働いている人はそんなにはいなかったのかも?!(笑)

結果的に、副編集長になってからの仕事や働き方はすごくしっくりきています。

女性にありがちなケースだと思うのですが、私の場合も、やっている仕事の範囲が広いのに役職がついていない期間がずいぶん長く、権限がないため判断できなかったり、後輩に指示して動いてもらうということができず全部自分でやらなければならないことが多かったんです。

副編集長になった後に、役職がついたほうが実はラクだったんだな、と気づきましたし、実際、週1回の校了日以外は午後6時に帰ることができています。

編集部の働き方改革も進み、校了日でもみんな早めに作業をして早めに帰るようになっています。だからあの時、浜田さんに声をかけてもらって副編集長になってよかった、と思っています。


いまを生きる私たちが直面する、仕事にまつわるさまざまな課題。上司と部下の「世代間ギャップ」から、これから働き方をゲストと一緒に考えます。

もくもくニュース「#社長に届け これからの働きかた」は、こちらで配信しています。

📺「社長に届け!これからの働きかた、休みかた」 あなたの会社は大丈夫ですか?働き方にまつわる「世代間ギャップ」や悩みについて話し合います🙌 MC:ハヤカワ五味(@hayakawagomi)、大島由香里 ゲスト:市原えつこ( @etsuko_ichihara ) たられば ( @tarareba722 ) https://t.co/sreuPH0wRw

【ゲスト】たられば(編集者)、市原えつこ(メディアアーティスト)

【MC】ハヤカワ五味(経営者)、大島由香里(フリーアナウンサー)

番組の感想や意見は、Twitterのハッシュタグ「#社長に届け」で募集しています!

Contact Akiko Kobayashi at akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here