8月11日、米テキサス州エルパソの移民収容所職員から継続的な性的暴行とハラスメントを受けたとして、収容されている複数の移民が、司法当局に告発状を出した。
アメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)は、米国内で移民法・関税法を執行し、国家の安全と治安を脅かす国境を超えた犯罪や、不法移民対策のために作られた機関だ。
ICEは、テロ対策や出入国管理、国境警備などを行う米国国土安全保障省(DHS)に属しており、各省にはチェック機関として監察総監室(OIG)が設置されている。
告発状は、同州のエルパソ郡地方検事、テキサス州西地区連邦検察事務所、米国国土安全保障省のOIGに提出され、被害の状況が詳述されている。
移民収容所内で一体何が起きているのか
テキサス州・エルパソ処理センター(EPPC)に収容されている移民に対するセクハラと性的暴行の申し立ては、独立系の調査報道機関「プロパブリカ」が最初に報じた。
ここに収容されている移民3人は、守衛による性的暴行・セクハラには、「パターンと慣例」があると主張している。
告発状には、センターの守衛が、エルパソの施設内に設置された監視カメラの死角を利用し、性的な接待に対して金を払うと被害女性に持ちかけたと記されている。
守衛は「報告しても無駄」「何を言っても誰も信用しない」と女性に言ったという。
また、移民男性1人がセクハラに対して苦情を申し出たところ、独房に監禁されたとも訴えている。

告発状を出したのは、ラス・アメリカス移民アドボカシーセンター。法務ディレクターを務めるリンダ・コルチャード弁護士は、こう語る。
「被害者の女性らは無力感を味わっているものの、被害を語ってくれました」
「(性的)虐待の組織的なパターンを精密に示すことにより、これが特異な事例ではなく、権力者による被害を受けた女性は実際にはもっと多いと明らかにする手助けになります」
「もっと多くの女性が打ち明けてくれることを願っています。彼女たちなしに、被害者の方々の生活を壊した組織をどうやって解体できるでしょうか。被害者の方々の協力が必要です」
ICEは、収容中の移民に対するいかなる性的虐待や暴行も許さず、すべての申し立てを厳粛に受け止める、と声明を出している。
またICEは、「立証された場合、適切な措置を取る」としている。
被害を受けても報告できない恐怖
告発状によると、2019年11月にICEの守衛が監視カメラの死角を利用し、無理やり被害女性1(以下Aさん)にキスをし、陰部を触った、と記載されている。
数日後「いい子にすれば釈放の手助けをする」と、身元不明の別のICE職員に言われた、とこの女性は証言している。
Aさんが拒んだところ、「通報しても誰も信じないぞ」と同職員に言われたそうだ。
約1カ月後、Aさんがトイレを使っていたところ、この職員が窓越しに見ていることに気がついたという。
Aさんはこのことを職員の上官に報告したが、冷淡に対応され、同職員による職権乱用をこれ以上報告するのが怖くなった、と話している。
その後の数カ月間、Aさんはこの職員を見かけなかったが、2020年3月に再会したときにはさらに攻撃的・威圧的な態度を取られたという。
「再び何かされるのではないかと、女性は常にパニック状態だった」と告発状には書かれている。

また、Aさんは、別の職員からも性的暴行を2回受けたと主張している。
5月、医務室から自分の宿舎へ向かってAさんが歩いていたところ、職員に脇へ引っ張られ、キスをされ、陰部を触られた、と告発状には記載されている。
約1カ月後、彼女は同職員に無理やりキスされ、再び身体を触られたため、「やめなければ通報する」と告げたそうだ。
しかし、同職員は彼女に「誰もお前のことを信じない、監視カメラの死角だから暴行の証拠は残らない」と返したという。
Aさんは本国へ送還される予定だ。しかし、彼女が国外退去となった場合、加害者は処分を免れるのではないかとコルチャード氏は懸念している。
データが示す性的暴行被害の実態。調査されるのはわずか
非営利の移民擁護団体「フリーダム・フォー・イミグランツ(移民のための自由)」が入手したデータによると、2010年1月から2016年7月にかけて、ICEに対する拘留移民からの訴状の数は、1万4693件にのぼる。
上記の期間中に性的暴行の訴状数が多かった上位5か所はすべて、民間運営の移民収容施設だった。
ICEは、民間企業や既存の刑務所と何百万ドルにもおよぶ契約を結び、施設に移民を収容させている。ICEによる移民の収容は、この無計画に広がったネットワークに依存しているとも言える。
告発状が出されたエルパソの収容所は、「グローバル・プレシジョン・システム」という企業が運営している。
同社は、エルパソ処理センター(EPPC)を運営する契約をICEと結んでいる。
「ベーリング・ストレイツ・ネイティブ・コーポレーション」の子会社である「グローバル・プレシジョン・システム」の広報担当者は、「係争中の法的事項」に関してはコメントできないと話している。
告発の内容については、司法局内の不正捜査を全体的に行う司法業務査察室(OPR)と、OIGが調査中だ。
DHS傘下の機関に対する移民からの告発状を、OIGが調べるのは異例だ。
2010年1月から2016年7月の間、DHSに寄せられた性的および身体的虐待の告発は、少なくとも3万3126件あった。
しかし、調査されたのは総数の0.07%--わずか225件だったと、BuzzFeed Newsは2017年に報じている。
OIGは性的・身体的虐待570件の調査を行ったが、告発が出ていたのは、わずか225件だった。
ICEに対する告発状の数は、同省傘下の他の組織と比べて多い。
最も新しいデータは2018年のもので、374件の性的暴行の申し立てがあった。
このうち、立証されたのは48件、立証されていないものが215件、未決着のものが29件ある、とICEは明らかにしている。
今年5月、テキサスにある同局の収容所内でレイプされたとして、女性が民間の運営企業を訴えたとBuzzFeed Newsが報じた。
女性はその後、加害者の娘を出産した。女性が収容されていたヒューストン処理センターを運営する民間企業「コアシビック」は、この申し立てを否定している。

出所後も続くセクハラ被害
今回の告発状には、もう1人の女性の訴えも記載されている。被害女性2(以下Bさん)とされている彼女は、ICE職員による6件のセクハラを報告している。
3月から4月にかけて、職員はこの女性に対して繰り返し言い寄っており、「遊び」に誘われたが、Bさんは断ったという。
同職員は、「性行為と引き換えに金をたくさん払う」とも言った、と告発状には記載されている。
誘いを断わられた同職員は「この施設内では女性にはなんの権利もなく、誰も話を信じない」と告げた、と彼女は主張している。
3ヵ月ものあいだ、Bさんはエルパソの収容所に拘束され、男性職員が「自由に人目を気にせず」収容中の女性たちを口説いているのを繰り返し目撃したそうだ。
同局の守衛たちもまた、石鹸や清潔なユニホームなどの必需品と引き換えに、性的な取引をしようとした、と告発状には記されている。
Bさんが4月に解放されたあとでも、同局の守衛は、Bさんが現在も連絡を取り合っている収容中の女性2人を経由してメッセージを送り、ハラスメントを続けていると伝えられている。
男性の被害も訴え
またこの告発状には、男性からの被害申し立ても含まれている。
この男性は、シャワーを浴びていたときにICE職員が見つめているのに気づいたという。
告発状には、同局の守衛は「繰り返し自身の性器を擦り、(男性を)見つめていた」と書かれている。
守衛の上官に苦情を申し立て、同職員と対峙したところ、この男性は5日間独房に監禁されたという。
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan