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セクハラやじの後に起きたことは何か。壮大にコケてわかった、東京都議会という「伏魔殿」

一人会派の塩村あやかさんが語る、マイノリティーに冷たい都議会

東京都議選の告示日が迫るなか、ひっそりと議員控室を片付けている議員がいる。無所属の1期生であり、一人会派「東京みんなの改革」の塩村あやかさん(38)だ。

今回の都議選には出馬せず、地元の広島に戻り、民進党公認で次期衆院選に挑戦する予定だ。

塩村さんといえば、2014年に一般質問に立ったときに「子どもを産めないのか」とヤジを飛ばされたことでも知られる。

東京都議会とは、一体どんな場所なのか。BuzzFeed Newsは、都議会を去りゆく塩村さんに話を聞いた。


窓のない「物置」で議員活動

都議会では、会派の変更があるたびに控室の移動があります。この部屋は、私が使わせてもらうようになる前は「物置」だったそうで、本会議中に都の職員が待機していた部屋なんです。使えそうな部屋はここしか空いていないということで......。窓がなく、形もいびつなのですが、ドアはつけてもらいました。


テレビのバラエティー番組「恋のから騒ぎ」に出演し、放送作家として活動していた塩村さんは2013年、世田谷区から出馬し、初当選。「みんなの党」(その後「かがやけTokyo」に改称)の会派に所属していた。

2015年2月から一人会派「東京みんなの改革」所属に。主な政策は、動物福祉や子育て支援だ。脱退した「かがやけTokyo」は現在、地域政党「都民ファーストの会」となり、都議選では「小池知事支持勢力」で過半数の議席確保を目指している。


ひとりだけ資料をもらえない

一人会派の強みは、ガンガン主張していけるところです。でも、主張ができることと、主張を聞いてもらえることとは違います。

都議会は長らく「自民一強」でした。大会派には都職員のいわゆる忖度がはたらいているようですが、小会派は花を持たせてもらえない。

例えば、都議会だよりには、一般質問をした議員の質問内容が掲載されています。他の議員は顔写真つきですが、一人会派の私の写真は掲載されません。

質問した全議員の写真を掲載するか、全議員の写真を掲載しないというならわかるのですが、東京都議会には「一人会派の写真は掲載しない」という”決まり”があるそうです。

一般質問は、会派ではなく議員個人に時間が割り当てられているもので、議員に平等に与えられた権利です。その広報の仕方に差別があるのはおかしい。

こうした運営のやり方をいちいち変えたくても、そもそも都議会では、一人会派は「議会運営委員会」に入ることすらできません。全会派が入って話し合う場である「全員協議会」も開かれていません。

議運に何度も変更を訴えましたが、何の返答もありません。

一日中、誰もこの部屋を訪れてこない。私だけ資料がもらえないことや、委員会の忘年会に招いてもらえないこともありました。

笑っちゃうでしょう?

主張や提案をしても聞いてもらえないなら、せめておかしなところを追及していくのが、小会派である私の仕事だと割り切って、やってきました。

主に訴えてきた動物愛護や子育て支援には、1期目にして動きもありました。2015年、劣悪なペットショップに都から業務停止命令が下り、老朽化した動物愛護相談センターは整備決定にこぎつけました。

当選した2013年は、保育園に子どもを預けられなかった母親たちが杉並区に異議申し立てをした「保育園一揆」があった年でした。「保育は市区町村の事業」と傍観の立場をとってきた都に何度も訴え、待機児童問題を都の最重要課題と位置づけることができました。

都議会でやるべきことはやりました。一方で、一人会派としてこれ以上やっていくことに限界も感じました。都議2期目を目指さないと決めたのには、そうした理由もあります。


多数派の声は大きく、少数派の声はかき消される。あのヤジ騒動のときの都議会も、そうだった。

2014年6月18日、塩村さんが初めての一般質問に立ったときだった。妊娠や出産、育児の悩みを抱える女性へのサポートについて質問している途中、ヤジが飛んだ。

「早く結婚したほうがいいんじゃないか?」「まずは自分が産んでから!」

席に戻っても笑い声は止まらなかった。後に、自民党の男性議員が謝罪。他にも複数の議員からヤジや笑い声があったことが確認できたが、発言者は特定できなかった。

東京のみならず全国を揺るがしたヤジ騒動のあと、都議会は変わったのだろうか?


開かれないセクハラ研修

議会でのヤジはなくなりました。けれども、私に対しては何もしないという方策をとり始めましたね。

情報を教えない、権利を与えない、意見を聞かない、いい答弁はさせないーーそんなネグレクトみたいな扱いですね。情報が入ってこないので、何もわからないし、何も起こらない。何もないってこんなにひどいことなのか、と思い知りました。

あのときの問題は、自分がしゃべったり笑ったりしたのかどうか思い出せなくなるくらい、何十という声が一度にあがっていたことです。かなりの人数が大声をあげて騒いだり笑ったり罵声を浴びせたりしていました。

私は女性で、1期生の新人で、少数会派(当時)でした。もちろん、セクハラは悪いしヤジも悪いですが、それ以前に、あのとき都議会は「学級崩壊状態」だったのです。よってたかって、大人数で新人いじめをして笑っていたのです。

騒動に無理やり幕引きをするために、超党派の議員による「男女共同参画社会推進議員連盟」が約5年ぶりに再発足しました。この議連には私も入っています。

(BuzzFeed News注:このときの議連会長が「結婚したらどうだというのは僕だって言いますよ。平場では」などと発言したため、さらに紛糾した)

議連は、再発防止のためセクハラについての研修会をするとし、そう報道もされましたが、3年が経とうとする現在、いまだに研修も勉強会も開かれていません。

マスコミはおおむね私を擁護してくれましたが、ネガティブキャンペーンをするところもありました。私のSNSは常に、注目や攻撃の的になりました。

男性からだけでなく、女性からも攻撃されました。女性からの批判には2パターンあって、一つは、男性の声を代弁する女性から。もう一つは、過去にグラビアタレントをやっていた私の経歴をよく思わない女性から。どちらからも「議員の資格がない」と言われました。


塩村さんは、2016年10月に出版した『女性政治家のリアル』で、選挙活動中からトラブルが続出したことや、セクハラやじ後に「セカンドレイプ」ともとれる報道があったことに触れ、こう書いている。

女性が政治家になるということがどれだけ無防備で、リスクのあることかを、たった三年間、政治の世界を経験しただけでも身に沁みて感じました


壮大に転んで初めて気づいた

私は、ロスジェネ(ロスト・ジェネレーション=就職氷河期に就職活動をした1970〜1982年生まれ)世代。短大を卒業後、非正規雇用で仕事を続けてきました。

苦労しても報われない、という自身の怒りを原点に政治家を志し、幸運にも一度で当選できた私は、ヤジ騒動がなければ今も「なぜ私が報われないのか」という考え方のままだったかもしれません。

ヤジ騒動で転んでーー私は「転ぶ」「こける」という言い方をしていますがーー壮大に日本中を巻き込む形でこけて、初めて気づいたことがあるんです。

「弱者」になったときに、その泣きっ面を踏みつけるように追い打ちをかけてくる人がこんなにもいる。その人たちは「強者」なのではなく、「弱者」が「より弱者」を叩いていたりする。背景にある抑圧や、多数派有利の構造を変えなければ解決しません。

そして、残念ながらその構造は、東京都議会に巣食っているのです。


東京都議会(定数127)は6月現在、男性101人、女性25人で構成されている。最大会派の自民党は56人。

都議選により、その構成は大きく変わることが予想されている。