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Updated on 2018年8月29日. Posted on 2017年10月6日

友達とつながるために。施設で育った女子高校生が、どうしても欲しかったもの

スマホを持つのは贅沢ですか?

初めて自分のスマートフォンを手にしたときに感じたのは、嬉しさよりも心配だった。

「料金を払っていけるのだろうか」

Akiko Kobayashi

エリさんは今、仕事で毎日、スマホを使っている。

エリさん(仮名、21歳)は、児童養護施設で育った。さまざまな事情で保護者と暮らせない子どもたちが生活する場所だ。

その施設のルールでは、中学生まではスマホ禁止。高校生は、アルバイトをして自分で利用料を払うことを条件に、持つことが認められていた。他の児童養護施設に比べると、門限もルールもゆるいほうだったという。

パソコンは共用のものが1日1時間、共用リビングの片隅でのみ、使うことが許されていた。学校の宿題の調べものを急いで終えて、YouTubeを観たり、好きなアーティストの曲を聴いたり。厳しめのフィルタがかけられていて、ゲームをすることはできなかった。

「0円」のスマホ

中学で不登校だったエリさんは、定時制の高校に通っていた。友達とのやりとりは、LINEやTwitterがほとんどだ。

「LINEでは細かいグループができて頻繁にやりとりしていたので、電話をしてまで他の子を遊びに誘うことはありません。友達の輪に入るためには、どうしてもスマホが必要でした」

仮に友達が電話をくれるとしても、ガラケーも持っていなかったエリさんは、施設の共用電話を職員につないでもらうしか、受ける方法はなかったのだ。

アルバイトのめどが立った高校2年のとき、施設長に相談し、携帯電話ショップを訪れた。「0円」と書かれた端末の中にはかわいいピンクやゴールドはなかったけど、カバーが無料でつくというものに決めた。黒くて、ゴツめなAndroidだった。

ショップのカウンターで身分証明書を求められ、医療機関の「受診券」を提示したら、販売スタッフはけげんな表情をした。児童養護施設や里親のところにいる子どもたちの医療費の自己負担が免除される「受診券」は、通常の「保険証」とは違うため、スタッフは見たことがなかったのだ。同行していた施設長に説明してもらって契約できた。

ようやく手にしたスマホ。エリさんは、2人部屋の相方である小学生が消灯した後、カーテンで仕切った隣のスペースで机のスタンドだけをつけ、手のひらの中の世界を楽しんだ。施設にはWi-Fiがなく、パケット代を気にしながらだったけれど。

常に「下」に合わせる

BuzzFeed

ライツオン・チルドレンがパソコン講習に参加した57人に施設のネット利用環境をアンケートしたところ、まったくネットが使えないという子もいた。

内閣府の青少年のインターネット利用環境実態調査によると、高校生のスマホ利用率は94.8%(2016年度)。このうち92.3%が、LINEなどコミュニケションツールとして利用していた。

もはや高校生の交友関係において、スマホはなくてはならないツールだが、児童養護施設では前述のように、スマホを持つことは簡単ではない。パソコンの利用やインターネットへのアクセスも制限されている。

なぜなのか。児童養護施設の子どもたちの自立をサポートするNPO法人ライツオン・チルドレン理事長の立神由美子さんによると、2つの理由があるという。

1つ目は、インターネット上のトラブルに巻き込まれることを防ぐため。施設の職員は子どもを守るだけでなく、監督する責任もある。子どもにリスクマネジメントを教えるのではなく、リスクそのものに触れさせないようにしがちだ。出会い系サイトやオンラインショッピングにアクセスできないようにするため、共用パソコンにはフィルタをかけ、職員の目の届く場所で制限時間内に使うというルールを設けている施設が少なくない。

2つ目は、施設内格差を作らないため。家庭の事情によって、まったく親と会えない子もいれば、週末に自宅に帰れる子、親にほしいものを買ってもらえる子がいる。こうした事情や所持品の差は子ども同士のトラブルにつながりかねないため、施設では親からのプレゼントを職員が預かることもあるという。スマホや端末の場合も同様だ。

「多くの施設では、平等にするために、常に”下”の水準に合わせようとします。それでは子どもたちの暮らしは向上しない。体験格差を埋める努力をしてほしいです」(立神さん)

指1本でキーボードを打つ

児童養護施設で暮らす子どもにとって、情報収集能力を身につけることは死活問題でもある。施設にいられるのは18歳になった3月までで、その後は自活していかなければならないからだ。

「施設を出るときは、それまで使っていた家具・布団などの施設の備品は、持ち出すことはできません。新しい生活、新しい仕事、新しい人間関係を始めるとき、子どもたちは孤独で、大きなストレスと戦っています」

エリさんの場合は、18歳から20歳までは自立援助ホームで暮らし、アルバイトをしながら専門学校に通って資格を取った。

「私は昔、ワープロを触った経験があったので、パソコンで文字を入力することはできました。施設出身の友人には、指1本でキーボードを打っている子もいて、アルバイトを探すのにも苦労していました」

2017年2月、NHKの特集「見えない貧困」は、ファッションや所持品などの「物」だけでなく、「人とのつながり」「教育・経験」など外から見えにくい”剥奪”が、子どもの自己肯定感を失わせている、と指摘した。スマホを持っているから困っていない、と一概に言えるものではない。

テレビや新聞を通じた情報は施設にいても入ってくるが、「インターネットができないことは”経験値の差”につながります」と立神さん。情報を一方的に受け取ることはできても、「情報を自分で取りにいく」「情報を自分から発信する」経験ができないからだ。インターネットに対する”免疫”をつける機会もない。

「まったくITリテラシーがないまま社会に出て、架空請求がきたのに誰にも相談できずに払ってしまった、といったケースもあります。施設にいて大人に相談できるうちに転んでおいたほうが、まだいいんです」

情報格差をなくしたい

Lights On Children

マンツーマンで指導を受け、講習で使ったパソコンを持ち帰る

ライツオン・チルドレンでは2014年から、「e2プロジェクト」として、児童養護施設を退所する子どもたちの自立支援のため、パソコン講習会を開いている。

企業や学校で使わなくなったパソコン、タブレット、携帯電話などの寄贈を受け、売却する。その代金で、再資源化された中古パソコン(リフレッシュPC)を購入し、児童養護施設の子どもたちに贈る。その際、テキストを渡し、2日間のパソコン講習会を必ず実施する。

「施設にパソコンが寄付されることもありますが、使い方や接続の仕方がわからず結局、箱が開けられないままだという話も聞きました。講習は、パソコンを使えるようにする目的と同時に、異なる施設で暮らす子と出会ったり、講師から仕事の実体験を聞いたりする場でもあります」

講師は、協力企業の社員がボランティアで務める。1回につき4、5人の少人数で、パソコンスキルをマンツーマンで教える。性的虐待を受けた経験から男性に近づくことに抵抗がある子どものために、講師も参加者も女性のみという回もある。

講習の1日目は、ITリテラシーと基本スキルを学ぶ。FREE Wi-Fiやネットショッピングを利用するときの注意、メールの書き方、ワードの使い方など。2日目は、エクセルとパワーポイントに挑戦し、最後に自力で作った資料で「私の夢」をプレゼンテーションする。「早く結婚したい」「動物を飼ってみたい」など、将来の夢を語る子どもたち。

生きるモチベーションになる

エリさんもこの講習会を受講し、エクセルとワードが使えるようになった。いま働いているメーカーでは必須のスキルだ。「ここで学べておいてよかった」と話す。

2017年3月、講習会に参加した子どもは累計200人を超えた。児童養護施設からのニーズは高まっている。そのため、企業から寄贈してもらう不要パソコンの数が足りていない状況だ。

「親の事情によって施設で暮らしているだけで、子どもたちは何も悪くありません。トラブルを避けようと情報から遠ざけることは、生活の格差を広げることになりかねません」

「ネットを通じてさまざまな世界に触れ、視野を広げることは、子どもたちの生きるモチベーションにつながり、将来を自ら選び取る動機にもなります。すべての子どもが、正しい知識を持って、情報にアクセスできるようになってほしいと思います」

立神さんはそう言い、支援を呼びかけている。

「e2プロジェクト」への支援に関する情報はこちら


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Contact Akiko Kobayashi at akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

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