笑顔がなかった安倍首相 日米首脳会談で何が語られたのか

    「全ての時間を割いて、この問題を話した」

    会見は「沖縄」から始まった

    G7伊勢志摩サミット前夜の5月25日、現地で日米首脳会談が開かれた。安倍晋三首相とバラク・オバマ大統領は、何を語り合ったのか。直後の共同記者会見で、安倍首相が真っ先に口にしたのは「沖縄」だった。

    BuzzFeed Japanはホワイトハウスの記者団に登録し、現地で取材した。

    会見場に入ってきた安倍首相とオバマ大統領は左右に並び、まず、安倍首相から会談について説明をした。安倍首相は、いきなり切り出した。

    「まず冒頭、先般、沖縄で発生した事件について、私からオバマ大統領に対し、日本の総理大臣として断固抗議をいたしました。そして少人数の会談では、全ての時間を割いて、この問題についてお話をいたしました」

    安倍首相の表情は硬い。一言一言に力を込めて話す。

    事件がもたらした衝撃

    事件は4月28日夜に発生。うるま市の20歳の女性がウォーキング中に行方不明となり、遺体が発見された。5月19日に逮捕されたのは、元米兵で今も軍属として沖縄に住む32歳のシンザト・ケネフ・フランクリン容疑者だった。

    容疑者は性的暴行と殺害を自供した。沖縄で再び発生した凶悪な事件に、世論は強く反発した。沖縄では来月、事件に抗議する数万人規模の県民大会が計画されている。

    オバマ大統領が現職のアメリカ大統領として、初めて広島を訪問することが発表された間も無く明るみに出た衝撃的な事件。

    共に過去を直視した上で、未来志向の日米関係を築くという友好的な雰囲気がかき消され、安倍首相は強い口調で抗議せざるをえなかった。

    「身勝手で卑劣極まりない犯行に、非常に強い憤りを覚えます。沖縄だけでなく日本全体に大きな衝撃を与えており、こうした日本国民の感情を、オバマ大統領にはしっかりと受け止めてもらいたい、と申し上げました。その上で、実効的な再発防止策の徹底など、厳正な対応を求めました」

    オバマ大統領は安倍首相の厳しい発言を、口を真一文字に結んで神妙に聞いていた。

    日米地位協定の改定は

    安倍首相に続き、オバマ大統領も会談について発言。日米同盟の重要性を強調した上で、事件についても言及した。

    「心の底からの哀悼の気持ちと深い遺憾の意を表明しました。日本の司法制度のもとで捜査がなされるよう、米国は継続的に協力します」

    会場では、日米の記者それぞれ一人ずつが指名され、質問の時間が与えられた。

    最初に指名を受けたのは、NHKの記者。1995年に沖縄で発生した小学生女児に対する米兵による暴行事件に言及し、繰り返される米軍関係者の犯罪への対策を問うた。質問の中心は「安倍首相は日米地位協定の見直しを求めたのか」だった。

    在日米軍について、日本での活動や日米間での対応について定め、1960年に締結された日米地位協定。米軍人・軍属らが犯罪を起こした場合、米側に刑事事件の裁判権が優先されることなどが含まれており、沖縄を中心に見直しを求める声は大きい。

    しかし、首相は「地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」と述べるにとどめた。

    続いて、米側から指名された記者は3つの質問をした。パキスタンでの対タリバン作戦について、中国との関係について、そして、広島訪問について。沖縄に関する質問は出なかった。

    オバマ大統領は記者からの質問にはなかった沖縄について、まず話した。その中で日米地位協定について、改定に否定的な見解を自ら口にした。

    「日米地位協定は、日本の司法体系での完全な捜査や司法に必要な措置を妨げていないことは指摘しておくことは重要だろう」

    会見の最後、二人は握手をした。安倍首相はその瞬間、少しだけ表情を緩めた。しかし、カメラに笑顔を向けることはなく、会場を後にした。

    安倍首相の発言は首相官邸が公開している。オバマ大統領の発言や記者との質疑応答も含めた全文はホワイトハウスが公開している(英語)。