1秒ずつ、時が刻まれている。
日本に約9400人の患者がいるALS(筋萎縮性側索硬化症)。筋肉をつかさどる神経(運動ニューロン)が侵される難病だ。手足、喉などの筋力が低下し、身体を動かしたり話したりがしづらくなり、食べ物を飲みこみづらくなり、最終的には呼吸がしづらくなる。進行が極めて速く、有効な治療法も確立されていない。平均余命は3〜5年といわれている。
27歳で宣告
広告プランナーでコミュニケーションクリエイターの武藤将胤さん(30)は3年前、27歳のときにALSだと宣告された。この記事の上部で紹介した「828日10時間09分05秒・・・」と1秒ずつ刻まれていく時計の画像は、武藤さんが設立したALSの支援・啓発団体WITH ALSのサイトトップにある。1秒目は、武藤さんが病名を宣告された瞬間だ。
「僕が生きている限り、時を刻みつづけます」
手の震えに気づいたのは26歳のとき。箸が持てなくなり、病院に行っても原因がわからなかった。病名を宣告されるまでの1年間が、最も辛かったという。
まだ何とか歩けるが、電車のホームで落とした携帯電話を拾おうとして30分ほど立ち上がれなかった。転んで前歯を折ったこともある。杖を使おうにも、手が動かない。そろそろ車椅子が必要か。だがその車椅子さえ、いつまで使えるのだろうか。
片手の指で操作できる
武藤さんが着目したのは、4輪駆動で、7.5センチの段差も乗り越えられるパーソナルモビリティ「WHILL」だ。PCのマウスを扱うように片手の指で操作できるため、不自由な手でもやりやすい。スマートフォンアプリで遠隔操作もできる。従来の車椅子の常識を覆す機能、デザインが魅力的だ。
ただ、価格は1台およそ100万円。40歳未満は介護保険の加入対象外のため、制度を利用したレンタルもできない。
そこでWITH ALSでは、WHILL3台を購入するためのクラウドファンディングを2月1日にはじめた。
こんな動画をつくり、呼びかけている。
これ以上、手も動かせなくなってきてしまうと、電動車椅子に乗れるのも限られた期間かもしれません。
だから3台は、シェアの形をとることにした。たとえ自分が使えなくなっても、同じ悩みを抱える仲間へと受け継いでいく。こもりがちにならず、動けるうちに行きたいところへ行こう、というメッセージをこめて。
このプロダクトであれば、障害者と健常者の垣根を越えて、誰もがカッコよく乗れる新しい乗り物だと感じて、とてもワクワクしたんです。
試乗した武藤さんは「子どもの頃、初めて自転車を買ってもらった時の感覚に近い」と話す。
武藤さんはコミュニケーションとテクノロジーの両軸で、ALSの啓発・支援をしている。例えば、めがね型デバイスJINS MEMEとの共同プロジェクトでは、目の動きだけで選曲やエフェクトをすることにより、DJとVJを同時にプレイした。
「身体は悪くなる一方でも、生きている限り、挑戦することをやめたくない。すべての人に限界なんてない、と伝えたい。いつか絶対に治します。生きてさえいれば」
すべての人に限界なんてない。NO LIMIT, YOUR LIFE. サイトのトップに掲げた言葉だ。
アメリカから広まったALSアイスバケツチャレンジにより、ALSは「キーワードとしては認知された」。今後は症状の理解促進と治療法の確立に貢献したい、と武藤さん。学校や団体に講演に出向くため、そして通院のためにも、WHILLが必要だ。
僕たちALS患者、すべての人の行動の自由を叶えるために、僕たちに力を貸してください。
クラウドファンディングは3月31日までの予定だ。サイトはこちら。