東京オリンピック買収疑惑 証言から迫る、渦中のコンサル その実績

    2015年、彼は北京・世界陸上の会場にいた。

    東京オリンピックを巡る買収疑惑の渦中にいる人物、イアン・タン氏。シンガポールに拠点がある「コンサルタント」だ。彼が経営していたブラックタイディングス社の口座に、東京オリンピック招致委員会から約2億3000万円の「コンサル料」が振り込まれた。BuzzFeed Newsは彼を知る中国陸連の関係者らに取材した。

    中国陸連に太いパイプ?

    JOC・竹田恒和会長は国会で、イアン・タン氏について「アジアや中東、陸上界に強い実績があるコンサルタント」と評した。一方で、彼が事務所としていたのはシンガポールの公営住宅で、実績がある国際的なコンサルのイメージとはかけ離れていた。

    イアン・タン氏とは何者なのか。

    竹田会長の国会答弁によると、イアン・タン氏は2015年8月22日に開幕した世界陸上の「招致コンサルタント」を務めていたという。

    BuzzFeed Newsは、イアン・タン氏を知る中国陸連の関係者に電話で取材した。彼は匿名を条件に次のように証言した。

    「イアン・タン氏は世界陸上の会場で、中国陸連の幹部らとともにいた」

    ブラックタイディングス社は、2014年7月には閉鎖されていた。この時、彼はどのような肩書きで働いていたのか。

    この中国陸連関係者は「北京にあるスポーツマーケティングを手がける会社に勤めていた」と話す。大会関係者と歓談し、行動を共にしていた彼らを見て「かなり親しいと思った」という。

    「副会長との個人のつながり」

    BuzzFeed Newsはシンガポールに本部を置くアジア陸上競技連盟(AAA)にも取材した。電話に出たスタッフは役職名やフルネームを明らかにすることは拒んだが、イアン・タン氏とAAAとの関係を問うと、短く質問に答えた。

    「AAAが組織として、彼とともに仕事をした事実はない。彼は中国陸連の杜兆才副会長と個人のつながりで仕事をしており、AAAとの仕事はあったが、それも杜副会長との関係での仕事だ」

    前出の中国陸連関係者も「詳しい話は杜副会長に聞かないとわからない」と話していた。BuzzFeed Newsは中国陸連に杜副会長への取材を申し込んだが、「1日ミーティングがあり、取材には応じられない」と断られた。

    陸上界に強い「コンサル」

    2015年の世界陸上は、長く国際陸連のトップに君臨し、IOC委員も務めたラミン・ディアク前会長体制下での最後の世界陸上だった。

    ガーディアン紙の報道によると、イアン・タン氏は、ラミン氏の息子で世界陸連の「コンサルタント」を務めていたパパマッサタ・ディアク氏の友人であり、ラミン前会長一派との距離の近さを売りにしていたとされる。

    ラミン氏は、ロシア選手のドーピングをもみ消す見返りに少なくとも約100万ユーロの賄賂を受け取った疑惑があり、フランス当局の捜査を受けている。この事件の金銭授受に使われたのも、ブラックタイディングス社の口座だ。この捜査の過程で、東京招致委の振込も発覚した。

    竹田会長の答弁にあったような「特にアジア、中東地域での活動実績が強い」「特に陸上には影響力があると各方面からも聞いていた」という姿と重なる。

    東京オリンピック組織委 再調査の「予定はない」

    ガーディアンなどは、電通スポーツ部門をサポートしているスイスのマーケティング会社AMSは、イアン・タン氏とコンサルタントとして契約していた、と報じている。

    BuzzFeed NewsがAMS社に事実関係を問い合わせたところ、メールで「取材には一切応じていない」と返信があった。

    電通はこれまでの取材に「イアン・タン氏が電通のコンサルタントであったという事実はない。AMSは多くある取引先の一社で、子会社ではなく、出資関係もない」と関係を否定している。

    東京オリンピック組織委は「再調査をしないのか」というBuzzFeed Newsの質問に対し、ブラックタイディングス社を巡る数々の疑惑が明らかになった5月16日夕、太字を使ったメールでこう返信した。

    「招致委員会と組織委員会は法的にも別の団体であり、組織委員会自体はその活動の詳細を知り得えません。組織委員会は、調査を行う立場に無く、予定はありません」