AKB48が作った“アイドルらしさ”とは? 歴代衣装を振り返る

    「女の子を劇的にかわいく見せてくれる!」と評判のAKB48の衣装たち。インディーズ時代からデザイナー、茅野しのぶさんとファンに人気の高い衣装を振り返り、当時の思い出やこだわりを聞きました。

    テレビ越しでも印象に残る、AKB48の華やかでカラフルな衣装。デビュー当時からこれまでの1102着の衣装をまとめた「AKB48衣装図鑑」が発売しました。

    インディーズ時代から一貫して衣装のデザインを手がける茅野しのぶさんは、ファンの中では「女の子を劇的にかわいくしてくれる」と信頼の厚い存在。思い出の衣装を振り返ってもらいました。


    ポニーテールとシュシュ(2010年5月)

    AKB48の代名詞的な衣装のひとつですよね。世間に認知された記念碑的な曲だと思うので、とても思い入れがあります。表紙でも宮脇咲良(HKT48)に着てもらいました。

    デザインは、とにかく爽やかでポップに! お茶の間のみなさんに「なんだかガチャガチャしたアイドルが出てきたぞ」と知ってほしかった。曲を聴いた瞬間に白と水色が思い浮かびました。この頃、自分の中で缶バッジがブームでとにかくいっぱい作ってました。

    言い訳Maybe(2009年8月)

    この曲はとにかくMVの印象がすっごくよかったな〜って。青い空、緑の芝生に赤チェック――赤チェックがAKB48のイメージになったきっかけですね。

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    体の線が見えるぴっちりしたジャケットにミニスカート、というミニマムなシルエットの衣装に初めて挑戦しました。

    アイドルの衣装、かわいいだけではダメで、ダンスできる余裕を持たせなくてはならないんですよ。特にジャケットはそのままだと動きにくいので、いろいろ工夫しています。よく見るとかなり凝ったパターンになっています。

    さっきは缶バッジでしたが、この頃はワッペンブーム(笑)。サンプルでたくさん作って、全部かわいかったのでいっぱい使いました。

    ヘビーローテーション(2010年8月)

    すっごく時間がなかった!(笑)MVの監督だった蜷川実花さんとスタイリストの里山拓斗さんとの合作なんですが、撮影まで1週間くらいしかなくて大慌てだった記憶が……。

    ジャケットは市販のものをリメイクしています。「言い訳Maybe」から、シングル曲の選抜メンバーは一人ひとり別のデザインで、この衣装も同じナポレオンジャケットでも前身頃にバリエーションが。展示しているのは一体のみですが、本では並べて見せてみました。

    シングル曲の衣装は、まずはセンターは誰かを確認するところからスタートします。前田ならシンプルに、優子だったらデコラティブに、と中心になるものを作ります。

    そこから派生して「かわいい系」「かっこいい系」にアレンジしたジャケットやスカートを4パターンずつ。組み合わせると合計16種類になる――というイメージですね。

    輝く! 日本レコード大賞(2015年12月)

    「僕たちは戦わない」がレコード大賞にノミネートされた際の衣装です。

    オーガンジー素材に、ブレード(テープ状のひも)で柄を刺繍し、生地から作っています。インドの業者に依頼したのですが「AKB48って何なの?」って感じだったでしょうね……(笑)。

    生地作りのプロセスだけで1カ月半くらいかかったかな。実は、レコ大にノミネートされるか、発注した時点では決まっていませんでした。それでもスペシャルな衣装を作りたくて。

    AKB48って人気が出るまで長かったので、レコ大や紅白に出られるのって、本当に特別にうれしいことなんです。この日のためだけに、彼女たち一人ひとりに自分だけの衣装を作ってあげたかった、そんな思いがこもっています。

    センターのぱるちゃん(島崎遥香)の胸のアルファベットは「P」。「どうして私だけニックネームなの? Hがよかった!」とすねられました(笑)。

    「Hは他にもいるんだよ、Pは君だけだよ」って伝えたら「そっか」って。ぱるちゃん、かわいいんですよね。

    島崎遥香 卒業ドレス(2016年12月)

    晴れ舞台の衣装ですが、華やかにしすぎず、本人の好みに合わせて、クラシカルで上品なデザインに。卒業ドレス作りはいつも、メンバーへの贈り物のような気持ちですね。

    どうしてもイメージに合う色味の生地がなくて、アンティークのような刺繍で柄が入ったオーガンジーの布を、くすんだ水色に染めるところからはじめました。

    全体についたカラーの花や鳥の刺繍ワッペンは、別途デザインを描いて発注して、上から重ねて縫い付けています。

    これ、最後の劇場公演でたった1回だけ着た衣装なんですよ。ぱるる推しのみなさんでも実際に見たことがない人がたくさんいると思って、今回展示するひとつに選びました。

    NHK紅白歌合戦(2016年12月)

    視聴者投票で「紅白選抜」を選ぶ趣向だったので、メンバーが29日まで決まらなくて、とにかくギリギリで大変でした! ネクタイ部分に所属グループの地名が入っているのですが、それぞれ多めに作って……ちょっと予想は外しましたけど、なんとかなりました。

    ファンの手によって選ばれた存在であることを示すような、シックで高貴なデザインに。紺のベルベッド生地のコートの背中には「すべてのファンが選んだ48人のドリームメンバーたち」とプリントしています。

    衣装に合わせて王冠型のマイクスタンドも衣装部で作りました。NHKさんと「マイクスタンド、このままでいいですか」「え? 作らせていただいてもいいですか?」って。……そういうことをやっちゃうんですよね、忙しいのに!(笑)

    どんなにスケジュールが詰まっていても、必ず一人ずつフィッティングして要望を聞くのは徹底しています。例えば、たかみな(高橋みなみ)は身長が低いので、バランスを人一倍気にしてましたね。

    身長が低い子高い子、スカート丈の好み……メンバーのコンプレックスやこだわりはそれぞれ違うので、自信を持って「かわいい自分」でステージに立てるように全力を尽くしています。私たちが迷ってはダメ。少しでも不安な点、気になる点は解消してから送り出しています。

    茅野しのぶさんロング・インタビュー:前田敦子も大島優子も「普通の女の子」だった。アイドルの魔法をかける、AKBの衣装哲学