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辞めるくらいなら暴れなさい。"サンノゼの母"が、日本の女性に伝えたいこと

男性中心のシリコンバレーで、女性起業家を育てるために奮闘している日本人女性がいる。18歳で渡米し、仕事と育児と介護を経験。スタートアップの常識を覆した。

アメリカで #MeToo ムーブメントが沸き起こった2017年。配車サービス企業Uberのエンジニアだった女性がハラスメントを告発するなど、テック業界も例外ではなかった。

シリコンバレーでは、スタートアップ企業の役員は男性がほとんど。そんなテック業界のパーティー会場の片隅に立ち、密かに体を張った比較実験を試みていた女性がいる。

堀江愛利さん。18歳で米国留学し、IBMを経て複数のスタートアップ企業で勤務。2013年に「Women's Startup Lab」を創業し、女性起業家を育成するプログラムをシリコンバレーで提供している。

Women's Startup Lab CEOの堀江愛利さん
Via womenstartuplab.com

Women's Startup Lab CEOの堀江愛利さん

男女を逆にしてみたら

堀江さんが実施した比較実験とは、男性が女性にアプローチするのと、女性が男性にアプローチするのと、どちらが成功率が高いか、というもの。

「いつも男性から声をかけられる場所で、私のほうから『Do you wanna give me your phone number?』と声をかけてみたわけです。そうしたら、10人中8人は教えてくれなかった」

まったく同じ服装、同じ時間で、同じ場所に立って1週間、声をかけられるパターンと声をかけるパターンの比較実験をしたという。

「だいたい30分いたら最初の1人に声をかけられるから、それを待つよりも女性のほうからアプローチしたら効率的かなと思ったら、そうじゃなかった。アプローチしてくる女性に危機感を感じるのか、男性が逃げてしまうからです(笑)」

Davel5957 / Getty Images

ビジネスの成功が、文化を変える

女性に特化した起業家養成所「Women's Startup Lab(WSL)」には、ビジネスの成功によって女性たちが自信をつけ、世界に羽ばたけるように、という目的がある。その結果、女性が女性だからという理由で抱えがちな問題を解決するという長期的なミッションも。

「自分が生まれた国、土地、文化に関わらず、女性が活躍できるプラットフォームとして世界に広げていきたい。例えば、サウジアラビアの女性は、夫の許可がないと働いてはいけないという文化があります。その文化を変えるには何十年もかかるでしょうが、WSLのコミュニティの仲間同士でビジネスが生まれ、成功してお金が入れば、夫の許しを得るという文化も変わっていくかもしれません」

とはいえ、シリコンバレーの企業文化は白人男性が優位で、ベンチャーキャピタルから出資を受けている女性起業家はごくわずか。

「実際、女性が現場を回してリサーチもしていて知識が多くても、表では男性のほうが声が大きくリードしがちで、男性が評価されてしまう。でも、そんな権威的なリーダーシップが成果につながっているわけではなく、協調性のあるリーダーシップのほうがチームとしての生産性は高いんです」

「協調性のあるリーダーシップが評価されないから、上に上がれない。上に上がれた女性は、権威的なリーダーシップに変えないと仲間に入れてもらえない。女性リーダーが『男性化』してしまうという現状があります」

WSLでは女性たちに、権威的なリーダーシップを目指すために頑張らなくていい、と伝えている。

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Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2017 -keynote-

もっと頑張れと言われても、できない

堀江さんは、2014年の米CNN「Visionary Women」に選出された。2017年の「Forbes JAPAN Women Award 2017」では、働く女性たちに向けてシリコンバレーからビデオメッセージを送った()。

「40歳までに、多くの女性が通るであろう道をざっと通ったのが強みかな」と言う。

出産し、親の介護をし、大企業でもスタートアップでも働いた。副業のような形での在宅仕事や、アメリカでいう「フルタイムママ」も経験した。

Apple本社のあるクパチーノ市で、ひたすらセレブな私立の学校を見て回ったことも。「サンノゼの母」と呼ばれるくらい、育児に究極的にのめり込んでいた時期があった。

「人間には24時間しかないのに、頑張ってもできないという壁をすごく感じました。もっと頑張れと言われても、もう頑張れない」

最初に壁を感じたのは、2人目が生まれたとき。夫は出張でほとんど家におらず、同居していた母親ががんを患った。

「私、何とかしちゃうタイプなので。子育ては待ったなしだし、一人っ子なので母親の看病もしたい。40歳の手前でそれらをガーッとやって、母親の死を目の当たりにして自分の最後もふと見えたときに、それまでの価値観がどうでもよくなったんです」

起業家をめざす女性たちと(右端が堀江さん)
提供写真

起業家をめざす女性たちと(右端が堀江さん)

10分で食べるものは10分で作る

大きな出来事がきっかけで価値観が変わる、というのはよく聞くが、堀江さんの場合は、価値観を「変えた」。このときも"実験"をやり、それまでの自分とは真逆のことをどんどん経験していった。

まず、食生活。

「食べることだけに集中して食欲をなくすことを練習したんですよ」

それまで、家族の食事は母親が心をこめて作るものだ、という思い込みが何となくあった。ある中国人の母親が「食べる時間が10分間なら、調理にも同じ時間しか費やすべきではない」と言っているのを聞き、最初は「なんて母親なんだ」と感じていたが、実践してみよう、という気になったのだ。

「食事は体をつくることが目的なので、心が温まる素敵なお料理は週1でいいのかも、と。食に関する記事や栄養士が書いた本を読み、いかに時間を縮めて栄養のある食生活ができるかに挑戦しました」

それまで全く関心のなかった美容や買い物も同様、真逆の世界を"勉強"することにした。

割引クーポンの「Groupon」を使って美容サロンをめぐり、人はきれいになるために何をしているのかをヒアリング。ショッピング好きのセレブ主婦の買い物に週末ごとに付き合い、こんなお金の使い方をする人もいるんだ、と間近で見た。

「そういう感じでライフハッキングしていると、言葉にならない価値観や潜在意識が、どれだけ自分のことを制限しているかがわかるんです」

提供写真

次の世代にインパクトを与える仕事

「お金も地位も、死んだらなくなっちゃう。残された時間は、次の世代がよくなるように何か残してあげることをしよう」

堀江さんは、自分のミッションは次の世代にインパクトを与える仕事をすることだ、と考え、WSLを創業した。

白人とアジア人が集まって話している様子を見ていると、白人はアジア人に視線を送らない。「仲間に入れてもらうには、白人になろう」と思い、ビジネスネットワーキングの場に行っては、アメリカ人の立ち居振る舞いを観察し、まねた。

「そうやって少しずつアメリカンを勉強していきました。『You are so Americanized!』とよく言われるんですけど、自然にそうなったんじゃなくて、意図的です」

男女の立場を反対にしてみる。白人になりきってみる。ライフハッキングの比較実験は、マイノリティとしての堀江さんなりの世渡り術でもあったのだ。

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楽をすることを頑張って

WSLでは、シリコンバレーの起業家だけでなく、日本人女性に向けた集中プログラムも開催している。中には、大企業に勤めていてキャリアに悩み、休みをとって自腹で渡米し、2週間のプログラムに参加する女性もいるという。

「会社をやめる覚悟があるなら、その前に社内で思い切り暴れたらいいですよ。自分がワクワクするプロジェクトを会社の中で見つけて、一種の起業のように、人を巻き込む練習をしっかりしてから、それでもどうしてもというのなら辞めればいい。じゃないともったいないですよ」

シリコンバレーなんて遠い話。起業なんてとても......という女性たちにも、堀江さんは自身が経験したさまざまな立場からエールを送る。

「起業家でも、会社員でも、母親でも、私たちはみんな働く女性です。どの道を通っても、社会に貢献しているので、焦る必要はありません。自分が最もやりたいことを、自信を持って実行するのが一番だと私は思います。無理をせずに、もっと楽をすることを頑張ってください」

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全米の有力ベンチャー企業が集まるイベント「SXSW V2V」で2014年、キーノートスピーカーを務めた

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