ドコモの絵文字、MoMAに収蔵 「すごいことすぎて現実感が…」生みの親の思い

    20年の時を超えて、世界のemojiに。

    ニューヨーク近代美術館(MoMA)は10月26日、1999年にNTTドコモが携帯電話向けに開発した176種類の「絵文字」を新たに所蔵品として加えた。

    ハート、笑顔、天気や星座の記号……ガラケー時代から見慣れた、12×12ドットの小さなサイズで描かれたシンプルな絵文字たちが、コレクションの1つとして美術館に並ぶ。

    今や「emoji」として世界中の人々に使われるようになった絵文字。生まれた背景には、漫画やピクトグラムなど日本のカルチャーの影響があった。

    BuzzFeed Newsは、生みの親の栗田穣崇さんに今の思いを聞いた。

    ドコモの絵文字が世界のemojiに

    「率直にうれしいです。……が、正直想像を超えていて、まったく現実感がないですね(笑)」

    MoMAから栗田さんに連絡があったのは、2015年5月。Facebookメッセージでキュレーターの1人から打診があったという。

    MoMAはソフトウェアやゲームなど、デジタルコンテンツを積極的に扱っており、これまでにTVゲーム「パックマン」「塊魂」なども収蔵している。

    今回、絵文字は「デジタルコミュニケーションを変えたデザイン」として選ばれた。

    ハートは「革命」

    絵文字が生まれたのは、iモードと同じ1999年だ。

    まだSNSはおろか、2ちゃんねるなどの掲示板文化も黎明期。Googleは日本でサービスを開始していない。折りたたみ式の携帯電話も広く普及する前だった。

    栗田さんは、絵文字を開発したきっかけとして「デジタルの冷たい印象をやわらげられる表現がほしかったから」という。

    対面や電話であれば、表情や声で感情は伝わるが、文章だけではなかなか難しい。その上、携帯電話の小さな画面では、短いテキストでのやりとりとなり、無機質に感じがちだ。

    「ハートって無敵の記号なんですよ。当時ポケベルで女子高生が多用していて、革命的だと思いました」

    「『ムカつく』『怒ってます』『やめろ』……末尾にハートをつければ、どんな言葉もポジティブになる。しゃべり言葉のトーンを、デジタルでこんな風に表現できるんだと思ったんです」

    これだけ広くハート記号が使われているなら、バリエーションがある方が選ぶ楽しさがあるだろう――初期の絵文字176種の中に、ハートは4種(トランプ記号としてのハートも含めると5種)も用意している。

    当時、栗田さん個人はどうしても採用したかったが、社の判断で叶わなかったのは「うんこ」。

    「『送られてきた人が嫌な気持ちになる可能性がある』と却下されてしまいまして……。auではすぐに出てきたので、KDDIさんが羨ましかったです(笑)」

    「あったら絶対たくさん使われたはず! みんなちょっと変なものが好きなんですよね。実際、今iOSの絵文字でも大人気ですし」

    漫画とピクトグラム、2つの日本文化

    メールでの感情表現を豊かにすることに加え、携帯電話向けのコンテンツを見やすくすることも、絵文字開発の目的だった。

    当時のiモードサイトを参考に、占いによく使われる十二星座、各種スポーツ、天気記号などをそろえている。

    絵文字自体のデザインの参考にしたのは、漫画表現に使われる「汗」「怒り」などの「漫符」と、トイレや禁煙マークなど街中で使われている「ピクトグラム」だ。

    「漫画はもちろん、ピクトグラムも1964年の東京五輪をきっかけに作られた日本発のデザイン。絵文字が日本文化をバックボーンにしているのは間違いありません」

    赤い「アゲ」矢印の秘密

    栗田さんが思い入れのある絵文字の1つが、上向きの赤矢印。

    今やテンションが「アガる」を示す記号として定番となっているが、当初はランキングやチャートの「急上昇」に使われることを意図して収録したものだった。

    実用性や機能性を意識して作ったものの、感情表現として使われることがずっと多かったのだ。

    本来の意味と違う用途で使われたものは他にもいくつもある。

    スポーツの1つ「陸上」を示すウェアが「エプロン」、「映写機」が出目金やフグなどの「魚」、「水瓶座」が「海」などに“誤読”されることは多かったという。

    「でも、それでいいんです。僕は絵文字を、イラストではなく文字として作っていたので」

    「今は世界のみなさんがイメージするのはiOSの絵文字だと思いますが、これは『イラスト』ですよね。ずいぶん使われ方も変わったと思います」

    絵文字は文字か、イラストか

    「絵には人それぞれ好みがありますが、文字に好き嫌いは存在しない。そこが文字としての絵文字の重要なポイント」

    栗田さんは、バリエーションを追求した「イラスト」はどうしても好き嫌いの対象になってしまうと話す。

    文字は、シンプルに意味を抽象化し、色にも依存しない記号だ。開発時は「デジタル時代の表意文字」であることを意識して、デザインしていたという。

    とはいえ、当時他キャリアを使っていた筆者は、ドコモの絵文字はかわいくていいな、と羨ましく思っていた記憶がある……。

    「ありがとうございます、『かわいい』だけでなく『ダサい』というご意見もたくさんいただきましたよ!(笑)ただ、それはあくまで他の絵文字と、イラストとして相対的に比べた時の感想ですよね。文字自体への本質的な好き嫌いとは異なると思っています」

    emojiの未来

    Unicodeが定める絵文字は約2000種類にのぼっている。広く世界中で使われるようになった“emoji”の未来について、栗田さんはどう考えているのだろうか。

    「正直、ずいぶん前に自分の手を離れてしまった思いがあるので……どうなっていくんでしょう?」

    「Unicode規格になったことで、その意味では残っていく、使われていくと思いますが、デザインとして5年、10年後に継承されるかは……。『イラスト』は好き嫌いが生まれてしまう以上、Apple、Google、Facebookなどそれぞれのサービスで見た目が違うのも、ユーザーとしては使いにくいですよね」

    「あの頃、折りたたみケータイを使わない日が来るなんて想像できなかったように、僕らが当たり前のように持っているスマホだって何年先まで残るかわかりません。文字数が増え、デバイスも変わっていく中で、入力方法も見直す時期になっていると思います」