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女性の格好で働きなさいと言われたけど......GAP店長が薦める、あなたらしいスタイルの話

「あなたがノーメイク、ノーネイル、ノーまつげで、同じ仕事をすることを考えてみてください」

アパレルブランド「GAP」や「BANANA REPUBLIC」でおなじみのギャップは、差別、ハラスメントまたは報復のいずれも一切容認しない「zero means zero」というビジネス行動規範を掲げている。

日本では2014年から東京レインボープライドにも協賛。LGBTを含む社員の個性や多様性を尊重する取り組みを、どのように進めてきたのか。スティーブン・セア社長が参加したメディアブリーフィングで、一人の店長が自身のセクシュアリティをカミングアウトした。

北海道旭川市のイオンモール旭川西店のストアマネジャー、倉田靖子さんの話を、全文掲載する。


ある日、女性の格好をして働きなさいと言われたら

私は、性的指向、つまり好きになる相手は女性で、身体的には女性ですが、性自認はFtXです。今まさにメディアの前でお話ししてはいますが、大々的にカミングアウトはしていませんでした。詳しくお話するのは、今日が初めてかもしれません。

GAPはカジュアルアパレルということで、入社した当時は、女性がメンズの服を着て接客しても、子ども服を着てもいいことになっていました。この会社なら私も働ける、と思いました。

しかし、日本のトレンドや販促アイテムの変化に伴い、女性は女性らしい格好をして、メイクもして接客しましょう、という流れになってきました。私の中では、それはちょっと苦しいことだったんですね。

女性の方は想像していただきたいんですけど、今と同じ仕事を、ノーメイク、ノーネイル、ノーまつげでやるのってどうでしょうか? まったく同じ仕事ですよ。結構、衝撃が走りますよね。では男性の方は逆に、目の前に女性と同じような格好をして働いてください、と言われるとどうでしょうか? 私にとってもそれくらい、違和感のあることだったんですね。

上司に服を選んでもらうつらさ

私の上司は男性であることが多く、「ウィメンズを着たら」と薦められても、うまくかわしてきました。ところがある時、女性が上司になったんです。その上司はすごく熱心に私のことを気にかけてくれて、「こういうファッションが似合うんじゃない?」と一生懸命、考えてくれたんです。

ついに、上司と一緒にウィメンズの服を選ぶことになりました。フィッティングルームまでついてきてくれて、「これはどう?あれはどう?」とまるで新人の子に提案するように、私のために服を選んでくれたんです。

新人ならまだしも、店長にもなっているのに上司に服を選んでもらうのはとても苦しかったし、自分が情けなくなりました。信頼している上司に、本当のことが言えない。ここまで我慢しなければ仕事を続けられないのか、とつらくなり、初めてセクシュアリティを理由に、会社を辞めようかと悩みました。

「あなたの普通が私の普通ではない」

【#RainbowGap】今年は、LGBTIコミュニティ支援の活動の一環として“WE ARE ONE”とレインボーでデザインされたプライドTシャツを、全国Gapストアで4/24(火)から発売! また、今年も東京レインボープライドにブース出展、パレードに参加します。詳しくはこちら https://t.co/dqRREyt7uY #WearYourPride

その後、地区を異動して上司が代わったあとに、改めてその女性上司に会いに行きました。いつまでも嘘をついていても苦しいだけだから、話そうと心に決めたんです。

「あの時、実はどうしても、ウィメンズを着られない事情があったんです。私はレズビアンで、性自認も女性ではありません。あなたの普通が私にとっては普通ではないのです。私のことを思ってサポートしてくれたのに本当に申し訳ありませんでした」

それが、初めて上司にカミングアウトをした経験でした。すごく勇気がいりました。

今のようにアライのトレーニングもありませんから、その上司が私のことを受け入れてくれるかどうかまったくわかりませんでした。しかし、上司の態度はまったく変わらず、いつも通りでした。

上司に打ち明けたことによってどれだけ自分の気持ちが楽になったかは、話してから初めて気づきました。

何かあったら相談できる人がいる。たとえ直属ではなくても、サポートしてくれる上司がいる。そのことで気持ちが軽くなり、自分に自信が持てるようになり、仕事のパフォーマンスも上がりました。

それから10年以上経ちますが、今でもその上司は私のことを叱咤激励してくれる、とても良い理解者です。

9人のうち4人がLGBT当事者

一方で、そもそも他人のセクシュアリティにそんなに興味あるだろうか、という疑問もあったので、大々的にカミングアウトするのではなく、聞かれたら答える程度にしていました。

ギャップジャパンは、各地のプライドパレードやOUT IN JAPANに協賛・参加しており、私もスタッフとして参加していたので、「なんでこの人はいつもこの場にいるんだろう」と不思議に思うスタッフもいたかもしれません。

自分の考え方が変わる出来事は、もう一つありました。

2005年8月にアメリカを襲ったハリケーン・カトリーナの被災地をサポートするプログラムに参加したときのことです。日本からは私ともう一人、グローバルでは30人ほどのスタッフが参加し、3つのグループに分かれて支援活動をしていました。

すると、私がいた9人のグループのうち4人がLGBT当事者だったのです。

私は英語をうまく話せなかったので、翻訳アプリやジェスチャーで会話をしていたのですが、「結婚式を挙げたんだ」と彼女の写真を見せてもらったり、堂々とセクシュアリティについて語る人がいたり。言葉は通じなくても分かりあえたというのは、私の人生における画期的な経験でした。

半数がLGBT当事者だという状況で、「マイノリティってなんだろう」ということも考えました。

助けてあげられることがある

メディアの前で話すのに先立って、地区ミーティングで社内グループGEAR(GAY EMPLOYEES, ALLIES AND RESOURCES)の話をする機会があったので、せっかくだから、と話してみました。

すごく驚いたという人もいれば、なんとなくわかっていた、という人もいて、反応はさまざまでした。その後、拍子抜けするくらい何も変わらない。全然そのままなんです。それがうちの会社のいいところだなと思います。

カミングアウトって個人の考え方がすごくあると思うので、カミングアウトすることが正しいとは決して思っていません。ただ、カミングアウトをしてくれることで助けてあげられることもある、というのは自分が実際に経験してわかったことです。

今回、私が声をあげることで、社内で誰かに相談したいけれどまだできていないという人に届くといいなと思ったりしています。

若い世代の悩みも同じ

Gapフラッグシップ原宿店のロゴがレインボーカラーに!また、今週末は、代々木公園で開催の東京レインボープライド2018でもブースを出展。ぜひお立ち寄りください!https://t.co/dqRREyt7uY

私が初めて新宿2丁目に行って、初めて同じセクシュアリティの友達を作ったのが20年前でした。LGBTに関するいろいろなイベントに参加してわかったのが、20年前も今も、若い世代の悩みって全然変わらないんですね。

大事な人に本当のことを言えない。嘘をつきながら生きていかなければいけない。就職に関する制限がある。自分らしく働くということがなかなか難しい。

そういう悩みを抱えている人たちのサポートが少しでもできれば。私は当事者でもあるけれど、その人たちのアライにもなれます。職場の多様性についてもっと理解が広がればと思い、お話させていただきました。

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