ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)。外資系企業のCEOのインタビューや、企業サイトのCSR、採用ページでよく目にするフレーズです。
耳障りはいいけれど、その"横文字感"から理想やタテマエのようなイメージも。実際なにするの? それってカネになるの? ビジネスの現場ではそんな突っ込みが入ることもあるでしょう。
そこで「今日から役立つD&I」について、5分で読めるようにまとめました。監修は、外資系企業でダイバーシティ推進を担当してきた経験をもとに独立し、ダイバーシティを活かした人事施策、ビジネス、ブランディングを国内外でアドバイスしている「Ikigai Authentic」代表の蓮見勇太さんです。
(※この記事は、BuzzFeed Japanが2019年6月に実施したD&Iに関する全社員研修から構成しました)
1)ダイバーシティって何?
ひとことで「ダイバーシティ」と言っても、さまざまな要素があります。
よく言われているのは、年齢、性別、人種、国籍、外見など。
より目には見えにくいところでは、身体的能力、コミュニケーションの取り方、性的指向、性自認、好き嫌いなど。
出身地、教育、家族構成、宗教、趣味、習慣などもあります。他人とどのくらいの距離感なら心地よいのかというパーソナルスペースの感覚も、人によって違うでしょう。
ビジネスやキャリアに関しては、出身業界、職位、在職年数などがあります。
深層的なところでは、性格、考え方、発想、意思決定の仕方、柔軟なのか規律を重視するタイプなのかといったところも違うでしょう。
ダイバーシティをあえて定義すると、こうなります。
「そこに存在する多様な違い。なおかつ、それが見えている状態」
つまり、ダイバーシティは「現実」なんです。さまざまな人たちがすでにそこにいる、ということです。
2)成果につながるの?
(写真はイメージです)
ダイバーシティは、仕事の現場では、「デモグラフィ型」と「タスク型」にも分類できます。「多様性」と「多才性」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。
年齢や性別、国籍など属性の違いがあるのは「デモグラフィ型(多様性)」、個人の能力や経験や才能が多様な状態は「タスク型(多才性)」となります。
女性活躍推進が浸透してからは、女性管理職の数を増やすだけでいいのか、といった議論の延長線で、「デモグラフィ型」より「タスク型」が重視される傾向があります。能力、スキル、知識が異なる人たちが集まることによって、コミュニケーションが変わり、組織の変化につながることが期待されています。
成果につながるダイバーシティには2パターンあります。1つは、点数化や目標数値の比較をして、上下のランキングがつくもの。もう1つは「比較をしない違い」です。才能やアイデア、発想力、得意分野など、横並びで、それぞれの比較基準がないものです。
企業にとっては、この人のアイデアのほうが優れている、と上下をつけることよりも、それぞれの人からさまざまなアイデアが出てくることのほうが強みになります。営業のスタイル、記事の書き方、クリエイティブの多様性など、その人しかできないビジネスができるということが重要です。
3)息苦しいのはなぜ?
幅広い年代の社員がいて、いろいろな経験をもつ人材が活躍していて、職場にダイバーシティはある。それなのに、社内で配慮のない発言があったり、ハラスメントがあったり、意図せずして広告や記事が炎上したり......そういったことは、なぜ起こるのでしょうか。
それは、インクルージョンができていないからです。
ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)がセットで語られるのはそのためです。
もともとダイバーシティ、つまり自分と違うことは、決して心地がいいものではないのです。
違った意見や違ったコミュニケーションスタイルを持つ人よりも、自分と同じような人と働いたほうが「あうんの呼吸」で意思統一がしやすいのでラクなのです。
多様な人たちが一緒に気持ちよく働いてパフォーマンスを出す組織にするためには、意識的にインクルージョンを目指す必要があります。
4)インクルージョンって何?
インクルージョンを定義すると、こうなります。
「ひとりひとりの違いを受け入れ、尊重し、価値を見出し、企業の競争優位として活かしている状態」
ダイバーシティが「現実」であるのに対し、インクルージョンは「行動」です。
ダイバーシティがあるだけではダメで、インクルージョンのアクションをしていくことが求められています。
(イラストはイメージです)
ここで、疑問が生まれますよね。
何でもかんでも「個性」「多様性」だからって認めていいの?と。
アメリカで、ビジネスにおけるD&Iが始まったのは1990年代前半です。女性管理職比率を上げたり、人種による役員比率の差をなくしたりするため、女性の理系進学を支援するなどの対策をしていました。
ところが2014年をピークに、その後バックラッシュ(揺り戻し)がきました。
「今まで良かったはずのコミュニケーションがダメになった」「組織内で多様性をすべて認めてしまうと、どんなビジョンを共有すればいいの?」
インクルージョンの必要性を腹落ちしていない人が多かったために、「ダイバーシティポリコレ疲れ」の状態になり、コミットメントが減っていきました。
インクルージョンで大事なことは、ひとりひとりが最大限のパフォーマンスを出せるようにするために、違いを受け入れるということです。それによって自分自身もありのままに働きやすくなります。
部署の中で自分だけ残業ができないとか、性的指向について嘘をついて働かなければならないとか、自分がありのままで働くことができないと感じている人はパフォーマンスが下がると言われています。「100%の力を出せるのは、100%存在を許されていると感じている人だけ」(リクルートワークス研究所)なのです。
誰でも何かしらのマイノリティであること、また予期せずこれからなりえることを忘れてはなりません。
組織にいる以上は、何でも「多様性」で免責されるわけではありません。以下を参考にしてほしいと思います。
・個人の違いや自由の境界線は、他の人の違いや自由を侵害しない範囲まで。その人らしさによって他人が働きづらくなったり居心地が悪くなったりしたら、それは境界線を越えている。
・社会のシステムや会社の制度のほとんどは、マジョリティが生きやすいようにできていることは、認識しないといけない。
・その中でも同じ組織で共有しなければいけないものは、経営理念やミッション、行動規範
5)取り組まないとどうなるの?
企業がD&Iに取り組まないことによるリスクとしては、離職などで人材が流出してしまったり、ハラスメントが発生したり、意図せずに広告や記事が炎上してしまったり、といったことがあります。
ジェンダーバイアス(性的偏見)や外見の描き方をめぐって広告が炎上するケースは、さまざまな企業で起きています。女性だけが家事をしていたり、黒人差別の歴史を理解していないように感じられる表現だったり。
イギリスの広告基準協議会では、「性別にもとづく有害なステレオタイプを使った広告」を禁止しました。
こうした広告がでるのは、「デモグラフィ型」のダイバーシティが不十分で属性に偏りがあることが背景にあるとして、特にメディア業界で、女性管理職を増やすと税金が一部免除される制度ができたりもしています。
例えば「he / she」など性別を特定する言い方をやめたり、「LGBTならではの視点」「女性らしい発想」「男性が家事を手伝う」といった特定しすぎる言い方を避けたりと、表現を工夫する動きも始まっています。
このように、D&Iを進めることを経営戦略として位置付けている企業が、最近は少なくありません。
組織で進めていくときには、これは女性だけのため、LGBTだけのため、ということではなく、みんなのためにとなるという視点のもと、明確で一貫したメッセージを伝えていくことが必要です。
D&I経営を進めるための「3つのC」
Clear(明確性)=組織の意図するD&Iが言語化、定義され、それに対する組織の姿勢が明確である。Consistent(一貫性)=組織やその経営者から社内および社外へのメッセージや声明が定期的に発信され、一貫している。
Collaborative(共感性)=ある一定の属性のみが利益を享受したり、または中傷されたりせず、他の属性からも支援や共感が得られる内容である。
D&Iには、正解、不正解、上下構造がはっきりとあるわけではありません。ひとりひとりが違いを尊重し、価値を見出し、生かすということに意識することで、より働きやすい環境が生まれ、それぞれがパフォーマンスを最大限に発揮でき、企業の競争優位や差別化につながるのです。
特にメディアや企業の情報発信は、社会に対して影響力があり、世の中を動かしうるパワーがあります。それはポジティブにもネガティブにもなりえます。
企業がD&Iを進めることで、そのパワーを、世の中やより多様な人々の生活をポジティブに変えるために使い続けることができるはずです。
Akiko Kobayashiに連絡する メールアドレス:akiko.kobayashi@buzzfeed.com.
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