男性にモテるのに、語学勉強や趣味など、スキルアップは無意味???
女性ファッション誌「VOGUE JAPAN」が7月、公式サイトに掲載した記事が、批判を受けている。
「価値の高い」女性
「【ヴォーグなお悩み外来】 この夏の恋を制するには?」と題したこの記事では、男性を引き付ける価値の高い女性がどのような人物なのか、恋愛カウンセラーぐっどうぃる博士がアドバイスしている。
男性にモテるには、「見た目は極めて重要」。「30代になる頃からモテなくなる」のを回避するには、中身を磨くことが大事だが、語学勉強や趣味など、スキルアップは意味がないのだという。
「女性は英会話の能力や茶道の嗜み、海外旅行に行くことなどが自分を磨くことだと思ってしまう傾向があります。しかしこれらは、男性の関心を引くという観点では意味がありません」
では、男性は女性の何に関心を持つのだろうか。
男性が求める自由を邪魔しない。駄目出しをしないで、能力を褒める要素を持つ女性が男性を引き付ける。さらに、「自分の素を最初から出してしまう女性がいますが、それはNG」であり、男性が何を求めているのか見極めなければいけない、などと並ぶ。
このアドバイスに対して、「男性を褒め、媚びへつらい、控えめにする。そんなことが女性の魅力でしょうか」、「女性の自立やパワーを存分に表現するVogueさんがこのようなミソジニー(女性蔑視)な記事を出すのは非常に残念」、「 自分がやりたい事を機嫌よく楽しんでる時に『そんな事してもモテないよ』って、大きなお世話」と、非難する声が寄せられている。
キャリアウーマンに支持されているVOGUE JAPAN
日本の女性誌の中で、VOGUE JAPANはどう位置づけられているのか。主に自立志向の強いキャリア女性に好まれるファッション誌だと、ファッション文化論が専門の甲南女子大学准教授・米澤泉さんは語る。
「モード誌ということで、載っているファッションは最先端。中身も自立志向の強い女性とか、キャリアを持っている女性の方に好まれています。女性を基本的に応援するスタンスを持つ雑誌でもあり、ウーマンオブザイヤーも毎年実施し、社会で活躍する女性を表彰しています」
問題になっているVOGUE JAPANの記事については、「『CanCam』とか『JJ』の赤文字系雑誌に書いてあったら、別にあそこまで反応はなかったと思います」と米澤さんは話す。大学生をターゲットとした赤文字系雑誌は「男性に好かれるファッションやメイク、そして日常の行動を中心に編集しています」。
VOGUE JAPANに、「赤文字」のような記事が載っている。VOGUE JAPANの読者層が期待していた内容ではなかったため、「疑問に思った人もいるのではないか」というのが、米澤さんの考えだ。
日本の女性誌の変遷
女性誌に描かれている女性像は、近年、変わってきていると米澤さんは指摘する。結婚、出産を前提とした、専業主婦から、仕事も子育ても両立する女性像への変化だ。
「社会意識を雑誌は反映しています。女性の意識が変わっていくと、女性誌の内容やファッションも変わるのです」
その代表的な例が、30代女性向けのファッション・ライフスタイル雑誌「VERY」だという。
「以前は専業主婦しか紙面に登場しませんでしたが、2000年頃からは仕事を持ちながら頑張るお母さん像が示されたり、社会性も編集方針として出ています。働くお母さんが増えてきて、専業主婦が少数派になってきたからでしょう」
アメリカの女性誌はどのように変わってきたか
本場のアメリカでは、1960年代の女性解放運動が普及とともに女性誌の売り上げも急増した。
「女性誌は長い間、性の健康・権利、そして女性に対する暴力について書いてきた」と「ELLE US」のロビー・マイヤーズ編集長はインタビューで語っている。
フェミニズムの考えはすでに普及している。近年では、オバマ大統領が「Glamour」に「私はフェミニストだ」と投稿。ファッションや性について紹介している「Cosmopolitan」も、ネット版に女性の政策やジェンダー・人種問題を専門とするライターを採用している。理由は、女性視点で社会問題を切り込む記事の需要がネットやSNSでは大きいからだという。
だがアメリカでも、こんな事例がある。10代女性向け「Seventeen」のアメリカ版は、「女子が自立した強い女性になれるように勇気を与えること」を編集方針にしているが、元編集長ミシェル・タンを産休中に解雇している。
VOGUEとフェミニズム
では、アメリカ版のVOGUEはフェミニズムとどう向き合ってきたのか。本国VOGUEの公式サイトでは、「フェミニズム」ページがあり、女性のエンパワーメントに力を入れている。フェミニストとしても有名な女優、エマ・ワトソンは、イラン出身の女性作家マルジャン・サトラピにインタビューしている。性別関係なく「子どもたちに『まず何よりもあなたは人』だと伝え続けなければいけない」とサトラピが話している。
また、ティーンズ版の「teen VOGUE」では、「女性による、女性のための(For Girls, By Girls)」という特集で、女性のエンパワーメントを女性視点で扱っている。
だが、VOGUE JAPANがフェミニズムを避けているわけではない。実際、2015年5月号ではフェミニズムを特集し、渡辺三津子編集長は、こう主張している。
女性らしさ(フェミニン)と女性の権利拡張(フェミニズム)は、一見相反することのように響きますが、いえいえ、そんなことはございません。だって、 男女同権って、男と女が同じ存在になることとは違いますよね。お互いの差を認めながらも社会的平等を目指す、ということですから、女性は女性のままで生き方を謳歌すべきなのではないでしょうか。「他の存在になって勝ち取る生き方」なんて、たぶん、かなりさびしいもののような気がします。
ファッション特集では、男性目線の女らしさではなく、女性であることを女性自身が楽しもう、というメッセージを謳っています。
「男性目線の女らしさではなく、女性であることを女性自身が楽しもう」——1年前に編集長が推進していた女性の生き方だ。
アメリカ版VOGUEとVOGUE JAPANの価値観や編集倫理は異なるのか。VOGUE JAPANが問題になっている記事を掲載したことを、他エディションは把握していたのか。そして、アメリカ版VOGUEはVOGUE JAPANが描く女性像に賛成しているのか。
BuzzFeed Newsは、記事の概要を英語で説明し、上記の質問をアメリカ版VOGUEの版元、コンデナスト本社の広報に問い合わせたところ、「VOGUE JAPANへの質問である」と、日本支社コンデナスト・ジャパンに案内された。
コンデナスト・ジャパンのマーケティングディレクター菊井直人氏によると、「グローバルでのVOGUEとVOGUE JAPANの編集は、基本的には同じ」だと話す。ただし、記事が掲載された意図、苦情の有無については、「取材に応じることはできない」と回答を拒否した。