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広河隆一氏の性暴力は「肩書を濫用し悪質」デイズ検証委員会が報告書

「肩書きを濫用し、女性たちから自身への尊敬の念に乗じ、権力性を背景に重ねた、悪質な代償型セクシュアルハラスメントであると判断する」

フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」の発行人だったフォトジャーナリストの広河隆一氏の性暴力やハラスメントなどについて、デイズジャパン社は12月27日、サイト上で113ページの「報告書」の全文を公表した。

外部有識者で構成する「デイズジャパン検証委員会」が12月26日、報告書を同社に提出していた。


検証委員会は、元社員やアルバイト、フリーランス編集スタッフら計45人からヒアリングを実施。また広河氏本人にはのべ11回のヒアリングをしたという。

その結果、性交の強要やセクシュアルハラスメントについて、このように結論づけた。

「広河氏が行ったことは著名なフォトジャーナリストとしての肩書きを濫用し、女性たちから自身への尊敬の念に乗じ、権力性を背景に重ねた、悪質な代償型セクシュアルハラスメントであると判断する」

何があったのか

広河氏は2004年3月に「DAYS JAPAN」を創刊。フォトジャーナリストを目指してDAYS編集部などに出入りしていた女性に、立場を利用して性的関係を迫っていたと2018年12月、週刊文春などが報じた。長時間労働や残業代の未払い、罵声を浴びせるなどパワーハラスメントの証言も相次いだ。

広河氏は週刊文春の取材に、女性たちと性的関係をもったことは認めていた。雑誌『創』の2019年4月号に寄せた手記では、女性の同意があったと捉えていたと語っていた。

一方BuzzFeed Newsが、当時DAYS編集部に出入りしていた人たちに取材したところ、広河氏とスタッフとの間には圧倒的な上下関係があったという。

性暴力の被害に遭ってから10年以上、誰にも言えなかったという女性は、取材にこのように語った。

「広河さんのことを"神様"のような存在だと感じていました。見捨てられたらこの業界で生きていけないという危機感がありました」

また、大学生のときに性暴力被害に遭った別の女性は、こう話した。

「なぜ逃げ出したり声をあげたりしなかったのか、と言われるかもしれませんが、当時は広河さんを心から尊敬していたので、功績をつぶすようなことをしてはいけないと考えていました」

元スタッフの有志は2019年3月、当事者の目線で証言を集め、元スタッフの連帯を呼びかけるため、サイトを開設した。

どんな調査がされたのか

デイズジャパン社は2019年2月、弁護士ら外部有識者による「デイズジャパン検証委員会」(金子雅臣委員長)を構成。

3月20日発売の最終号を「検証報告特集」として、性暴力に関する二部構成の特集にした。

第一部は「広河隆一 性暴力報道を受けて 検証委員会報告」とし、広河氏本人に聞き取りをした。

第二部は、メディアで働く女性ネットワーク代表世話人の林美子さん責任編集のもと「DAYS JAPANとは完全に独立した編集体制」で制作。性暴力やハラスメントが起こる構造や性的同意についてジャーナリストらのインタビューを掲載した。

この検証報告について、検証委員会は「あくまで中間的なものであり、今後も最終報告に向けた調査を続けます」とし、情報提供窓口を公開して調査を続けていた。

検証委員会は報告書で、デイズジャパン社が当初、会社の代理人としてハラスメント調査を依頼した弁護士を解任したことや、同社からの情報提供の不足、広河氏が調査に協力的ではなかったことから、事情聴取などの作業が遅れた、としている。

何を結論づけたのか

検証報告書によると、検証委員会が把握した性暴力やセクシュアルハラスメントの被害は、2004年から2017年にかけて17件。

性交の強要3件、性的身体接触2件、裸の写真の撮影4件、言葉によるセクシュアルハラスメント7件、環境型セクシュアルハラスメント1件ーーとなっている。

被害を訴えた人と広河氏の双方からヒアリングしたうえで、このように結論づけた。

「広河氏が行ったことは著名なフォトジャーナリストとしての肩書きを濫用し、女性たちから自身への尊敬の念に乗じ、権力性を背景に重ねた、悪質な代償型セクシュアルハラスメントであると判断する」

「広河氏は、被害者らが自身に向ける敬意につけこみ、またその敬意を自分への性的関心であると勝手に読み替えて性暴力に及んだものといえ、強い非難に値する」

また、パワーハラスメントについては、相当数の関係者が「ほぼ全員が日常的に被害者だった」と述べたとし、時間外手当や休日出勤手当の不払いなど、労働基準法違反が恒常的だったとした。

「その具体性、迫真性、証言の数の多さ、他の社員らとの証言の整合性などからすれば、広河氏が日常的に社員らに対してパワーハラスメントに及んでいたことは明白である」

広河氏の態度について「立場に伴う権力性に鈍感で、矮小的にしか理解していなかったことは相手への優越性を都合よく理解する態度につながった」と指摘している。

広河氏の主張は

広河氏は検証委員会に対しても、「合意があったはず」「暴力的な強要はなかったはず」との主張を繰り返しているという。

「検証作業中、広河氏はさまざまな迷いを見せたが、最後まで謝罪については逡巡を続け、最終的には『謝罪はしない』という選択をしたようである」

「検証委員会としては、広河氏が自分の加害性を正面から直視し、これについての責任を果たす態度を世に表すことが、広河氏が公にできる、事実上最後の社会的意義がある仕事となるのではないかと何度となく広河氏に問いかけてきた」

「しかし残念なことに、広河氏が現時点で到達しているのはこのような認識に留まることを報告せざるを得ない」

デイズジャパンの対応は

デイズジャパン社は検証報告書について、サイト上でこのようにコメントしている。

当社は、検証報告書にあるとおり「加害者としての自制と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事」であると考えます。


当社としては、広河氏に対し、「まずは自分が行ったことを直視し、独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え、これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」との勧告を遵守するよう求めます。

また、被害に遭った人への相談窓口を設置するとしている。

被害者への賠償は

検証報告書は「ハラスメントの責任履行の勧告」にも踏み込んでおり、広河氏に対して「加害行為を認め、謝罪し、慰謝の措置を講じるべきである」としている。

デイズジャパン社にも損害賠償の責任があるとして、会社清算において措置を講じるよう検討すべきとしている。

また「これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」として、広河氏に対して「合意があった」と今後、公の場で主張することを控えるべきだと強調している。