トランプ政権誕生の反動?ハードコア・パンクの聖地にエネルギーが満ちる

    80年代再び

    トランプ大統領が誕生した1月20日の週末、共和党支持者や極右派など、あらゆる保守派の人々が、ホテルやレストランでパーティーを開催していた。その一方で、また別のタイプの就任パーティーも行なわれていた。

    このパーティーの出席者は、ロングドレスやタキシードなんて着ない。彼らが身に付けていたのは、破れたジーンズにデニムベスト、履き古したブーツに「Nazi Trump Fuck Off!(ナチス、トランプ、くたばれ!)」と書かれたTシャツ。パーティー会場となったのは、路上や公園、そして2016年大統領選挙での陰謀論「ピザゲート」の場となった小さなピザ店、コメット・ピンポンだ。

    ワシントンDCの街中にある公園、フランクリンスクエアや、コメット・ピンポンの汗臭いカオスな空間は、1980年代のDCを生きた者にとっては、馴染みのある雰囲気だっただろう。1980年代は、この国が共和党を強く支持した時代だ。ロナルド・レーガン大統領もトランプ大統領も、白人サイレント・マジョリティ層の怒りを利用し、政治運動だけに止まらない、現状への不満を表現する文化的現象ともいえる社会運動を引き起こした。

    そんな1980年代、DCパンクシーンは活気に満ちていた。そこで生み出された音はパンクのみならず、ヒップホップやロック全般にまで影響を与えた。Bad Brains、Minor Threat、Government Issue、元ニルヴァーナのデイヴ・グロールも在籍したScreamなどのバンドを生み出した。

    2017年1月。今を生きるパンクな奴らが、新しい大統領のど元に「ファック・ユー」の言葉を突きつけた。35年前、80年代のDCに生きたハードコアな奴らと同じように。

    「この曲は奴隷を歌っている。奴隷制なんて最悪だ、だから、みんなでぶちこわすんだ」。就任式翌日の土曜日、ステージの上で無表情のままそう語ったのは、ハードコアパンクバンド、Bust Offのヴォーカル、Rael Griffin。

    フランクリンスクエアに集まったのは、150人ほどのパンクス、デモ参加者、ホームレスなど。ディズニーキャラのモアナが描かれた風船を腕に巻いた小さな女の子もいた。ステージから煽られるにつれ、観衆のテンションも上がっていった。

    5人組バンドBust Offは、素早くかつ激しく観衆を煽った。DCのダウンタウンにある交通量の多い交差点を若いエネルギーで満たした。Griffinは観衆の拳を突き上げさせるよう飛び跳ね、マイクに向かって叫んだ。

    Bust Offのスタイルは、かつてのDCハードコアシーンを再現したかのようだった。痩せぎすで扱いづらい若者が会場を占拠していた。「俺らみんな痩せてるよ。Madball(80年代のパンクバンド)とは全然違うから」とジョークまじりに語るGriffinは、子どもの頃からパンクを聴いていたという。そして、自身とパンクの歴史についてこう語る。「俺がたぶん4歳くらいの頃、親父がRamonesをかけてくれて、すごく気に入った。映画『Shrek』でJoan Jett and the Blackheartsの『Bad Reputation』が流れた時、これ、親父が昔かけてた曲だ!って思った」

    トランプ大統領を生んだ選挙結果が、パンクとハードコアのシーンにエネルギーを注いだというのが、Griffinの主張だ。曰く、音楽と政治は「シンデレラとガラスの靴みたいなもの。セットになっている。政治がひどい状況にあれば、パンクロックやヒップホップ、ハードコアも、フォークも、音楽が盛り上がるのは自然な流れ。今はルネサンスのリバイバル中だよ」

    Griffinとメンバー達は、フランクリンスクエアの反就任式プロテストの二夜目で演奏した。その前日には、The Screwsがプレイし、公園周辺では警察とアナーキストが対立していた。

    「よくあることだ」と、The Screwsのリーダー、Irieは、暴走するアナーキストのために演奏したことをジョークまじりに語った。

    ハードコアはDCで生まれた。その背景にあるのは、60年代70年代のヒッピーカウンターカルチャーだけではない。ベビーブーム生まれの若者たちによる、80年代アメリカをの自己中心的文化への反動もある。変化し続けるアメリカ社会の中で、自身の居場所を見失ったちょっと変わった若者達が(その多くは楽器なんて触ったこともなかったのだが)、不満のはけ口としてバンドを始めたのだ。

    プレイヤーは違っても、今回の大統領選は80年代と似た空気の中で起きた。あの時と同じくらい、今、再びアメリカ国内で人種間の緊張が高まっている。明るいポップな曲がメジャーな音楽シーンを席巻し、政治的対立は深まるばかりだ。

    大統領就任式後の週末、いつもは家族連れが集うピザ店であるコメット・ピンポンでも、抗議集会が開かれていた。民主党が関わる児童買春組織の拠点だと極右派の人々が主張し、銃撃事件まで起きたからだ。

    抗議集会ライブにはハードコアのバンドのLoud Boyzのほか、Minor Threat、Burning Airlines、Government Issueなどのメンバーが参加するDCのスーパーパンクバンド、FoxHall Stacksが出演した。オーガナイズしたのは、メタルとビョークを掛け合わせたような音が特徴のバンド、We Were Black Clouds。この日のライブは、コメット・ピンポンへのサポートと、トランプ大統領反対を掲げていた。

    Loud Boyzがステージにあがる頃には、ピザ店内は裏口まで人が溢れる状態になっていた。Loud Boyzは、元々はパーティームードが強い曲を歌っていたバンドだが、ここ数年はより深刻な問題にフォーカスをあててた曲を披露している。

    「詞を書き始めた頃は、くだらなくて面白いことばかり書いてた。でも、俺が歌いたいのはこれじゃないと思った。もっと言わなきゃならないことがある、ってメンバーと話したんだ」そう語るのは、バンドのリードシンガー、Brandon Brown。

    「パリピな曲から、黒人青年を歌ったThe Badgeみたいな曲にシフトしていくのは、シーンが成長してきているからだと思う」

    DCハードコアシーンに身をおくものならば、ハードコア誕生の地の1つでもあるこの街の歴史をよくわかっている。同時に、アメリカにおける政治的パワーの存在も。

    DCの街にとって、活気あるパンクシーンの重要性は歴史からも明らかだとBust OffのGriffinは語る。「どの州に行っても、Bad Brainsの話で盛り上がる。Minor Threat、Black Flag、Dag Nastyの話でも盛り上がる。どのバンドも、その後のパンクシーンの基礎になっているバンドだ。DCは、パンクロック界にとって重要な意味を持つ街なんだ」

    Loud BoyzのBrownは、「パンクにとってはいい流れ。ただ、世界にとっては悪い流れだ。それを忘れちゃいけない」と語った。「皮肉な歌詞を書いたり、ネットミームをシェアしてぼんやりしている場合じゃない。何か行動に起こさなくちゃいけないんだ」



    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:SOKO、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan