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暴力をふるわない性暴力があると知っていましたか。広河氏の報道から考える

メディア業界にはびこる性暴力に、ジャーナリストはどう向き合うのか

著名フォトジャーナリストによる性暴力に関する報道を受け、シンポジウム「広河隆一氏の性暴力から考える」(主催:早稲田大学ジャーナリズム研究所)が3月24日、早稲田大学であった。ジャーナリストら約160人が参加した。

週刊文春報道のその後

この日は、広河氏の性暴力について週刊文春で最初に報じたライターの田村栄治さんが登壇。田村さんは2017年秋の#MeTooの流れを受け、過去に聞いた広河氏の噂を端緒に取材を始めた、と記事化の経緯を説明した。

筆者も登壇し、BuzzFeed Japanで2017年10月に始めた#metooのキャンペーン報道についてや、ハラスメントが起きても明らかになりづらいメディア業界の実態について説明した。

「検証」と言えるのか

広河氏が長らく編集長を務めたフォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」は休刊を発表している。シンポジウムでは、3月20日発売の最終号に掲載された広河氏の性暴力に関する検証についても言及があった。

最終号は二部構成で、第一部は「広河隆一 性暴力報道を受けて 検証委員会報告」とし、広河氏本人に聞き取りをしている。第二部は、メディアで働く女性ネットワーク代表世話人の林美子さん責任編集において、性暴力やハラスメントが起こる構造や性的同意について、識者やジャーナリストらのインタビューを掲載している。

メディアにおけるセクハラを考える会」の代表で大阪国際大学准教授の谷口真由美さん(国際人権法、ジェンダー法)は、複数の被害者から相談を受けていたが、DAYS最終号の第二部でのインタビューや寄稿の依頼を断ったことを明かした。

谷口さんは、第一部に掲載された広河氏の面談調査報告がひとり語りの形式で掲載されていることについて、「時間がない中で引き受けた検証委員会の委員を糾弾するつもりは全くありませんが、検証や考察ではなく『ヒアリング報告書』に過ぎない」と指摘。

「自分は権力者だとは思っていなかった、今になって勉強しています、などと広河氏の言い訳を述べているだけで、セカンドレイプのようで読んでいて苦しくなります」

雑誌「創」では4月号に続いて5月号でも広河氏の手記が掲載されることが予告されており、加害者の主張をメディアがどのように取り上げるかもシンポジウムの一つの論点となった。

千葉大学大学院専門法務研究科長の後藤弘子さん(刑事政策)は「広河氏のような権威ある人でさえ加害者はこう考えるのだという資料として、一般のセクハラ裁判などで参考にされることも考えられる」とリスクがあることを指摘した。

性暴力を生み出す構造

後藤さんは「性暴力については法律の仕組みによって被害者が守られていない点がある」とも指摘。2017年に性犯罪の厳罰化を図るために110年ぶりに刑法が改正されたが、改正後の強制性交等罪の条文には「暴行または脅迫を用いて」の文言が残った。

つまり、抵抗の有無によって合意があったかどうかが判断される。被害者が恐怖で抵抗できない場合、または立場や権力関係によって従わざるを得ない場合もあり、被害が見えづらい状況が続いていると指摘されている。

「広河さんは『私は女性に暴力を振るっていない』と言っていましたが、合意がなければ性暴力なんです。合意がすべてであるとということを、一人ひとりが認識する必要があります。また、法的な責任を問えない場合でも、責任の取り方については、広河さん本人や周りの人たちが考えていかなければなりません」(後藤さん)

会場からは、ジャーナリストの津田大介さんらが発言。津田さんは、過去に雑誌編集長から「女性の編集者は優秀だが、年齢を重ねるとパフォーマンスの波があるので採用しない」と聞いたことを例に、「メディア業界のジェンダーバランスを平等にしていくことで、性暴力が起きづらい構造をつくることが大事」と語った。


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