厚生労働省は12日、新型コロナウイルス (COVID-19)に感染した神奈川県の80代の女性が死亡したことを発表し、国内で初の死者が確認されました。
女性は、やはり感染が確認され、肺炎を発症して入院中の東京都のタクシー運転手の親族といいます。

和歌山県では50代の男性医師が感染し、患者からも感染者が確認されています。
千葉県でも感染が確認され、国内でも感染が広がっていることが伺われます。
この感染症は新たな段階に入ったと言えますが、一般の方はこれまでのように手洗い、咳エチケットを徹底するという対策を徹底していただくことに変わりはありません。
想定していたが、あえて触れなかった3つのシナリオが同時に発生
新型コロナウイルスが発生してから、様々な注意喚起を、BuzzFeed Japan Medicalでの発信、Facebookのブログ「あれどこ感染症」やTwitterなどで続けてきました。
しかし、これまで、あえて述べてこなかった3つの想定がありました。
- 誰から感染したのか、接触者を追えない感染例の発生
- 医療関係者の感染
- 国内で死亡者が出ること
それらが今回、一緒のタイミングで報道されました。
報道や多くの人は、これまで「封じ込め」と「怖くない感染症」をキーワードに議論をしていました。
しかし、接触者が追えない例が出ると、「封じ込め策は意味がないのではないか」という思考停止につながります。

一般よりも、しっかりと感染対策をしているはずの医療関係者が感染したことは、個人での防御には限界があると、予防についての不安を高めてしまうかもしれません。
そして国内での死亡者の発生は、「怖さの増大」につながってしまいます。
こうした要素は不安を煽り、パニックやあきらめにもつながります。
しかし、それによって本来やるべき個人的な予防レベルを低下させてはいけません。不安な要素が多くなっているからこそ、日常的な予防を徹底することが大切なのです。
行政や医療の対策と、一般の対策は違う これまで通りの対策を
新しい感染症への対策においては、行政レベル、医療レベル、個人レベルでの対策を分けて考えることが重要です。
3つの想定の発生が影響を与えるのは、行政レベルと医療レベルの対策であり、やはり個人レベルでの対策は変わらないということを知ってください。


個人ができることは限られており、その対策はインフルエンザと変わりません。
感染ルートは咳やくしゃみが直接体内に入る「飛沫感染」と、ウイルスのついたものに触れた手で目や口や鼻の粘膜に触れる「接触感染」が中心であることはわかっています。
手洗いの徹底と、咳やくしゃみのある人が他の人に広げないようにする咳エチケットで防ぐことができます。
手洗いも、たとえ医療者であっても、しっかりと継続することは大変なのです。日常的な感染症は、予想以上に手を介して感染しています。どのタイミングで手指衛生をするかを考えるなど、様々な情報に流されずに日々できることを継続してください。
自身ができる日常的な予防をしっかりと行うことが、みなさんが行うべき最優先の課題となります。
医療レベルでは、この感染症の対策に集中し過ぎることによって、通常医療を過度に圧迫させないことが重要です。他の病気の人を救えなくなる危険性があるからです。
また、たとえ致死率が低い感染症でも、感染者が増加していけば、重症者も増えることになります。したがって、これからも感染を拡大させない努力は継続していかなければなりません。
その一方で、軽症者対応の負担によって、重症者を救えない医療とならないように、行政レベルでの調整を行っていくことも必要です。
状況は刻一刻と変わります。それぞれが、その時その時に合わせた最善の努力をすることで、この危機を乗り切りましょう。
【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長
石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら。
都立駒込病院は第一種感染症指定医療機関として、指定感染症の診療に当たっている。