また保育園落ちた。7回の「保活」に疲れ切った母親は、失望をエネルギーに変えた

    最後の望みを託していた園は、反対運動によって開園が延期された。

    待機児童が多く、保育園に子どもを預けづらい都心部。子ども2人で計7回の「保活」を経験した女性がいる。

    認可保育園に子どもを預ける際には、自治体による選考がある。保護者の働き方や家庭の状況による「指数」で判断される。情報を集め、園を見学し、指数に「加点」するために活動することは、当事者の間で「保活」と呼ばれている。

    女性は毎年、入園できないという通知を受け取るたびに落胆してきた。最後の望みをかけていたのは、新設される予定の認可保育園だった。だがこの夏、近隣の住民の反対によって、開園が延期されることになった。

    「もう、保育園はあきらめるつもりです」

    そう肩を落とす。なぜ、7回も保活をすることになったのか。「これから保活をする人たちの役に立てば」とBuzzFeed Newsに実名で体験を語ってくれた。


    0歳児でも入れない

    Izumi Nakai

    中井いずみさんの次男は、もうすぐ4歳になる今も、認可保育園に入れていない。

    この女性は、会社員の中井いずみさん(41)。自営業の夫と、小学1年生の長男(7)、次男(3)と4人家族で、東京都武蔵野市に暮らしている。

    中井さん夫妻の「保活」は、長男が0歳のときに始まった。

    通常、育児休業明けの1歳児で入園するのは、同じ時期の復職を希望する人が多くて競争率が高いうえ、新規の受け入れ枠が少なく、難しいとされている。

    「1歳児は厳しくても、0歳児なら入れるだろう」

    初めての子育てで情報交換するママ友もいなかった中井さんは、楽観していた。そして0歳児で申し込み、「あっさり落ちた」。

    認可保育園の選考に落ちたら、認可外の施設を探すしかない。慌てて片っ端から電話をかけたが、どこもつながらない。ようやく、自宅から徒歩20分の認可外に空きを見つけ、長男を預けて職場復帰することができた。

    2カ月後、武蔵野市に引っ越すことになった。このときは運良く、認可外の保育園に空きがあり、年度途中にすんなり入園。翌年度に、自宅近くの認可保育園の1歳児クラスに転園することもできた。

    前述のように1歳児での入園は激戦だ。中井さんは、すでに認可外の保育園に預けて復職している"実績"があったため、保育が必要な状態にあると判断され、入園選考で有利になったようだ。

    長男の「保活」は3回だったが、運にも恵まれてうまくいったのだった。

    問題は、次男のときだった。

    保育園一揆が起きていた

    次男は、2013年の秋生まれ。この年の春に起きていたのが「保育園一揆」「待機児童一揆」と呼ばれた、杉並区の親たちの活動だ。

    保育園の増設を求めて区役所前で抗議し、保育園に子どもを預けられないことを不服として、集団で異議申し立てをしたのだ。Twitterなどでは「保育園ふやし隊@武蔵野」「保育所つくってネットワーク(足立区)」など各地のコミュニティがゆるやかにつながり、集団異議申し立てや陳情のノウハウを共有したり、署名活動をしたりした。

    一方、中井さんはこの時点では、ひとりの悩める母親だった。長男が通っている認可保育園では、自分と同じ時期に2人目を出産した母親が何人もいた。「上に兄姉がいる子だけで、この園の定員は埋まってしまいそうだね」と笑って話していた。

    つまり自分たちは、下の子も上の子と同じ園に預けられる、と思っていた。その根拠は、入園選考の「きょうだい優先」という項目だ。すでに認可保育園に通っている兄姉がいる場合、下の子の優先度を高くするというもので、多くの自治体が保護者の負担軽減や少子化対策のために採用している。

    保育園に預けるために預ける

    ただ、秋生まれの次男を次の4月に0歳児で預けるのは、さすがに早すぎる。生後わずか4カ月ほどだ。

    本来なら、子どもの生まれ月や仕事に復帰したいタイミングに合わせて保育園に預けるのが理想なのだが、待機児童が多い地域ではここ10年以上、年度途中に認可に入園するのは絶望的だといわれている。子どもが何月に生まれようと、チャンスは年に一度、4月入園のみ。選択肢は、0歳児で入れるか、1歳児で入れるかだけなのだ。

    中井さんは、次男を1歳児で確実に入園させたいと思った。そこで「きょうだい優先」に加え、長男のときと同様に、認可外の保育園に預けて復職しているという"実績"もつくっておけば万全だろうと考えた。

    その"実績"づくりのため、次男を翌年の5月、生後5カ月で認証保育所に預け、中井さんは復職した。結局、認可保育園に預けるために育休を切り上げることになったのだ。

    「子どもは2人までの予定でしたから、かわいくてたまらなかった。手放したくなかったですよ。でも確実に兄弟を同じ園に預けるためには、こうするしかなかった」

    そのときは、その判断が裏目に出るなんて、思いもよらなかった。

    育休切り上げが裏目に

    9月、翌年4月入園の選考について書かれた資料を手に取り、中井さんは愕然とする。

    そこには、選考方法の変更が記されていた。前年度まであった「きょうだい優先」がなくなっていた。

    さらに「認可外の保育園に預けて復職」の人を優先するはずだったのに、「育児休業中」の人を優先するという、真逆の変更がされていた。

    わざわざ育休を切り上げ、子どもと離れて、高い保育料を払ってまで預けていたことが不利になるなんて。後だしジャンケンじゃないか。

    中井さんは市に電話をして変更の理由を聞いたが、明確な回答はなかった。市には同様の問い合わせが殺到したようで、その後「認可外の保育園に預けて復職」と「育児休業中」の人との優劣はなくなったが、「きょうだい優先」は復活せず、中井さんの長男が通う園では結局、下の子が入れた人はほとんどいなかった。

    たっぷり育休を取ったうえに認可保育園に預けられた人を恨みたくもなる。でも、それはお門違いなのだ、と自分に言い聞かせた。

    「定員が足りていない状況だから、結局、誰かを入れたら誰かを落とさなければならない。市は、それを誰にするかを決めるだけ。根本的な解決にまったくなっていません」

    「保活浪人」が続く

    Izumi Nakai

    保育園に落ちるたび、「利用不可」と書かれた事務的な通知が1枚届く。

    中井さんは引き続き、次男を認証保育所に預けながら、認可の空きを待つことになった。いわば「保活浪人」だ。朝、兄弟を別々の保育園に送ると、それだけでグッタリと疲れる。認証保育所の保育料は高いうえ、きょうだい割引が適用されない。2人とも認可に預けることができた場合の保育料との差額は、年間50万円を超えた。

    「考え始めると腹が立つから、考えないようにしていました」

    次男が2歳児に進級するときも落ち、1年後の今年4月、3歳児に進級するタイミングでも、認可に預けることはかなわなかった。

    3歳児になると「乳児」から「幼児」として、生活習慣づくり、友達とのかかわり、外遊びや表現などを重視した園生活になってくる。

    次男が通っている認証保育所は、就学前まで受け入れてはくれるものの、3歳児以上のクラスに園児がいたことはほとんどない。多くは3歳児のタイミングで認可保育園に転園したり、幼稚園に入ったりするからだ。

    同じクラス16人のうち、幼稚園に入ったり隣接自治体の保育園に決まったりした子以外の6人が行き場がなく、3歳児での「残留」が決まった。1人ぼっちではないだけまだいいが、園にとってはほぼ初めての幼児の受け入れ。保護者や保育士が戸惑うのも無理はなかった。

    小規模保育所や認可外の保育施設には、2歳児までしか在籍できないところがある。そうした施設の卒園児は路頭に迷わないように認可の入園選考で加点がつく。だが中井さんの場合は、認証保育所から受け入れを拒まれたわけではないため、加点の対象にはならなかった。

    「私が悪いの? 他の人に比べて何が足りなかったの? と何度も思いました。でも、当事者同士で怒りを向け合っていても、何も解決しないんですよね。誰かが入れたら誰かが落ちる、その構造から変えなくては」

    「保活」の本当の意味

    時事通信

    2016年3月、母親たちが塩崎恭久厚生労働大臣(当時)に署名を手渡した。

    中井さんは、同じ園の残留組の保護者たちや、同じ地域で認可外に預けている2歳児の保護者たちに呼びかけ、市に緊急対策を要望した。認可保育園を増やしてほしい。緊急的に3歳児の預け先をつくってほしい。どれも切実な訴えだった。

    長男が通っていた認可保育園のママ友たちとは、#保育園に入りたい というキャンペーンを始めた。 入園不可を知らせる通知の写真をTwitterにアップしたり、政治家と意見交換したり、イベントを開いたり。「希望するみんなが保育園に入れる社会」をめざす活動だ。

    入園選考の方法が急に変わる、3歳児で行き場がなくなる、保育園に落ちたのに待機児童としてカウントされない、といった現実があることすら、なかなか知ってもらえない。声を上げ続けるしかないと思っています。保育園に落ちて泣いている母親として見られるのはもう嫌なんです」

    「保活」という言葉は、入園選考を有利に戦うために情報を集め、他の人より頭ひとつ抜けようとすることを指してきた。だがもしかしたら、中井さんたちのような活動こそ、「保活」と呼ぶのではないだろうか。

    中井さん自身は、前者のような意味の「保活」はもう、やらないかもしれないと言う。最後の望みを託していた、来年4月に新設予定の認可保育園がこの夏、近隣住民の反対により、開園延期となったのだ。

    「次男が4歳になったらさすがに、思いっきり体を動かして遊べ、小学校生活にスムーズに移行できるような環境にしてあげたい。長男はそれができたのに、次男ができないことも申し訳なくて。個人的には、もう待てません。認可保育園ではない施設も検討していくつもりです」

    10月4日にはイベント「みんな#保育園に入りたい」を衆議院第1議員会館で開く。「うちは間に合わなかったけど......」。中井さんの「保活」は、後者の意味では、まだまだ続く。


    ※文中の太字は「保活」で押さえておきたい一般的な情報ですが、自治体によっても年度によっても、入園選考の基準は異なります。お住まいの自治体のホームページからご確認ください。

    BuzzFeed Newsでは「保活」について、「仮面復職」「育休退園」などのテーマでもまとめています。

    BuzzFeed JapanNews


    Contact Akiko Kobayashi at akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

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