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マナーモードでもシャッター音が鳴る日本のiPhone その起源はあの芸能人

世界的に見ると珍しい、シャッター音の謎

マナーモードでもカメラのシャッター音が鳴るのって、世界的に見ると珍しいって、知っていましたか?

レストランでご飯を写す時、そしてスクリーンショットを撮る時。いちいち「カシャッ」と鳴るのは周りにも迷惑だし、恥ずかしい。iPhoneに限ったことではない。ほとんどのスマホ、ガラケーで音が鳴る。多くの国でシャッター音が消せるのに、日本ではなぜ音が鳴るのだろうか。

Apple日本法人の広報部は、「Appleはどの国でも、その地域の法や慣習を尊重している。シャッター音に関しても、日本の通信事業者の基準に従っている、という状況」とBuzzFeed Newsの取材に答えた。

この「日本の通信事業者の基準」は業界が自主規制として定めたもので、法律や条例のように、公的な拘束力はない。例えば、デジカメは同じような規制がないため、どんなに小さな機種でも、シャッター音を消せるのが普通だ。

BuzzFeed NewsがNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社に尋ねると、自主基準だと認めた上で、この基準について見直す予定は「今のところない」と回答している。

きっかけは田代まさしさん

この自主基準はいつ生まれたのか。話はカメラ付き携帯電話が生まれた2000年にさかのぼる。

撮った写真をすぐにメールで送る。画期的な携帯電話は、当時のJ-Phone(ソフトバンクの前身)から生まれた。

当時、J-フォンで写メールの開発に携わった高尾慶二さんは、BuzzFeed Newsの取材に書面で意外な事実を明かす。

マナーモードでもシャッター音を鳴らすのか鳴らさないのか。悩んでいた時のこと。ある事件報道が飛び込んだ。

「実名を挙げますが、タレントの田代まさし氏が東横線の駅構内にて盗撮で捕まったとの報道が10月4日になされました」

携帯電話が爆発的に普及率を伸ばしていた当時。電車内の通話や歩きながらの利用など、マナーの問題が表面化した時期だった。

「携帯電話にカメラを搭載すれば、必ず盗撮目的に使ってしまう輩が出てくるであろうと想定され、ますます悪評を重ねてしまうことになるとの危機感が高まり、即決即座にマナーモードでもシャッター音を鳴らす仕様に決定し、市場に投入した次第です」

この動きに他社も追従。こうして、日本の携帯電話は、たとえマナーモードであっても、カメラ音が鳴ることになった。この状況は、今でも続いている。

変えるにはどうすればいい?

だが、国際比較して日本が盗撮を含む性犯罪が多いというデータはない。

「いくらでも音を消すアプリがある以上、盗撮をしようとする人の抑止にはならない。それに、デジカメは音を消せますからね。矛盾ですよ」とスマートフォンに詳しいジャーナリストの西田宗千佳さんは指摘する。

変わらないのは、そもそも「音が鳴るのが普通」と多くの人が思い込んでいるからだ。西田さんはこう言う。

「不便だと思いつつ、ユーザー側も当たり前と思っています。事業者側も、今まで『盗撮防止』と言ってきた手前、変える理由がない。世界と比べて特殊、ということに気づいて、ユーザーが声を上げていくほかないと思います」

「シャッター音」の生みの親の高尾さんは現在のこうした状況について、スクリーンショットやレストランで料理を撮る際のシャッター音は必要ない、という立場だ。

だが盗撮防止対策が必要という考えは変わらない。

「歩いている時や、電車に乗っている時、エスカレーターを上っている時など、状況を振動センサーや加速度センサーで判別して、シャッター音を鳴らせばよいと思います。判別できないシーンが新たに明確化されたら、またその状況を認識するためのセンサーは何があるのか、それを考えるのが開発者の役割」

高尾さんはスマホ時代に合った、技術者らしい答えを求めていた。