中国の武漢で発生している新型コロナウイルスに関するニュースが増えています。

そんな中で、さらに不安を広げそうな情報もでてきています。
こんな時こそ、データをより慎重にみていくことにしましょう。
推計1723人という報告も
ロンドンの研究チームが、この新型コロナウイルスの発生が始めて報告されてから、1月12日までに武漢での患者数は推計で1723人との研究結果を発表したというニュースです。
『中国の肺炎ウイルス、感染者は1700人以上か 英大推計 米国は空港での検疫強化』
https://www.afpbb.com/articles/-/3264079
おそらく、日本の各マスコミは単純にこのニュースをそのまま掲載していくでしょう。とりあえず、このニュースの情報元となったInperial College Londonの発表についてもご紹介しておきます。
『Estimating the potential total number of novel Coronavirus cases in Wuhan City, China』
この発表サマリーのPDF版も出ています。
海外で報告された症例(タイと日本)の人数をもとに、武漢市の国際空港利用者数を利用することで、数理モデルで武漢における感染者数を推計したものとなっています。
ちなみに、この調査発表では、その推計値については427~4,471人という幅での変動も予測しています。つまり、1700人だけではなく、4000人以上となる可能性も指摘しているのです。
はたして、現時点でタイと日本での感染者数によって、全体の数を推計していいのかということは難しいところもあります。
現時点では、あくまでも推計値なので、この数値に単に驚くのではなく、そこから学ぶべきことを考えておくことにしましょう。
実際の報告数は? 人から人への感染はどれぐらい起きるのか?
武漢からは、新たに136人の感染者の発表がありました。北京と広東省でも計3人の発症者が出ており、合計数は201人になったという報道もあります。

今回の感染者には市場の利用者が多いことがわかっていますが、すでに市場を利用していない濃厚接触者からの発症も報告されています。
少なくとも多くの専門家は「ヒトーヒト感染」が全くないとは考えていません。問題は、どれくらい「ヒトーヒト感染」を起こしやすいかということです。
現時点では、「ヒトーヒト感染」は濃厚接触者を中心とした限定的なものと発表されています。
しかし実際には、軽症例がどれくらい存在するのかが明らかとなっていない、という状況でもあります。
もしも潜在的な軽症例が多いのであれば、実際の感染者数は報告よりも多くなっていきます。また、これまで考えられていた以上に、「ヒトーヒト感染」は起こりやすいということになるでしょう。
その一方で、軽症例が増えることで死亡率は低下していくことになります。
感染症のリスクは「人から人への感染の起こりやすさ」と「重症度」の2つが重要
新しい感染症によるリスクは、「ヒトーヒト感染の起こりやすさ」と「重症化や死亡の多さ」が関連してきます。
今のところ、前者の「ヒトーヒト感染の起こりやすさ」については、今後の軽症例の増加によって変化する可能性があります。
後者の「重症化や死亡の多さ」ついては、現時点で重症例の増加については報告されていません。
みなさんの体には、初めて出会う感染症であっても戦うことができる免疫機能が備わっています。現時点では、ワクチンや直接の治療薬がないという状況で、この新型コロナウイルスと診断されている多くの人が自然に治っています。
これは、人間のもっている免疫機能が、この新しいウイルスに対しても確実に有効であることを示しています。
個人ができることは「手洗い」「咳エチケット」など基本を守ること
また、「ヒトーヒト感染の起こりやすさ」が予想以上であったとしても、個人個人が日常的にできることは、手洗い、咳エチケットなど、一般的な感染症と同じです。これらの対策については、今流行しているインフルエンザ対策と変わりません。
通常の手洗いとともに、市販のアルコールの手指衛生剤でも効果があります。

マスクは感染している人がつけた方が効果が高くなります。
予防的なマスクは、それと比べると効果が下がりますが、環境を介して汚染された手で、口や鼻を触れないという隠れた効果も期待できます。ただし、マスクを取るときの手洗いを忘れないようにしてください。
この機会に、一人一人がしっかりと日常的な感染対策レベルを上げておくということは、いざという時に皆さんを救うことになるはずです。
【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長
石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら。