トランプ氏とロシアめぐる疑惑文書 BuzzFeedによる全文公開とその反応

    元英国情報当局者を名乗る人物が作成した調査文書に、トランプ氏の名誉を傷つける情報をロシアが持っていると書かれていた。調査文書の内容は事実確認がなされておらず、誤った事実も記載されている。

    ロシア政府が長年にわたって、米国のドナルド・トランプ次期大統領に「近づき、支持し、支援している」という内容や、トランプ氏の名誉を傷つけるような情報をロシアが入手しているとの疑惑を記した調査文書が、米国議員、情報当局者、報道関係者の間で出回っている。ただし、内容の真偽は確認されていない。

    数ヵ月間にわたるメモが集められた調査文書には、ロシア政府とトランプ陣営の接触に関する情報が含まれている。また、ロシア側が記録したという性的な行為に関する描写も含まれている。そこに書かれているのは、具体的だが、未証明かつ検証できない可能性もある容疑だ。

    アメリカとヨーロッパのBuzzFeed News記者は、文書に書かれた疑惑を調査してきたが、立証もしくは反証はいまだできていない。

    CNNが1月10日に報じたところによると、この調査文書に関して2ページの概要が、オバマ大統領とトランプ次期大統領の双方に渡された。

    BuzzFeed Newsが調査文書を全文公開

    BuzzFeed Newsは、米国政府の上層部で出回っているトランプ氏にまつわる疑惑に関して、米国民自身が判断できるように、入手した調査文書(35ページ)を全文公開した。

    調査文書は、トランプ氏の反対陣営のために、元英国情報当局者とみられる人物が準備した。調査文書は、事実検証がされていないだけでなく、企業名の綴りなど事実と明らかに異なる記載もある。

    BuzzFeed Newsはトランプ氏の政権移行チームにコメントを求めたが、すぐには応じなかった。トランプ氏の弁護士マイケル・コーエン氏はネットニュースMicの取材には、疑惑は事実と全く異なると否定している。

    トランプ氏「魔女狩りだ!」と猛反発

    調査文書に対して、トランプ氏はTwitterで「フェイク(虚偽)ニュース。政治的な魔女狩りそのものだ!」と猛反発した。

    トランプ氏の側近ケリーアン・コンウェイ氏も、米テレビ局とのインタビューで、疑惑は「何も確認が取れていない」と否定した。また、コンウェイ氏はトランプ氏がこの調査文書に関して、CNNが報じたような報告を受けた事実は「把握していない」と述べた。

    調査文書は、数ヵ月前から出回っていた。米政府上層部、情報諜報員、報道関係者の間では、非常に有名だった。米国の評論雑誌「マザージョーンズ」のライター、デビッド・コーン氏は10月のコラムで、この調査文書に言及している。

    7月以来初めての記者会見では、調査文書を強く批判

    トランプ氏は、7月以来初めての記者会見を11日(現地時間)に開いた。BuzzFeed Newsが公開した調査文書に記された疑惑は「起きていない」と否定した。「フェイク(虚偽)ニュース」「でっち上げ」とも述べた。

    選挙運動の間、トランプ氏もしくは彼の政権チームがロシア当局と接触していたかという質問には、答えなかった。モスクワのホテルルームでの性的な行為に関する疑惑に対しては、海外出張では常に用心していると話した上で「非常に潔癖性だ」と付け加えた。

    トランプ氏、マイク・ペンス次期副大統領と広報担当は、調査文書を全文公開したBuzzFeed Newsを強く非難した。トランプ氏は、公開しなかった他メディアを褒めたたえ、情報機関がこの調査文書を流出させたのだとすれば、当該機関にとって「とてつもなく大きな汚点」だと話した。

    また、トランプ氏は記者会見で、BuzzFeed Newsを真偽が証明されていない調査文書を公開した「クズなゴミの山」と呼んだ。

    調査文書全文を読む前に

    この真偽が検証されていない調査文書に書かれている内容や、文書の公開を巡る主な動きは以下の通り。

    ・ロシア政府は長年にわたって、トランプ氏に「近づき、支持し、支援している」との疑惑が記載されている。

    ・ロシア政府は、トランプ次期大統領に関する不名誉な情報を持っている。トランプ次期大統領陣営の幹部は選挙の数ヵ月前から、ロシアの高官と秘密裏に会合を持っていたと記載されている。

    ・CNNが、2ページにまとめられた概要書が、オバマ大統領とトランプ次期大統領に報告された、と報じた直後、BuzzFeedは、「調査文書の事実検証はされていない」と注意書きをした上で、全35ページの調査文書の全文を公開した。

    ・トランプ次期大統領は疑惑浮上に対して猛反発。「私たちはナチス・ドイツに住んでいるのか」とツイートした。機密文書を漏えいさせてはならないと国の情報機関を叱責した。

    ・トランプ次期大統領は、就任後初となる記者会見を開くまで、約13時間の間に7回ツイート。疑惑を否定するとともに「虚偽ニュースだ」と非難した。

    ・複数のロシア政府関係者が、トランプ氏あるいはトランプ陣営への関与を否定している。ロシアの連邦保安庁(FSB)の元幹部は、オバマ政権が「大統領選の勝者を全力で傷つけている」と、ロシアの通信社インタファクス通信に話した。

    ・重要人物の一人であるトランプ氏の弁護士マイケル・コーエン氏は、ロシア政府との関係を否定している。BuzzFeedが入手した調査文書には、コーエン氏は8月、チェコの首都プラハを訪れ、ロシアの関係者と密かに会ったと書かれている。

    ・コーエン氏はプラハ訪問を全否定。米雑誌「アトランティック」のインタビューで、調査文書は「完全な偽物で、不正確だ」と話した。The Washingtonianの報道によると、南カリフォルニア大学の職員が、「コーエン氏は8月23日から29日の期間、ロサンゼルス・キャンパスを訪問していた」と証言している。

    ・調査文書は、コーエン氏がプラハを訪問したとされる具体的な日付について、言及していない。コーエン氏のTwitterを分析すると、8月の大半を米国内で過ごしていた可能性がある。Twitterの投稿がない最長期間は、8月15日、16日の2日間。

    ・少なくとも1人の民主党幹部が、疑惑の調査実施を求めた。ディック・ダービン上院議員は、議会または特別委員会による調査が必要との見方を示した。

    ・ダービン上院議員は声明で、機密指定された文書とそうでない文書の両方を、調査文書の存在が報道される以前に読んだと発表。次期司法長官に指名されたジェフ・セッションズ上院議員の聴問会で、この疑惑について追及するかは明らかでない。

    ・トランプ支持者は、米国のネット掲示板などで、調査文書に関して誤った情報を拡散するキャンペーンを始めた。トランプ支持者は、調査文書は完全なる捏造で、共和党の戦略官リック・ウィルソン氏にも昨年報告されたと主張。ウィルソン氏は情報の流出元であることを否定している。

    ・複数のジャーナリストは、調査文書公開に踏み切ったBuzzFeed Newsの決断を批判した。メディア研究機関ポインターのケリー・マックブライド氏は、「文書の全文公開はジャーナリズムではない」と話した上で、BuzzFeed Newsは、詳細に事実検証し、読者に対してその検証の過程を説明することもできたはずだ、との見解を示した。

    ・トランプ氏支持者で保守的なラジオ番組の司会者、ローラ・イングラハム氏は、ニュースサイトlifezette.comの記事で、調査文書の公開を「ジャーナリズム倫理の驚くべき崩壊」と表現した。トランプ次期大統領は、この記事をTwitterで#FakeNewsのタグをつけて引用した。

    ・アメリカの非営利報道機関プロパブリカのリチャード・トフェル氏はTwitterで「市民は自身で判断するために証拠が必要だ」とBuzzFeedの決断を援護した。

    ・調査文書を作成したとされるクリストファー・スティール氏の職歴をよく知る人物によると、彼は元英国情報当局者だった。ロイター通信が報じた。情報活動が主な任務の英国情報局秘密情報部(MI-6)で数年働いていた。ロシア、パリ、ロンドンのイギリス外務省で働いていたという。MI-6を離れてからはFBIにFIFAの汚職に関する情報提供をしていた。

    全文はこちら:

    以下は、真偽の確認が取れていない調査文書の全文公開に踏み切った理由についての、BuzzFeed編集長ベン・スミスによる説明(英語)です。一部を翻訳しました。

    説明の主な内容:

    公開した調査文書は、ケン・ベンシンガー記者が熱心な取材をした結果、手に入れたものです。記事にもあるように、私たちは「トランプ次期大統領にまつわる疑惑に関して、米国民自身が判断できるように、調査文書を公開する」と決めました。

    この決断はジャーナリズムにおける透明性を担保し、持っている情報は読者に提供するという前提に基づいています。可能なかぎり情報を共有する姿勢を保ってきました。今回の調査文書はすでに、アメリカ政府高官や報道関係者の間で広く出回っています。

    記事にも書きましたが、この疑惑に対して問いを投げかけるべき、深刻な理由があります。私たちは、この調査文書に書かれた主張に関して、数週間取材を続けてきました。この取材はこれからも継続します。

    調査文書の公開を決断することは、簡単で単純なものではありませんでした。私たちの選択に賛成されない方もいると思います。しかし、この調査文書の公開は、2017年における記者の仕事とは何か、ということに関するBuzzFeedの考えを反映したものです。


    Here's the note I sent to @buzzfeednews staff this evening

    この記事は、BuzzFeed Japanの鈴木貫太郎と山光瑛美が英語から翻訳・編集し、古田大輔が監修しました。