少子化で滅びゆく日本を救うか 「こども保険」提言した小泉氏ら自民若手の真意

    負担増ではないのか。なぜ、子供がいない人も支払う必要があるのか。ネット上での批判に全て答えた。

    このままでは、日本は少子化で滅ぶ。2060年の人口は現在より3割少ない8674万人。うち4割が65歳以上の超少子高齢化が予想される中、対策として、小泉進次郎氏ら自民若手が提言した「こども保険」に注目が集まる。

    仕組みはこうだ。

    年金、医療、介護などの社会保険に、新たに「こども保険」を加える。社会保険料率に、まずは0.1%上乗せして3400億円の財源を確保。幼児教育・保育の負担軽減や待機児童ゼロの対策に利用する。

    上乗せ幅を段階的に0.5%まで拡大すれば、幼児教育・保育の実質無償化も実現するという。子育て支援の拡充で少子化に歯止めをかける狙いがある。

    注目を集めているのは、社会保険を使って社会全体でこどもを支援するという仕組みだけではない。自民若手からボトムアップで出てきた案だからだ。

    BuzzFeed Newsは提言をまとめた「2020年以降の経済財政構想小委員会(以下、小委員会)」に取材した。インタビューには小泉氏の他、中核メンバーの村井英樹氏、小林史明氏の3人が応じた。

    小泉氏と村井氏は36歳、小林氏は34歳。平均年齢50半ばの党で若さが際立つ。


    きっかけは高齢者への「3万円バラマキ」

    小委員会が生まれたきっかけは2015年。高齢者への3万円の臨時給付金だった。選挙前の突然の「バラマキ」に3600億円が計上された。

    真っ先に反対の声をあげた小林氏は、こう振り返る。

    「待機児童の対策をしようにも『お金がない』と言ってるところに、いきなり高齢者への3万円給付が出てくるってどういうことだ、と。このままだと場当たり的な施策が続くという危機感があった」

    小林氏に同調したのが、若手の中でも存在感のある小泉氏。批判の声は党内に広がり、議論の受け皿として生まれたのが小委員会だった。

    3月にこども保険の創設を提言すると「負担増だ」と反対の声も出た。小泉氏はこの批判にこう答える。

    「社会保険料の個人負担は15%。そこに、子どものために0.1%上乗せしようとすると、負担だと声が出る。高齢者向けだとポンと4000億円の財源がでた2015年とリンクしている。ここが今、日本社会が問われているところだ」

    「負担増」と「不公平」という批判への反論

    こども保険に対しては、負担増という批判以外にも、こどもがいない人も負担をすることへの「不公平」という批判がある。

    小委員会は、次のように説明する。

    まず、負担増について。今回、小委員会がまず提案しているのは、保険料の0.1%上乗せだ。安倍政権下では、雇用保険が2年連続で0.1%ずつ下がった。0.1%増は重い負担ではない、というのが小委員会の考えだ。

    次に「こどもがいない人にとっては不公平」という批判に対しては「そこにこそ、こども保険を訴える意義がある」と反論する。「子どもを社会全体で支える」という価値観を普及するためだという。

    小泉氏はこう訴える。

    「日本を支える社会保障制度の持続可能性が問われる中で、制度を崩壊させないための備え。子どもを社会全体で支えるという国づくりの方向性を示すものです。子どもがいる人、いない人にかかわらず、子どもは国の宝だと」

    確かに、冒頭で記したように少子化がこのまま進めば、社会保障制度は破綻する。子育て支援を拡充し、子どもを増やすことは将来の担い手を増やす。

    村井氏は負担の公平な分配について、3つの層に分けて考えていると説明する。

    一つは、就学前のこどもがいる人たち。つまり、こども保険で直接的な利益を受ける人たち。次に、現役世代で保険料を納めている人たち。この人たちは、自分たちに子どもがいてもいなくても、成長した子どもたちが将来の社会の担い手になるという「間接的な利益」を得られる。

    保険料を納めていない高齢者については、子どもが将来大きくなってから得られる「間接的な利益」が少ないこともあり、負担を求めていない。

    • 就学前の子どもがいる人たち=上乗せで直接的利益
    • 現役世代で保険料を納めている人たち=上乗せで間接的利益
    • 保険料を納めない高齢者=上乗せなし

    この分類は、保険制度の原則である「受益者負担」を意識したものだ。保険料を払う人と、給付で利益を得る受益者が一致すること。こどもがいない人も「間接的な利益」を得るし、その利益が比較的少ない高齢者には上乗せしないことで説明をつけようとしている。

    高齢者に負担を求めないのは、世代間の公平性を目指しているという小委員会の考えにそぐわないのではないか。その点について、「医療介護の改革」が、ある意味での公平な負担に繋がる、と村井氏は説明する。

    つまり、高齢者層に偏っていた福祉を子育て世代にバランスしていくこと自体が、間接的な意味での負担になるという考えだ。

    消費税や国債ではなく、なぜ保険なのか

    こども保険への批判は他にもある。消費増税をすれば良いではないか、との批判だ。「議論がぶつかる消費税から逃げているのではないか」という指摘だ。

    消費税は1%引き上げれば、2兆円超の増収となる。保険料と違って世代を問わずに広く負担することも、公平感に繋がるという指摘もある。

    しかし、財務省出身の村井氏は消費増税論に反対する。「消費税30年の歴史で減税とセットになっていない、いわゆる増税は一度だけ」だという。

    増税が一度だけとは、どういうことか。

    消費税は平成元年(1989年)に3%で導入された。これは個別間接税を一本化したものだった。1997年に5%に上がったときは所得減税とセット。2014年に8%に上がったときだけが「いわゆる増税だった」という意味だ。

    30年以上かけて、いくつもの政権を揺るがす論争を巻き起こしてきた消費税。今から子育て支援の財源を消費増税に求めるのは、時間がかかりすぎると小委員会は考えている。

    国債を発行すればいいという意見もある。子育ては未来への投資。であれば、将来的に返済する借金=国債がいいのではないかという意見だ。小泉氏はこれにも反論する。

    「未来への投資って何にでも言える。農業だって、科学技術だって。どれもこれも国債でやれということが続いたら、日本はどうなるのか。最後に国債を返すのは将来の子どもたち。今の時代の僕らが責任を持たなきゃいけない」

    小泉氏「子どもがいなくても自分ごと」

    小泉氏は結婚しておらず、子供もいない。それが説得力を生むという。

    「こう言えるんです。『俺は子どもいないよ。だけど、こども保険が必要だと訴える。子どもがいようがいまいが、自分ごとなんだよ』」

    子育て支援の活動は、こども保険だけではない。地元での演説会を「0歳からの活動報告会」と名付け、親子で参加できるようした。ベビーカー置き場や塗り絵も準備。「泣いてもいいですよ」とポスターで呼びかけた。

    「今までだったら、政治の場で赤ちゃんが来て泣いたら、うるさいから外に連れてってよみたいな雰囲気があったと思うんです。けれど、僕の報告会はそんな雰囲気ないです。『泣いてもいいって言ってるからね』みたいな。それが全体に対してものすごくいい雰囲気を生む」

    「こういった場づくりを当たり前にして、世の中のあらゆるところが子どもがいて当たり前という環境づくりをすべきだというのが僕のメッセージなんです」

    行く手を阻むシルバー民主主義?

    一方で、高齢者への医療や介護に社会福祉が偏る理由として語られるのが「シルバー民主主義」だ。

    シルバー世代は大票田だ。選挙に当選するためには高齢者への配慮が必要。政治が子育て支援に冷淡で、高齢者福祉に偏るのは、高齢者への忖度ではないかという批判は根強い。

    小泉氏も「それは感じる」という。一方、村井氏は「忖度」とは違った形のシルバー民主主義を指摘する。

    「ほとんどの議員がそうだと思うんですけど、知らず知らずの間に接する人が年配の人が多いんです」

    小泉氏のような有名政治家をのぞき、議員演説会に参加する人は、ほとんどが高齢者だ。自治会や敬老会などで議員がゲストに呼ばれることも多い。

    「高齢者の票を代表しようと意図的に思っているというより、日々の政治活動において高齢者と接触する頻度が非常に高い。人口ピラミッドの話だけじゃなくて、政治風土みたいなのもあると思います」

    政策決定過程のイノベーション

    こども保険を、政府が6月に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に盛り込むべく調整は続く。日経新聞は5月9日、「党内で有力案になってきた」と報じた。

    小泉氏はこの動きを「政策決定過程のイノベーションだ」と誇る。「小委員会で提言し、それを受けて政調会長の下に特命委員会が立ち上がったことは自民党史上初の出来事だと思う」。ボトムアップと言われる所以だ。

    ただ、このような動きが報道されることは少ない。現在の国会の話題の中心は森友学園問題。少子高齢化とその対策は日本にとって喫緊の課題だが、このような政策論争が交わされていることを知る人は少ないだろう。

    何故なのか。村井氏は「政策はなかなかニュースにならない」と語る。

    「一方で、政局はニュースになります。本当に視聴者から求められているかどうかは分からないけれども、求められているという前提でマスメディアの皆さんが動く。結果として、自民党本部の中で議論があることはあまり報道されず、一方、予算委員会での森友学園の議論は大きくなってしまう」

    「政策はニュースにならず、政局はニュースになる」という言葉は、私が新聞記者だった頃から、新聞やテレビの記者たちから何度も聞いてきた。

    首相も巻き込んだ森友学園に関する報道は確かに重要だ。限られた紙面やテレビの報道枠の中で、全てを報じることはできない。結果、地道な政策論争が国民の目に触れることは少ない。そして、政策に興味をもつ機会すら奪われる。

    小泉氏は、厳しくメディアを批判する。

    政治部や経済部、各担当の縦割りのために横断的なテーマに対応できていないのではないか。消費増税に賛成しつつ、新聞に軽減税率の適用を求めるのは筋が通らないのではないか。

    「社会保障の関係でいうと、公平な負担を求めて高齢者の負担増に切り込むと『高齢者負担増 生活は苦しく』という見出しになるでしょう。逆に踏み込まないと『改革停滞 踏み込み不足』になる。あなた方がメディアを通じて世に問いたいメッセージはどっちなんですか、と感じる」