今年2月、ある匿名ブログが国を揺るがした。「保育園落ちた日本死ね」。待機児童問題に火がついた。

子どもを保育園に預けられず、仕事に復帰できない母親が、社会に怒りをぶつけたブログ記事だ。同様の悩みを抱える人たちによる、ネット上の署名は2万人以上の賛同を得た。
あれから約半年。事態は改善に向かっているようには見えない。
全国的に見て、待機児童が大きな課題となっている東京都の知事選ですら、子育て支援政策の議論は深まらない。
待機児童は過去最悪の8466人に
東京都の7月の発表によると、4月1日時点の待機児童は8466人。前年より652人増えてしまった。6月に辞任した舛添要一都知事は「待機児童を4年でゼロに」と公約に掲げていたが、状況はむしろ悪化している。
何もしなかったわけではない。保育所の新規設置で定員は約1万4千人分増えた。しかし、利用申込者数も約1万8千人増えた。共働き世帯が増え、子どもを保育所に預けて働きたい家庭が増えている。
保育所をどんどん作れないのか
「足りなければ、増やせばいい」という声もあるが、そう簡単にはいかない。保育所の新設に地域住民が反対する例が相次いでいる。
目黒区の「とりつだいさくらさく保育園」は、今年6月の開園に至る前に、1年超にわたって反対する地域住民との話しあいを続けた。
保育園を運営する西尾義隆社長は「最初は、まるで米軍基地が近所にできるのかというぐらい強い反発がありました」とBuzzFeedに語った。
保育園が近所にできるという未知の経験。子どもの声がどれだけ大きいかの想像がつかず、戦闘機の騒音と同じような捉えられ方をしたのだという。

区の公募に申し込み、保育園を運営する権利は得ていた。さあ建設という段階で、区報を見た近隣住民から「聞いていない」と反対の声があがった。
「とにかく、話し合いが必要でした。納得してもらうためには、こちらの意図を理解していただけるように務めるしかない」
このケースでは最終的に開園にこぎつけたが、杉並区や品川区など、話し合いの末に建設を断念するケースも出ている。
保育士も足りない

問題は施設の数だけではない。そこで働く保育士も不足してる。
東京都によると、全国に保育士登録者は118万6千人。しかし、実際に保育士として働いている人は、非常勤を含めても32万人しかいない(2013年度現在)。
資格があるのに保育士として働かない人が多い理由は、労働環境にある。
保育士の仕事は長時間に及ぶ。子どもと過ごすだけと思われがちだが、就業後に1人1人の養育記録をつけたり、保育計画を立てたり、担任同士の情報共有も欠かせない。
メンタル面も厳しい。子どもを預かる責任、保護者への対応など神経を使う。「子どもが好き」と純粋な気持ちで保育士になっても、心を病んで退職する人は少なくない。
精神的にも肉体的にもハード。しかし、給与は高くない。平均初任給はおよそ16〜17万円。引き上げの話もあるが、多少の額で人材が集まるかは未知数だ。
保育士資格と教員免許をとったが、現在は外資系アパレル企業で働く20代女性はBuzzFeedにこう語った。
「子どもが好きだし、子どもと過ごせる素晴らしい仕事。でも、給料と仕事内容を考えると、OLになったほうがマシだと思った」
都知事選有力候補者の公約では

都知事選の主要3候補は、子育て支援について、次のような公約を掲げている。
鳥越俊太郎候補
- 保育所の整備をはじめ、あらゆる施策を通じて、待機児童ゼロを目指す
- 保育士の給与・処遇を改善
- 子育て・介護に優先的に予算を配分
増田寛也候補
- 「待機児童解消・緊急プログラム」を策定し、8千人の待機児童を早期解消
- 妊娠・出産・産後・子育てを切れ目なく支援する「子育て世代包括支援」の構築
- 女性活躍を推進。仕事と生活の両立を目指して働き方を改革
小池百合子候補
- 女性が健やかに希望を持って、生き、学び、働き、愛し、子供を産み、育む社会を実現
- 「待機児童ゼロ」を目標に保育所の受け入れ年齢、広さ制限などの規制を見直す。保育ママ・保育オバ・子供食堂などを活用し、地域の育児支援体制を促進
- あらゆる都内遊休空間を利用し、保育施設、介護施設不足を解消。同時に、待遇改善などに より保育人材、介護人材を確保
待機児童問題の解消は可能なのか
認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事は、自身のブログで3候補の子育て支援政策を比較している。
待機児童の解消については、小池候補の政策に○、増田候補と鳥越候補に△をつけている。その差は、具体策に言及しているかどうかだ。
舛添前都知事は「4年でゼロ」を掲げながら、実際には待機児童は増えた。公約だけでなく、その公約を本当に達成してくれるのか。選挙後も注目する必要がある。