「ハレンチって、実は意志のある言葉」世界一“恥知らず”な女性アーティストが語る色気の正体

    ラッパー、歌手、アーティスト、ちゃんみな。今年でメジャーデビュー5年目を迎える彼女は、10月13日に2年ぶりとなる3rdフルアルバム『ハレンチ』をリリースする。ちゃんみなはなぜ、タイトルに「破廉恥」を選んだのか?

    は‐れんち【破廉恥】

    恥を恥とも思わないこと。恥知らず。鉄面皮。厚顔無恥。

    広辞苑 第七版より抜粋


    「世界で一番『ハレンチ』って言葉が似合うのは私なんじゃないかと思って」

    ラッパー、歌手、アーティスト、ちゃんみな。

    2016年放送の『BAZOOKA!!! 第9回高校生RAP選手権』で強烈なインパクトを残し、18歳を迎えた2018年にアルバム『未成年』でメジャーデビューを果たした。

    デビュー当時から、ヘイターを蹴散らすような毒々しい歌詞とスキルフルなラップで多くのファンを魅了してきた。

    2021年3月にリリースした『美人』では、今までに受けてきた容姿へのバッシングや自身の苦悩を楽曲にし、ルッキズムに苦しむ国内外の人々から大きな反響を集めた。

    そんな彼女は10月13日に2年ぶりとなる3rdフルアルバム『ハレンチ』をリリースする。

    なぜ、マイナスなイメージがある「破廉恥」という言葉をタイトルにしたのだろうか?ちゃんみなが考える「色気とエロス」についても話を聞いた。

    ーー今回のアルバムのタイトルが『ハレンチ』と聞いたときは、どんな作品が出来上がるんだろうとドキドキしました。なぜこの言葉をタイトルに選んだんでしょうか。

    「破廉恥」って、すごくネガティブなイメージがある言葉じゃないですか。「彼女って破廉恥だよね」とか、「それは破廉恥だからやめなさい」とか…。いい意味で使われることってあまりないですよね。

    ただ、私自身は「破廉恥」に対して、強い意志を感じられる言葉だなと思っていて。辞書を引くと「恥を恥とも思わないこと。恥知らず」って出てきますが、この言葉の意味から、他の人がやらないことをやってのける強さを感じたんです。

    あと「破廉恥」って、よくカタカナで「ハレンチ」と使われるじゃないですか。日本語だけど、英語圏から来ている言葉だと勘違いしている人もいますよね。

    この言葉の、見た目だけのイメージと中身とのギャップ、そしてどこの国から来たかわからないってところが自分とすごくリンクするなと感じたんです。

    世界で一番「破廉恥」が似合うのは私なんじゃないかなと思って、アルバムのタイトルにつけました。

    エロスは「知識」と「経験」からつくられる


    ーー個人的にはちゃんみなさん自身が持つ色気やエロスの部分も「破廉恥」って言葉と通じる部分があるのではないかと思って。ご自身ではどのように思いますか?

    よく言われることではあります。

    印象強い出来事があって。私とモデルの人と、知り合いの男性とでいた時、男性が酔っ払っていて「このモデルの子よりスタイルも良くないし、可愛くないのに、ちゃんみなってすごい色気あるよね」と言ってきたんです。

    すごい失礼なことを言うな、と嫌な気持ちになったんですが、その帰り道に「色気があるってなんだろう」って考えたんです。確かによく言ってもらうことがあるので。

    私が色気を感じる人ってどんな共通点があるかを考えた時に、みんな知識が豊富だって気づいたんですよ。

    一つの知識に長けている人って、世間では変態と言われたりするじゃないですか。それはエロスに通じると思って。経験や知識がその本人の自信になって、周りから見て色気を感じるってことに繋がるんじゃないですかね。

    『美人』で「知識と経験のエロス」と歌っているのは、そういう自分の考えからなんです。思いとは逆に、短くて書ききれなかったんですが。


    ーーなるほど、知識と経験。色気を出すには数学をめちゃくちゃやった方がいいとか…?

    うーん。というより、知識も経験も、いろんな感情になるってことだと思います。

    数学とか、学問って知識がわかりやすいですが、学んだ先に自分がどんな感情になるかが重要だと思っていて。学ぶこと自体よりも、それをやってみて楽しいって感じたのか、面倒くさいって感じたのか、自分がどう思ったのかが大事なんじゃないかと。

    若い人でも「やりたいことがわからない」って人が多くいますけど、自分の気持ちに目を向けてみれば、興味があるものって必然と見つかるのではないかと思うんです。


    ーー何かを学んだりする時もそうですし、日常生活においても、自分がどんな感情になるかってあまり考えていなかったです。

    いろんな感情を味わった人って、やっぱり色気がありますよね。

    曲の歌詞でもよく「君は寂しい目をしていた」って表現があったりするじゃないですか。「寂しい目」って、別に才能でもなんでもないんです。

    どういう景色を見て、どんな涙を流したのか、そういうものがその人の目に詰まってる。この人は、この目で自分の愛する人が泣いてる顔見たんだろうなとか。

    感情ってやっぱ隠せないから。いろんな感情を知ってることが「経験」と言えるんじゃないかなと思います。


    大反響を集めた『美人』。リリースするまで消えなかった不安


    ーー今回のアルバムに収録されている『美人』。リリース後は大きな注目を集め、当時のインタビューでは「初めて人を救いたいと思って出した楽曲」と話していました。リリースするまでの心境はどんなものだったんでしょうか。

    『美人』は完成するまで10曲ほどつくっているんです。トラックも違うし、歌詞も違うもの。どれも『美人』ってテーマにピッタリはまるものがなくって。表現したいことはたっくさんあるのに、溜まりすぎて自分でも何をしたらいいかわからなくなっていました。

    普段私は、表現したいテーマに対してスッと曲が書けるタイプなんですが、これに関してはすごく大変でしたね。


    ーーそれはリリースするまでずっとだったんでしょうか。

    そうですね。リリースしてからも、「これでいいのか」って気持ちは抜けませんでした。

    今までこんなことはなかったんですよ。全部完璧だと思わないとリリースはしないし。でも『美人』に関しては最後までわからなかった。

    いざリリースして、聴いた人からの反応を見て、やっと「これでよかった」と思えましたね。自分のためとか、自己救済のためにつくった曲ではないからこそかもしれません。

    ーー完璧主義なちゃんみなさんが、自身の中ではっきりしていないのに曲をリリースするのってすごく勇気のいることだと思います。

    人を助けたいと思って書いたからこそ、皆さんにこの曲が届くことでやっと完成すると思っていました。タイミング的にも、先延ばしにしたり諦めたりするものでもないと思って。

    幼少期からステージに立つことが多かったし、自分は見た目のことで批判されやすいタイプでした。だからこそ「美」っていうテーマで、この楽曲を、このタイミングで私が出すのは大きな意味があると考えました。

    だからこそ「美」っていうテーマで、この楽曲を、このタイミングで私が出すのは大きな意味があると考えました。

    大変だったし悩んだけど、今出さなきゃなって。

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    ーー楽曲に共感した方から、メッセージや悩みなどが届くことも多いと思います。人のネガティブな感情って、吸収してしまうと辛くなってしまうと思うんですが、ちゃんみなさんはどのように向き合っていますか。

    結構もらっちゃう時もありますが、人に対しても自分に対しても、助言とか助けがないのが当たり前だと思ってるんです。

    救いになるものって、結局は自分で見つけるものだと思うんです。人からの言葉に対して、私が「助けになった」って思ったとしても、その人は助けるつもりで言ってないかもしれないし。それは私の言葉が「助けになった」って思っている人に対してもそう。

    自分が行く方向や見るものにヒントがあるので、巡り合わせですよね。あとは、自分がどう感じるかだと思うんです。

    私が人の悩みに対して思ったことを言っても、助けになるかならないかってその人次第だから。

    ちゃんみなは「Z世代の代弁者」?移り変わっていく肩書き

    ーーよく「Z世代の代弁者」と評されますが、ちゃんみなさんの楽曲は自身が表現したいことをやっている印象があるので、代弁者とはちょっと違う気がするんです。今回のアルバムにもすごくパーソナルな部分を出した歌が多いですし。

    そうですね。ただ、自分自身ではあまりこだわっていなくて、なんて言われようが良いかなって思っています。


    高校生RAP選手権の時は「練馬のFOXY親方」って名付けられたり、その後は「練馬のビヨンセ」って言われたり…(笑)

    肩書きってその時々によってどんどん変わってくるものなんですよね。だから正直なんとも思わないですね。

    私のように本人にそのつもりがなくても「代弁者」って言われたり、反対に「代弁者だ」って自分から言ってる人がそうじゃない場合もあるじゃないですか。だから“肩書き”って面白いですよね。うまく出来てるなとは思いますけど。



    自分でも「代弁者」って言葉に全く心当たりがないわけではないんです。楽曲には私自身の感情とか感覚を反映させているから、自分以外の人でも共感する部分って絶対にあると思うんですよね。

    同じ国で育ってきたし、同じ世代の人だと育ってきた環境も似ているだろうし、そうすると考え方も近くなってくるんじゃないかなって。

    代弁者って言葉だと、あたかも私が「言ってあげてます!」って見え方をしてしまうかもしれませんが。私が思っていたことが、たまたま同じ世代の人も同じことを思っていたってだけだと思います。全く違うことを歌っていても、同じように聞こえる場合もありますしね。

    今までも今後も、自分のために曲をつくるって部分は変わらないですが、それで救われる人がいるのであれば嬉しいことですね。

    また『美人』みたいに、誰かを救いたいと思う事もあるかもしれませんが。