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#保育園に入りたい! 待機児童の問題は「官製失業」だ

「保育園落ちた日本死ね!!!」から1年後、親たちは集会をひらき、再び声を上げた。でも、いつまで「保育園に入りたい!」と叫び続けなければならないのか。

匿名ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」が話題になったのが1年前。今年も認可保育園に子どもを預けることができないで途方に暮れている親たちが多数いる。

東京都武蔵野市で活動している親たちが呼びかけた #保育園に入りたい! のハッシュタグに関連しては、約1600万のつぶやきが流れているという。

東京で保育園入れないなら地方に引越せばと言う人がいるけど、それって「日本は地震国なんだから、地震が嫌なら外国に移住したら?」と言うのと同じくらい乱暴な気がする。仕事も人間関係もすべて捨てて、保育園のために地方移住できる人って完全な強者。 #保育園落ちた2017 #保育園に入りたい

いまだに深刻な待機児童の問題。ハッシュタグから派生した親たちの会が3月7日、衆議院議員会館で集会を開いた。乳幼児を連れた親ら約150人が集まり、超党派の国会議員も参加した。

なぜ、ここまで保育園に子どもを預けづらいのか

安倍首相は2月17日の衆議院予算委員会で、「受け皿を増やすと同時にニーズが増えた」と釈明し、政府が掲げる2017年末の待機児童ゼロの目標達成は困難だという見通しを示した

毎年のように繰り返される「いたちごっこ論」に、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんは「生まれてくる子どもの数、働きたい人の割合はわかっているはず。しかも、待機児童数という曖昧な数値をもとに整備を進めている甘さがある」と指摘する。

待機児童の数え方は、保育園に預けられず育児休業を延長した人を含める場合と含めない場合があるなど、自治体ごとに定義が異なっている。

駒崎さんは、国や自治体は保育を提供する義務を果たしていないとし、「待機児童問題は『官製失業』だ」と述べた。

預けるのは「かわいそう」ではない

国内外の保育園を視察し、保育政策について研究している日本総研調査部主任研究員の池本美香さんは「海外ではそもそも、待機児童という発想がない」と話す。

日本では、保育園は児童福祉法のもと設置され「保育に欠ける」子どもを預かる場所とされていた(2015年の法改正により「保育を必要とする」と変更)ため、いまだに「かわいそうな子が行く場所」というイメージを持つ人がいる。一方、スウェーデンやニュージーランドなどでは、保育園は乳幼児のための教育機関だと位置付けられている。

「スウェーデンでは、親が働くためにやむをえず子どもを預けるのではなく、むしろ預けたくて働くというくらい、保育園は魅力的な場所。子育てのストレスを軽減することで虐待を予防でき、親が働けることで貧困対策としても重要な役割を果たします」

分断せず、社会全体の問題に

社会保障費のうち子育て関連予算の割合が低いことは根本的な問題で、会では子育て予算の追加を求める署名活動もしている。

加えて駒崎さんは、待機児童が個人にとっては一過性の問題であることも指摘した。

「いったん認可保育園に入れたら、次は学童保育に預けることができるかどうかに関心が向く。子育ての問題は短いスパンで移り変わっていくので、腰を据えた社会運動になりづらい」

働いている親と、家庭で子育てを担っている親との分断につながりやすいのも、社会全体で解決が進まない要因だ。

当事者には何ができるのか

「保育園増やし隊@武蔵野」では毎年、保育園に子どもを預けられなかった親たちが市に異議申し立てをしている。それが恒例行事になっている現実に「当事者として何ができるのか」と、3度の保活を経験した会社経営の天野妙さん。

「8年前、保育園に子どもを預けられなかったとき、自分が悪いと思い、怒りすら芽生えなかった。昨年の匿名ブログ『保育園落ちた日本死ね!!!』を見て、怒っていいんだ、という気持ちになりました」

声を上げるしかないのか。 #保育園に入りたい では、不承諾通知の写真をTwitterにアップするなど、困っている親の声を可視化している。

声をあげることで問題を広げる

駒崎さんは「保育園に子どもを預けられず会社を辞めざるをえなくなったら、雇用主にとってもダメージ。コストをかけて育成してきた人材を失うことになる。これは経済界も巻き込むべき問題で、地域社会の問題でもあります」と語った。

池本さんも「保育と経済は別の問題ではなく、両方の利害は一致するはず」。そのうえで、「女性の働く権利を主張するだけでは、当事者以外にはなかなか問題意識が広がらない。子どものための運動だと意識を変えて、保育の質についての議論にしていきたい」と話した。

参加者によるグループ討議では、単に「保育園を増やしてほしい」という要望だけではなく、このようなアイデアも出た。

「親が残業のために夕食サービスを重宝するなど、長時間労働の問題を保育園に押し付けていた部分もあった。現状は就労時間が長い人のほうが入園選考で優先されるが、残業しない人が優先的に入れるようにすれば、働き方も変わるのではないか」

参加者はSNSでつながり、半年後に改めて集会の開催などを考えているという。

待機児童という言葉が死語になる日は来るのだろうか。

【修正】

児童福祉法の記述に(2015年の法改正により「保育を必要とする」と変更)を追記しました。