• sustainablejp badge

1億人を動かす言葉とは。あるパン屋が「健康志向」を売りにしない理由

地方のものづくりの現場を取材するジャーナリストの甲斐かおりさんと、「書けばバズる」とPVを期待されてきたウェブライターの塩谷舞さんが、言葉によって多くの人を動かすにはどうするか、考えました。

大きな社会課題ほど、自分ごととしては届きにくいものです。

気候変動という遠く感じる課題について、スウェーデン出身の17歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんは強い言葉で訴え、世界から注目を集めました。

台風や水害、森林火災など、環境の課題は待ったなしですが、どうやって人々の日々のアクションにつなげていけばよいのでしょう。

悩みながらも考えてくれたのは、エシカルな発信を続けているオピニオンメディア「milieu」編集長の塩谷舞さんと、著書『ほどよい量をつくる』で新しい価値観をもったつくり手を取材したジャーナリストの甲斐かおりさん。

後編では「人を動かす言葉」について話します。

環境問題という遠くて暗いテーマ

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

かい・かおり / ジャーナリスト。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で、昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿。

ーー日本でも若い世代が「グローバル気候ストライキ」に参加するなど、環境問題への関心は高まりつつあります。お二人は、発信が広く届いているという実感はありますか?

甲斐 塩谷さんはTwitter(@ciotan)のフォロワーが9万人を超えるインフルエンサーですよね。そんな影響力が大きい方が環境問題などを発信することで、響く相手はいるのではと想像します。

塩谷 1年半くらい前から環境問題について少しずつツイートしたり記事を書いたりするようになりました。耳を傾けてくれる人もいますが、フォロワーさんの中には「自分がほしい情報ではないから」とそっとフォローをやめた人もいるかもしれません。

甲斐 大量生産・大量消費とは逆の動きですし、規模が大きくて自分ごと化しづらいテーマなので、どれだけマスに届くのか、という点では常に課題を感じます。

問題提起する本はたくさん出版されており、専門的な記事もたくさん出ていますが、読んだ人がじゃあ行動を起こすかどうかとなると、地球温暖化やCO2削減は自分とは遠くに感じやすいですよね。

問題の真実を突き詰めていくようなジャーナリスティックな書き方だと読みづらいし、読んでいてちょっと暗い気持ちになってしまうものは、手に取りたくない人も多いと思いますし。

自分の書いているような地域のことも、その分野にもともと関心のある人や共感する人にしか届いていないのでは、というのが私のいまの悩みです。

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

塩谷 私自身、環境問題のことを発信するようになってから、専門的な本や記事を読まなきゃ、とがんばって読んでいるのですが......正直、自分がいち消費者だったら、難しすぎてあきらめてしまいそう!と思うことも多いです。

ですが、環境問題を考えるときには、1人が100%コミットするよりも、10%コミットする人が1億人いるほうが、よほどインパクトがありますよね。

だとしたら、情報をわかりやすくして多くの人がとっつきやすい形にし、世の中の意見を「ひっくり返す」というよりも「染み込ませていく」ようなところをねらっていくのも、ひとつの方法かなと思っています。

炎上とインパクトの違い

note

塩谷 でも、この「とっつきやすい形」というのが難しいです。たとえば攻撃性の強い言葉を使うと、注目を浴びて広まりやすくはなるのですが、環境問題を訴える人への苦手意識を育ててしまう可能性もあります。

2019年5月に「日本から欧米に行き、すごく恥ずかしかったこと」という、少しあおり気味のタイトルの記事をnoteに書きました。

アイルランドの留学中に、お店にレジ袋がなくてショックを受けたこと、現地で出会った人たちがペットボトルを買わない姿勢を貫いていたこと、日本で暮らしているときはなんと無頓着に生きていたんだ!ということをそのまま書いたらみるみるバズって。環境のことを書いてこんなにバズるんだ、と驚きましたが、実はなかば炎上していたんですね。

二項対立をあおるようなタイトルはよくなかったし、浅い知識で書いてしまったために至らない点も多々あり、反省しました。

それからは、できるだけ対立をあおらないように、誰かを責めないように、やさしい論調で書くようにしようと考えました。

すると、今度はまったく読まれない。読まれなければ結局、変化を起こすことはできないのかな......といろいろ悩んでしまって。

SDGsを美人が語る理由

甲斐 私は雑誌の仕事もしてきましたが、多くの雑誌は美容やファッションなど、みんなが憧れる世界をつくることに全力を注ぐじゃないですか。

ある女性誌がSDGsの特集を組むことになり、誌面で取り上げる人を探していて、その条件が、その方が美しくなければいけない、と。SDGsのことを発信するのに、なぜか顔で選ぶわけですね。

憧れの対象になるものをつくるのも一つのやり方ですが、まずスタイルをつくってからその土台に本質のテーマを載せるという順番はどうなのかな......とモヤモヤしてしまって。

だからといって、がっつりSDGsに入り込んだものをつくると、一部の人にしか手に取られないし読まれなくなってしまいがちだというのもわかるんです。

塩谷 それは本質ではないですね......。とはいえ、スタイリッシュなライフスタイルに惹かれる人が多いのも事実。

私は長年エコを「我慢」だと思っていたのですが、ブルックリン在住の起業家でゴミを出さない暮らしを提案しているローレン・シンガーさん(@trashisfortossers)の存在を知り、「こんなにオシャレに生活できるのか!」と気持ちが明るくなったという経験があります。

Me & my jar are SUPER excited to see the Inconvenient Truth Sequel in theaters now! https://t.co/K5ltxG8cV9 #ad #BeInconvenient #AlGore

過去4年間に出したゴミはすべてこの小瓶におさまるだけだというローレン・シンガーさん

私は、あれはダメ、これもダメ、と重い話だけをするのではなく、記事の中にほんの少しでいいから「解決策」を入れたいなと思っていて。大きな解決はもちろん難しいのですが、個人がアクションを起こせるような小さなものを。

昨年の大みそかに「2019年、買わなくてよかったもの」と「それでも、買ってよかったもの」をまとめた記事を書いてみました。

ライフハックに"擬態"する

塩谷 年末年始って、クリスマス商戦からお歳暮、お年賀、初売り、新春セールと、"メガホンをもった消費"みたいなあおる売り方が続くんですよね。それに合わせるように「2019年、買ってよかったもの」といった記事がたくさん出るのが気になっていて。

「買わなくてよかったもの」はその逆張りで、マイバッグがあるからレジ袋に1枚3円を払わないなくて済んだとか、マイボトルのおかげでペットボトル入りの飲料を買わずに済んだとか。上質な折りたたみ傘を買ったら、前の年に10本は買っていたであろうビニール傘がゼロになったとか。

そうやって情報発信すると、ライフスタイルマガジンのような感覚で読んでもらえたようで、届いた!という実感がありました。ライフハックに擬態して、染み込ませていく......というような(笑)。

それが本質的かといわれると違うかもしれないけど、そうでもしてでも、環境問題を知るための橋をつくっていきたいな、と私は思います。

『ほどよい量をつくる』は、エコの観点だけで語られているわけではないけれど、持続可能なビジネスモデルを追求している方々が登場しますよね。

狭すぎない世界へ

Kaori Kai for BuzzFeed

「パンと日用品の店 わざわざ」の店内

甲斐 そうですね。本で取材した方々の中には、がんばって発信している人も多いですが、点と点でしかないことがもどかしいなとも思います。やはりつながったほうが、やっていることの意義が伝わるし、結果として環境のためにもなるんですよね。この本はそうした点をまとめて見られる、ひとつの試みでもあります。

長野県東御市で「パンと日用品の店 わざわざ」を一人で開業した平田はる香さんは、自分たちの仕事の規模を「ここまででいい」と決めているわけではなく、求められれば広げていきたいとおっしゃっていました。

それは、「わざわざ」のパンを食べてもらった、あくまで結果として、健康になる人が増えたり環境負荷が減ったりしてほしいという思いがあるから。

「はじめから健康志向のパンを焼こうとこだわりすぎると、マクロビオティックやビーガンの人たちが多くなり、お客さんが偏っていく。世界が狭すぎないほうがいいなと思った」と、取材したときに語っていました。

プレッシャーへの反発が変えたこと

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

しおたに・まい / オピニオンメディアmilieu編集長。大阪とニューヨークの二拠点生活中。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。Webディレクター・PRを経て2015年からフリーランス

ーー情報や思いが伝わると、消費の仕方は変わっていくと思いますか?

塩谷 消費の動機って、単なる物欲だけでなく、コンプレックスを刺激されることによるものも多いですよね。脇毛は恥ずかしいから脱毛しようとか、目は二重のほうがいいとか、お酒は飲めたほうがいいとか、家は新築のほうがいいとか。

今まさに、そうしたプレッシャーを与える消費から、多様性を肯定するような消費に変わりつつあると思います。ノンアルコール・カクテルが市民権を得たり、中古リノベーション市場が盛り上がったり。

そもそも、大量生産・大量消費とマスメディアによる広告が中心だった時代には、「みんなこうあるべき」と一つの方向に促し、プレッシャーを与えることが一番効果的だったのかもしれません。

でも今は、SNSの存在もあり、「こうあるべき」というプレッシャーへの反発も声に出せる時代。

だからこそ、数多のマイノリティに光をあてるような商品がたくさん生まれているし、そうした商品を届けるのはマスメディアの広告ではなく、つくり手の思いだったりしますよね。

消費に思考をまじえる

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

塩谷 アメリカの老舗高級百貨店であるバーニーズ・ニューヨークが、全米の主力店舗をすべて閉店した、というのは象徴的な出来事でした。私が半年前に行ったときも、店内はガラガラで活気に欠けていて、ファーマーズマーケットのほうが盛り上がっていたんですよね。

「良いモノ」の基準が、値段が高くて、ブランド品で、高級店ののしが付いているというところから、変わりつつあります。

つくり手の思いがあり、職人や生産者の方々にしっかり利益が還元されて、環境への配慮もある。そんなものが「良いモノ」と捉えられるようになってきています。

とにかくブランド品だからとお金を払うのではなく、消費に思考をまじえるということを、これからのお買い物の楽しみ方にしていきたいですよね。

甲斐 そのストーリーを知りたがっているお客さんが多いから、地方のお店もインスタグラムなどを活用して、お客さんとつながる機会を提供し始めています。ワークショップや体験などを通して、消費者がつくり手の思いを聞いたり、畑を訪れたり、触ったり匂いをかいだり。

情報がたくさんあって知った気になってしまいがちな時代だからこそ、ネットで買えるものであっても、あえて触りにいき、食べにいき、五感で選ぶという体験を、お客さんも大事にし始めているのではないかと思います。

塩谷 まだそうした人はほんの一部かもしれませんが、そうした思想をもった消費者は増えていくでしょうね。というか、増やしていきたい!

自分の生活の質を向上させるためであれば、個人の趣味として楽しめばいい。けど、環境のことを考えるのであれば、いかに多くの人に伝えるか、というところは重要です。本質を学びながら、広く伝えることをあきらめない姿勢が大切ですね。

ーー大量生産・大量消費ではない「ほどよい量」をつくり手がどう模索していくかは、こちらの記事で話しています。

BuzzFeed Japanは2020年3月24日(火)〜3月29日(日)、オンラインイベント「未来をつくる仕事のこと 〜就活で聞けないリアル〜」を開催します。

ひとりの力は小さくても、集まれば、世界を変えるような大きな力になるはず。「こんな社会で暮らしたい」のために働きたい学生や社会人のみなさんのヒントになるお話が満載の5日間です。

🍀詳細はこちら🍀

みなさんにとって仕事とは?就活とは? 3月29日の番組にご意見を反映します。アンケートにご協力お願いします。

Ryosuke Sugimoto / BuzzFeed

【配信日時】

3月24日(火)〜27日(金)19:00〜20:00

3月29日(日)16:00〜17:50


【配信先】Twitter: BuzzFeed Japan News(@BFJNews

Contact Akiko Kobayashi at akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here