Updated on 2020年7月30日. Posted on 2020年7月22日

    虐待の連鎖を止めるために大切なひとつのこと。「ほどよい育児」のすすめ

    3歳の女の子を放置して死亡させた母親は、虐待された経験があったという。国会議員らによる勉強会で、虐待を防ぐための取り組みが話し合われた。

    東京都大田区のマンションで6月、3歳の女の子が飢えと脱水で衰弱し、死亡した事件。娘を自宅に放置したまま8日間にわたって外出し、死亡させたとして保護責任者遺棄致死の疑いで母親が逮捕された。

    この事件では、逮捕された母親自身も17年前、母親らから暴力を振るわれるなどの虐待を受け、高校卒業まで児童養護施設で暮らしていたと報じられている。

    また、札幌市で2019年6月、2歳の女の子が衰弱死した事件でも、母親が15歳のときに児童相談所での相談・支援を経験していたことが、検証報告書で明らかになっている。

    「親に正義を振りかざす支援は逆効果」

    時事通信

    札幌市で2019年6月、女の子が衰弱死したマンション前で、手を合わせる子ども連れの女性

    不適切な養育環境にあった「被害者」が、親となり「加害者」になるーーいわゆる「虐待の連鎖」を断ち切るためにどうすればいいのか。

    保健師でもある武蔵野大学看護学部の中板育美教授(地域看護学)は、「親に正義を振りかざす支援は、むしろ逆効果です」と話す。

    7月22日にあった自民党の「児童の養護と未来を考える議員連盟」と超党派の「児童虐待から子どもを守る議員の会」の合同勉強会で、中板さんが報告した内容をまとめた。

    虐待された経験、若年妊娠、パートナーからのDV

    複数の報道によると、大田区の24歳の母親は約3年前に離婚し、居酒屋で働きながらひとりで娘を育てていた。以前から娘を自宅に置いて仕事に出かけたり、友人と飲食したりすることもあり、5月には娘を残したまま3日間、鹿児島に滞在していたという。

    東京新聞などによると、この母親は小学生のとき、実母と養父から身体的虐待や育児放棄を受けて保護され、18歳まで宮崎県内の児童養護施設で暮らしていた。

    一方、札幌市の事件は、当時21歳の母親と交際相手が、2歳の女の子に暴行を加えたり、十分な食事を与えず放置したりして死亡させたとして起訴されている。

    2020年3月に公表された検証報告書によると、この母親は15歳のときに児童相談所での相談・支援を受けた経験があり、17歳のときに妊娠したが、パートナーのDVにより中絶を経験していた。

    中板さんは報道などをもとに、2つの事件で逮捕された母親の共通点として、自身が虐待を受けていたこと、若年での妊娠出産であること、パートナーからDVを受けていたことをあげ、このような対策が必要だと話す。

    1.「世代間連鎖」を断つための支援策の強化

    2. 虐待された経験のある未成年が妊娠したときに支える仕組み

    3. このような母親の支援の入り口となる母子保健の強化

    「海外の先行研究などによると、虐待事案のうち、世代間の連鎖が約3割と言われています。7割は連鎖ではないため、連鎖の遮断だけが虐待防止になるわけではありませんが、深刻化しないための対策は必要です」

    Ydl / Getty Images

    妊娠したときの切れ目ない支援が求められている(写真はイメージ)

    子どものころに虐待を受けた経験は、自身の子育てにどのような影響を及ぼすのだろうか。

    「子どもの頃に欲求が満たされず親に甘えられないまま親になると、子どもの甘えや欲求を受け入れることが難しくなります。『私は甘えられなかったのになぜこの子は求めてくるのか』『痛い目に遭わないとわからないからしつけるのだ』と、自分がされたことを振り返って身体的暴力や言葉の暴力を肯定してしまいます」

    「『お前の育て方が悪い』と非難されないよう自己防衛しがちになったり、『言うことを聞かないのは子どもが悪いからだ』と攻撃しやすくなったり、大人と子どもの境界を保てず、自分の欲求が優位になったりする傾向もあります」

    こうした関係の結び方を変えるためには、「まったく別の関係の結び方を知ることが大切」とし、虐待を受けた経験がある人が社会から孤立しないように、個別的・持続的なサポートが必要だと話した。

    18歳で途切れる支援

    ところが、児童養護施設や里親など「社会的養護」と呼ばれる公的支援のもとで育った子どもたちは、基本的には18歳になると施設や里親家庭を離れて、自立することが求められる。

    「施設を出た後に若くして妊娠・出産したとしても、過去に受けた虐待経験と結びつけて支援することが難しい仕組みになっています。もっとも支援が必要な複雑で多重な課題を背負った人たちをサポートするための制度設計が必要です」

    中板さんは、母親がそれまで過ごしてきた児童養護施設などを"ホーム基地"として、そこから母子保健や精神保健などさまざまな支援につながるような仕組みを提案する。

    不完全さを受け入れて成長する

    また中板さんは、いまの母子保健や子育て支援のメッセージが「良い子育て」を推奨しがちであることにも警鐘を鳴らし、「ほどよい育児」を支援方針にするべきだという。

    「誰もが赤ちゃんの要求に完璧に応えられるわけではありません。親は時に見当違いのことをしたり、対応が遅れたり、応じられなかったりすることもあります。赤ちゃんは仕方なく欲求不満を体験し、万能感を手放していくのです」

    「この不完全さこそが、赤ちゃんが外の世界に気づき、親が『自分は"ほどよい親"にしかなれないのだ』という現実を受け入れるために必要です。赤ちゃんと親の双方の成長にとって欠かせない過程だと考えることができます」

    虐待は、親を孤立に追い込む社会の問題

    これまで起きた児童虐待やネグレクトの事件でも、最初から虐待していたり、子育てをあきらめたりしていた親ばかりではなかった。

    ルポライターの杉山春さんの『ルポ 虐待:大阪二児置き去り死事件』によると、2010年に大阪市で3歳と1歳の姉弟を放置して死亡させた23歳の母親は、布おむつ、母乳の育児を徹底し、地域のママサークルの中心メンバーだったこともあったという。

    中板さんは「正しい育児を強要し、正しい育児を教育することはむしろ逆効果です」と話す。

    「親に正義を振りかざす支援は、虐待する親を責め、より孤立化させてしまいます。"ほどよい育児"や"ほどよい親"を積極的に目指していく支援への転換が求められています」

    「『虐待する親の問題である』という考え方ではなく、『養育能力を持ち得なかった親と子どもを孤立に追い込む社会の問題である』という考え方に変えていく必要があります」

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