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究極の契約結婚のすべてを伝えます。「姓が違っても、れっきとした家族です」

事実婚の2人は、家族だと証明するために公正証書をつくった。

愛し合う2人がつくった契約公正証書には「損害賠償金」という項目がある。

これから家族になろうというときに、「不貞行為」や「契約解除(離婚)」があった場合には、定められた損害賠償金を支払う、と決めた。

「胎児の遺伝子検査に協力する義務を負う」「他方の親族と、社会通念上相当な程度の交際に努めなければならない」といった、結婚の祝福ムードとは真逆の、現実的な取り決めもある。

なぜ、こんな契約を交わしたのか。BuzzFeed Newsは、この公正証書を作成した夫妻に話を聞いた。

「僕も姓を変えたくないし、彼女にも変えてほしくない」

2人は、フリーで編集者をしている江口晋太朗さん(34)と、団体職員の高木萌子さん(34)。

2017年秋から交際をはじめた2人。高木さんの妊娠がわかり、事実婚を望んだのは、江口さんだった。

「もともとジェンダーの課題に関心があり、法律婚の制度には、男女の不平等性があると思っていました。姓はその象徴的なものです。僕も姓を変えたくないし、彼女にも姓を変えてほしくないと思いました」(江口さん)

いま日本では、結婚して夫婦がそれぞれの姓を名乗り続けるためには、事実婚という選択肢しかない。婚姻の届出をせず、法律上の夫婦にはならないスタイルだ。

権利も義務もない

しかし事実婚は、法律婚であれば当然のように発生するパートナーや家族に対しての「権利」がない。例えば子どもの親権、法定相続、配偶者控除などだ。

同時に「義務」もない。どちらかが浮気をしたり関係を解消しようとしたりしても、相手を拘束する手段はない。

「2人だけの関係であればシンプルに事実婚でよかったのですが、僕たちには子どもが生まれてくる。事実婚だと不利益があるかもしれないのが不安でした。妻の両親の理解を得るためにも、そこにしっかり責任を持ちたいと思い、まず行政書士の先生に相談に行ったんです」(江口さん)

事実婚であっても、住民票で世帯を同じにすることで、夫婦として健康保険の被扶養者や遺族年金の受取人などにはなれる。母子手帳の発行や認可保育園の入園申請も夫婦としてできる。

最近は、同性カップルを対象にしたパートナーシップ制度の導入などもあり、事実婚のカップルが不利益にならないような対応が浸透してきた。賃貸住宅の契約や手術の同意、また会社の結婚祝金など、夫婦に相当するとみなして取り扱うケースが増えつつある。

面倒だから法律婚に

2人が相談した行政書士の水口尚亮さんは、自身も事実婚で、夫婦別姓.comというサイトを運営している。「事実婚のカップルは珍しくはなくなっていますが、公正証書までつくるケースはそれほど多くはありません」と話す。

「住民票を同一世帯にすれば、少なくとも日常生活上の問題はあまり発生しません。公正証書をつくるのには時間やコストがかかるので、面倒だと感じるのかもしれません」

「あるいは『時間もお金ももったいないし、なんだか不安だし、周りもいい顔しないし、面倒だし、じゃあしょうがない、法律婚するか』という人も多いのではないでしょうか」

江口さんと高木さんは、事実婚であってもできるだけ法律婚に近い権利と義務をもつため、「事実婚に関する契約公正証書」と「遺言書」をつくることにした。

そのためにかかった時間は半年近く。費用は20万円ほどだ。

「双方の自由な意思決定に基づき、婚姻に相当する関係を築く」

公正証書は、このようにはじまる。

夫と妻は、双方の自由な意思決定に基づき、これまでの氏を互いに保持しつつ、婚姻に相当する関係を築くことを目的として本契約を締結する。


夫及び妻は、戸籍法に定める婚姻の届出を行わないにもかかわらず、民法その他の法令に定める配偶者と同等の地位を互いに得ること、夫婦又は婚姻と同等の関係を持つことを互いに確認し、合意した。今後、夫及び妻は、本契約の趣旨を遵守し、夫婦として互いに慈しみ合い、助け合い、協力し合い、生涯ともに生活していくことを誓約した。

遵守事項も細かく決めてある。

1)正当な理由がない限り同居し、互いに協力し扶助すること。

2)各自の資産、収入その他一切の事情を考慮し、本契約による夫婦関係から生ずる費用を分担すること。

3)夫及び妻の間に生まれた子を扶養すること。


(中略)


6)夫及び妻は、他方が遺言を遺している場合、その誠実な執行に協力すること。

この後、「委任事項」や「財産の帰属」などの条項が続く。

いわゆる離婚については「契約解除」という文言で、「合意による場合」と「合意によらない場合」を分けている。契約解除後の未成年の子の監護や養育についても、細かく規定した。

また、事実婚だと家族が法定相続人にならないため、妻だけでなく夫も両親の戸籍から「分籍」し、妻の戸籍に入った長女を夫が認知した。さらに2人とも遺言を書き、万一のときには財産を家族に渡す意思を記した。

結婚って何のためにするのか

公正証書や遺言書ではカバーできない権利もある。

例えば、所得税の配偶者控除の対象は「民法の規定による配偶者であること」と定められているため、事実婚は対象にはならない。ただ、高木さんは今のところ一定の収入を得ており、そもそも配偶者控除の対象にはあたらない。

「婚姻届は、法律婚の権利と義務をまとめてパッケージ化したものですが、僕たちは果たすべき義務、将来的に必要になってくる権利について、自分たちに必要なものを何かを一つずつ検討しました」(江口さん)

「結婚って何のためにするのかーー。公正証書をつくることをきっかけに、相手との関係や結婚や家族について、より深く考えることができました」(高木さん)

自分たちで結婚のルールをつくる

それぞれが結婚の契約より前に持っていた財産を明記した「確認書」も作り、お互いに持っている預貯金や株式がいくらあるかを開示した。

将来、万一関係の変化が起きたときに、夫婦が対等の立場で話ができ、片方に不利益がないという契約をすることは、夫婦関係を築くうえでの大きな安心材料になるからだ。

婚姻届を提出するだけでは、そこまでする機会はなかなかない。

自分たちで文面を練り、自分たちでつくった公正証書。それを確認するため、公証人とともに公正証書の全文を読み上げる作業があった。2人が「結婚した」と実感する瞬間だったという。

「一連の作業は、法的拘束力を自分たちでつくる作業でした。事実婚という自由な枠組みの中で、あえてルールを厳しく決めていったのが僕たちのスタイルです。互いに責任をもって、合意して、夫婦や家族の一つの形を選びとることができました」(江口さん)

夫婦別姓の実現を待てない

今年、選択的夫婦別姓を求める訴訟が、さまざまな論点で起こった。行政書士の水口さんは、こう話す。

「夫婦別姓や事実婚で困ることは何ですか? とよく聞かれますが、そもそも最大の課題は、結婚できないことです。単純に、結婚したいのです、あれこれ面倒をせずに」

東京都中野区に住む会社員の杉田臣也さん(46)は、選択的夫婦別姓が認められたら婚姻届を出そう、と思い続けて18年。ずっと事実婚のままでいる。

2015年12月、最高裁大法廷が、夫婦同姓は合憲であるという判断をした。原告側の最終弁論を傍聴した杉田さんは判決に期待していたが、選択的夫婦別姓が実現しないと知り、落胆。「万一、自分の身に何かあった時に妻と子のために取れる手続きをしておきたい」と、公正証書をつくった。

それが、上の写真にある「財産管理等委任契約及び任意後見契約公正証書」と「遺言公正証書」。公証役場に何度も通い、10数万円かかったという。

選べる夫婦の形が2つしかない

杉田さんは中野区議会に陳情書を提出し、選択的夫婦別姓の実現を求めている。公正証書だけでは長女の親権が認められないことなどを説明し、「私の生活に一番関係のある区議会から、動かない国政に生活者の声を届けてほしい」と訴えている。

相続や税制などの面で「夫婦」というお墨付きがあるが、同じ姓にしなければならない法律婚。

夫婦別姓になるが、社会制度が整備されておらず、子どもが非嫡出子になるなど不利益が考えられる事実婚。

なぜこの2つのうちからしか選べないんだろう。事実婚の夫婦がつくる公正証書は、そんなシンプルな疑問を形にしたものなのだ。

BuzzFeed Japanは10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)にちなんで、2018年10月1日から12日まで、ジェンダーについて考え、自分らしく生きる人を応援する記事を集中的に発信します。「男らしさ」や「女らしさ」を超えて、誰もがなりたい自分をめざせるように、勇気づけるコンテンツを届けます。